⚡️兄弟AIロボの激突と五次元スターウォーズ ⭐️星雲ジャスティス三姫伝説(整形外科医南埜正五郎追悼作品)

南埜純一

第1話 コラップス(宇宙圧壊)①グリリス共和国編

無限の宇宙に、光り散りばむ無数の銀河。各銀河には気の遠くなる数の恒星が集(つど)い、一つ一つの恒星には多くの惑星が従う。


このように、満天の星空を見渡せば、瞳に映らない数え切れない惑星が息づくが、ここに始まる物語は、各恒星群を巡る惑星間で生まれた―――小さな生命体に関する物語である。


歴史的には、対抗する生命体の闘争物語は大抵、勢力のせめぎあいが現象面に表出して物語の主流をなすが、対抗の深部は生命体の根幹にかかわる闘争であることに留意して、広大な宇宙が舞台のロマンと星雲バトルを追ってみたい。


さて、これから始まる物語における対抗勢力を単純化し、容易に姿を見せない不気味な存在をひとまず無視することによって、敢えて対抗勢力を二つに分類するなら、一つは、統一的な全宇宙の支配を企む独裁軍で、これに対抗するのが個の自由を志向する連邦軍である。この連邦軍は自由、平和、博愛の旗じるしに結集した国家や民族それに入りきれない個人によって構成され、悪への強い抵抗と正義の絆で結ばれていた。


独裁軍と連邦軍の争いは果てしない宇宙の様々な星雲で繰り広げられ、服従を伴う完全支配を目論む独裁軍への反抗は、虐げられた人々の解放を合言葉に―――連邦軍によって活発なレジスタンス活動が展開されつつあった。


宇宙の中心―――実は現在の宇宙科学では宇宙の中心なる概念は否定されているのだが、ビッグバン説が正しいと仮定して、そのビッグバンの起点をここでは宇宙の中心と呼ぶなら、その宇宙の中心から遠く離れた天の川銀河。その直径およそ10万光年の銀河の核から2万5千光年の距離を置く、太陽と呼ばれる小さな恒星とそれを巡る10個余りの惑星の一つ―――緑のアースで、独裁軍と連邦軍のバトルが今まさに起ころうとしていた。


「ペック提督、最近とみに提督の耳を煩わせる太陽系の中の三番惑星・アース。その中の海洋国グリリスで起こっている独裁軍の侵略実験は、全宇宙のコラップス(圧壊)をもたらす危険があり、放置できないことであります。早急に手立てを講じなければ、太陽系はおろか銀河系外にまで独裁軍の侵略結果が及び、全宇宙はダークマター、さよう、独裁軍とパラレルというか独裁軍そのものがもたらされるのであります」


情報担当ボンド中佐のペック提督への朝一(あさいち)ブリーフィング。連邦軍統一宇宙時間である午前九時キッカリの簡単な定時報告、のはずが、やはり今朝も重い内容の報告になってしまった。ハンサムでスマートかつダンディこの上ないボンド中佐が、長身を包むキートンのスーツさながら重厚な提言を頭髪の枯れゆく提督に送る。


事実上の宇宙共通言語ユニガリンを使わず、ボンドが提督の母国グレゴリー星の標準語ハリッド語を使ったのは、含むものがあってのことだった。いずれにしても中身を語る彫りの深いインテリジェントな面立ちには、バリトンの響きそのままの確信が表れていた。


「ボンド君、また今朝もアースに関してかね。君がやけにアースにこだわるのは、恋人ダニエラがアースの連邦軍基地パリ支局勤務に関係しているからじゃないのか。かの、快楽と頽廃ただようパリー。身も心もとろけさせる恋と花の都パリー。権謀と術策が渦巻くそのパリーから、かつて彼女が送った意味不明暗号レター【ロシアより愛をこめて】。この恋文を装う怪しげなレターによって、連邦軍がどれほどの混乱に陥ったか忘れた訳ではあるまい」


ボンドの期待も虚しく、タヌキおやじの薄禿げ頭からロシアンレターは消え去ってはいなかった。旗艦空母ギャラクシーの作戦ヘッドエリア内を歩きながら、ペック提督は部下の提言にうんざりの顔で応えたのだ。彼の視線の先、目の前の360インチスクリーンには銀河の彼方、アースのグリリス共和国が躍り上がっている。


「ダニエラとはとっくに別れていて、今言われて初めて思い出しましたよ。オードリー夫人が提督の物忘れを嘆いていましたが、とんでもない。今も抜群の記憶力だと、夫人にお伝えしましょう。それからこれも古い話ですが、暗号レター【ロシアより愛をこめて】の混乱は、提督の甥御(おいご)のロナルド中尉が自分への恋文と早とちった誤訳分析の結果であって、査問委員会でとっくに決着がついていると記憶していますが」


