第4話 あれから一週間の時間が流れて……。
《琴音》
七瀬さんと一緒に屋上で過ごすようになってから一週間がたった。
「…………。」
「…………。」
相変わらず会話がないけども……。
(けど……、こうやってゆっくりするのもいいなぁ〜。)
七瀬さんは私の横で静かに読書をしている。
いつも慌ただしく流れる時間が、ここではゆっくり流れていく。
(考えたことも無かったぁ〜。)
白い雲たちがゆっくり流れていく。
私はその空をただ目的もなく眺めているだけ。
「ぁ……。」
青空にきらめく飛行機が青空に飛行機雲で線を描く。
それに遮るものがない太陽と暖かい陽気で……。
心地よくて……。
眠気が……。
《琴音》→《仄華》
市ノ瀬さんと一緒に屋上で昼食をとるようになってから一週間が過ぎた……。
「…………。」
「…………。」
相変わらず会話がない……。
私自身が苦手なのもあるが、市ノ瀬さんも似たような感じなのは少し意外だった。
《+》
私はこの屋上で読書をしながらゆっくり過ごす。
高校生になってからの日課だ。
この静かな箱庭を見つけてから私は毎日昼の一時間。
長くて短い静寂な時間。
私にとっても大切な時間。
そんな静寂な箱庭に一人のお客様が来た。
そう市ノ瀬琴音さん。
唐突にやってきてはパンを食べて帰った少しおかしい人。
幻滅した言えばしたが……。
(思ってたよりも普通の人だったな。)
流石に一週間も一緒に過ごせば、人なりは解像度が高くなっていく。
一重に市ノ瀬さんはだいぶ天然で変態である。
言動にはたどたどしさが出るし、推しを目の前にしてちょっと重い目線向けてくるし。
それに、ちょくちょくトラブルに突っかかる。
(寄せばいいのに、このお人好しは……。)
まあそこが好きなところなのだが……。
《+》
今日も青空のキャンバスに飛行機が筆をなぞる。
青い青い空に描かれる白い長い線の雲。
私は静かに流れるこの空を眺めるのが大好きだ。
コトンと肩に少し重みがのしかかる。
視線を向けると市ノ瀬さんが私に寄りかかって寝ていた。
「すぅ……。すぅ……。」
(かわいい寝顔。)
思わず柔らかそうなそのほっぺをついに突っついてしまった。
「ん……んっ……。」
突っつきに反応する市ノ瀬さんがかわいい……。
いや、本当に。
(あと二十分かぁ……。)
魔法が解ける鐘までの残り時間。
いつもは長く感じる時間……。
だけど……。
「どうか、この時間が続きますように……。」
声にならない小声で私は叶わぬ願いを口にした……。
わかってはいる。
また『明日』があるのだから……。
それでも……、私は……。
《仄華》→《琴音》
あれから私の意識は深く沈みこんで、覚醒したのは柔らかいなにかの上だった……。
「あ……、おはよう。」
「お……おはよう……ございます……。」
目が覚めて顔を空に向けると、そこには七瀬さんの胸と本とかわいい顔があった……。
(んっ!?。)
どうやら私は七瀬さんの膝枕を堪能しているらしく、その唐突な情報量にしばらく固まっていた……。
「ご……、ごめんなさい……。」
「ん……、別にいいよ。」
何事もなかったような顔で返答する七瀬さんの言葉が、余計に恥ずかしさを助長させた。
(見られた……。絶対見られた……、私の寝顔……。)
そして、表情が変動しない七瀬さんの顔が結構くる。
状況を理解した上でくる羞恥心は私の身体を激しく沸騰させてくる。
「市ノ瀬さん……?。」
「何、七瀬さん……。」
「そろそろ時間……。」
「あっ……。」
七瀬さんはご丁寧に腕に付けてる時計を指さす。
時間はもうすぐ昼休みが終わるチャイムがなるところまで迫っていた……。
(やってしまった……。)
改めて状況を理解した私は急いで弁当を片ずける。
貴重な時間の約半分を台無しにしてしまったショックで半ば放心状態のまま作業をしていた。
「市ノ瀬さん。」
「えっ……。」
チュッ……、とほっぺに伝わる柔らかい感触……。
「かわいい寝顔のお礼……。」
ほっぺの感触と同じ側の耳元に囁かれる衝撃的な言葉……。
「七瀬さんそれって……。」
小悪魔的な微笑みをして振り向き、七瀬さんは屋上を出ていった……。
「えっ……、嘘……、マジで……。」
ほっぺに残る感触を撫でように噛み締めながら、終わりを告げるチャイムとともに私は現実に引き戻された。
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