ボンド中佐は提督の嫌味にも慌てる事なく、自信たっぷりの笑顔とバリトンで提督を揶揄(やゆ)したのだった。


「分かった。分かったから、グリリス共和国で行われようとしている独裁軍の侵略実験とやらを聞こうじゃないか」


提督は苦虫をかみつぶす仕草を浮かべると、右手の先を振って部下の次の批判の言葉をさえぎり、本題へ入るよう促す。査問の結果、可愛がっていた甥が少尉に降格され、さいはての惑星スノードンでゴミ処理業務についているのは思い出したくもないのだ。


「それではお言葉に甘えて事実報告と、対応策といいますか、我が連邦軍にとって最良と思われる戦略をお伝えします」


ボンドが収集した情報によれば、グリリス共和国は国の存亡にかかわる多額の債務超過に陥っており、もっぱらの原因はガバメントオフィシャル、すなわち公務員の採用過多による給与支出が、かの国の観光収入をはるかに上回る結果によってもたらされた財政危機であった。


「ちょっと待ちたまえ、ボンド君。それは幼稚な、小学生レベルの算術計算で解き明かされる問題であり、グリリス共和国での公務員採用を絞れば簡単に解決する問題ではないか。余りに幼稚すぎて朝一ブリーフィングで語ることすら恥ずかしい。そもそも我らが敵、独裁軍の影が一体どこにあるというのかね」


事実報告のさわりで、提督はボンドの提言を却下してしまった。


「いや提督。真っ黒い影がグリリス国をなめ尽くさんばかりであることは、以下の報告で明らかであります。つまり表面上はそれほどとは思われないのに、かの国は独裁軍の傀儡(かいらい)チャン共和国とその属国コリン国に骨の髄まで食い尽くされていて、その現実を漸く国民が知るようになり抵抗の構えを見せ始めたところ、チャン国が恐るべき攻撃作戦を練っていることが分かったのです」


ボンドは提督の注意を引くべく、大画面の一点をクローズアップする。と、原子炉建屋とその背後の不可解な建造物が提督の目に飛び込んで来る。


「おっと、何だ! あの原子力発電所の山側に控える、妙な突起物は? 豊臣秀吉の一夜城の如き不気味さで、徐々に盛り上がりつつあるではないか!」


提督の趣味はヤーポンの戦国時代ゲームなのだ。さすがに分析は鋭く、戦国武将の名と得意技の指摘も的を射たものだった。


「分かって戴けましたか。あの工作物こそグリリス国と国民に止めを刺すべく造られた、チャン国とコリン国の恐怖部隊収容の原子炉破壊要塞バナロンの砦であります」


「何と! しかし何故、中海海(なかうみかい)に臨む風光明媚(めいび)なゲーエ海沿岸に、危険極まりない原発などを作ったのかね。汚染水が中海海に流れ込んだりしたら、妻オードリーの好きな中海海マグロも汚染され、食の楽しみがなくなるではないか」


「確かにその通りです。電力不足を補うためとのチャン国の甘言に釣られ造った原発ですが、この完成した原発によってグリリス国が壊滅的被害を受けるのは、ツナミ被害でヤーポンが受けたトウデン原発事故で明らかであります」


「すると何かね。独裁軍傀儡チャン国が、原発破壊を脅し道具にグリリス共和国を完全支配下に置こうとしているというのかね」


さすがに提督は理解が速く、バナロンの砦から独裁軍の意図を読み取ってしまった。


「その通りです。既に港湾施設は買い占められ長期に渡る独占的港湾利用権も設定されているので、観光産業まで壊滅的打撃を受ける原発破壊工作完了で独裁軍の完全支配が確立し、国民は奴隷の地位に安住せねばならぬことは火を見るより明らかです」


「何と間抜けたことに! グリリス共和国の大統領は誰だったかね。一体何をしていたのだ」


「チッチプロス大統領ですが、彼は大統領就任以来、諸外国への債務返済に忙殺されていて、国の最重要拠点がチャン国に乗っ取られる寸前という事態に漸く気づき愕然としているようです」


「で、現状のくわしい戦況分析はどうなっているのかね」


「ええ、近々バナロンの砦へ送り込まれるアマゾネス族の精鋭コマンドー軍団、彼女らの到着で一気に原発への破壊工作が進み、グリリス共和国の植民地化が完了すると思われます」


「それは由々しき事態ではないか。早急に何とかせねばならないが、そもそもアマゾネス族にコマンドー軍団とは一体、何者かね」


「アマゾネス族はチャン国とコリン国の国境地帯に生息する女族の一派で、その中で特に美貌と戦闘能力にたけた戦士がコマンドー軍団に入ることが許されるようです。両国の国境地帯は夏でも気温零度に近い山岳地域ですが、彼女らは衣類や武具を纏(まと)わず、ほぼ全裸に近い状態での訓練に耐え得る高い戦闘能力の持ち主であるとの報告が入っております」


「何と! それはとんでもない強敵ではないか」


提督はニンマリと鼻の下を伸ばしたが、恐らく若い戦士時代であれば、率先して遠征隊に志願したであろう。もっともその時に派遣されていれば、今ごろはアマゾネス族領内の―――骨と皮だけの男どもが住まうという老化池。そこの住人しわがれアメンボウになっていることは想像に難くなかった。そう、提督は真っ先に彼女らの恐怖秘技―――子種絞りの術にかかって、一気に百年の歳を刻むタソガレあさって老人になることは明らかだからだ。


「そうです。恐るべき強敵だからこそ、早急に対策を講じなければならない案件なのです」


提督が老化池の住人になっていれば、ボンドは部下として仕えることも無かったのにと、一瞬脳裏を過ったが、案件の緊急性からボンドは本題へ提督を導いたのだった。


「で、いま現在、グリリス共和国での強力な抵抗勢力は存在しないのかね」


「現在、一番強力にレジスタンス活動を行っているのは、ヤーポンへの留学経験のある二人の兄妹で、名門オリンポス家に生まれ育ったヤーポン人とのハーフであります。兄はアポロン真田で、妹はヘスティア(ヘス)真田です。どうぞ、これを」


ボンドは左手のバインダーから、二人の写真入りクリアファイルを取り出し提督に手渡す。


「オリンポス家はネアテ市街を見おろす高台に、城のような白亜の邸宅を構える古くからの貴族です。グリリスの独立を尊びグリリス神話に基づく神々を崇めるアポロンとヘスの二人は、オリンポス家に伝わる武技と聡明な頭脳それに部下たちの手助けを得て、必死にゲリラ活動を展開していますが、何といっても多勢に無勢で、戦況は日に日に劣勢の一途を辿っている有り様です。ここへアマゾネス族の最強軍団コマンドーが到着すると、恐らく一たまりもないでしょう」


「それはイカンではないか。もちろん君のことだ。形勢をひっくり返すサプライズ提案があってブリーフィングに臨んでいることだろう。もったいぶらずにさっさと披露してくれないか」


「それではお言葉に甘え申し上げますと、ヤーポンから助っ人を送り込んで、アポロン・ヘス兄妹との強力タッグを組ませ、強敵コマンドー軍団を叩き潰すのです。いや失礼。少々熱くなってしまい、叩き潰すなどという品のない表現を使いましたが、ご容赦を」


「何の、私だってむかっ腹が立つくらい熱くなっているよ。オードリーと避暑に訪れたグリリス共和国のゲーエ海、その砂浜が汚い独裁軍の手先にけがされようとしているなんて堪えられんからね。で、助っ人の人選は既に完了しているんだろ。早く教えてくれないか」


「ええ好都合なことに、昨年アポロンとヘスがヤーポンへ留学した折に恋仲になった姉弟がおりまして、姉は神之道テラス(照)、弟は神之道タケル(尊)で、二人はヤーポンのトウキョウ台東区にある神之道神社の住人であります。二人の両親は亡くなっているのですが、代わって祖父が彼らを育て現在に至っています」


ボンドは再びここで言葉を切って、バインダーのもう一点のクリアファイルからB5版の写真を取り出し、提督に手渡して説明を続ける。


「さて、その祖父ですが、お渡しした写真にあるのが最近の容姿で、若く見えますが、年齢は百歳に近いとの噂ある老人です。彼は神之道家に伝わる武術に長けた、信じられないほどの若さ溢れる人物で、多くの武勇伝がヤーポンはおろか連邦軍にまで轟(とどろ)いています。姉弟は彼のことをジイジと呼んでいて、幼少時より武術の伝授を受け、兵法と何故か宇宙物理学の修得にも励んでいます。取り敢えずはこの特殊能力を持つ三人をアポロンとヘス支援のためにグリリスへ送り込みたいと考えております」


「いいとも、緊急事態ゆえ早急に処理したまえ」


 提督の了承で、ギャラクシーでの朝一ブリーフィングが終わり、ボンド中佐はすぐさま作戦に取り掛かった。

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