返信 「フタヒロくん人形はキラキラ仕様で頼む」

 ご主人様はさっきから、腕組みをしながらうんうんうなっている。オリバーデリバーが二度ほど羽繕いを終えても、まだ、うなっている。


オリバーデリバーは、ご主人様の行動に既視感を覚えて、内心ひやりとした。


「うーん。どうするべきか……」


? ご主人様の声にオリバーデリバーは首をかしげた。

よく見れば、ご主人様の前にはなんやら文字が浮かんでいる。オリバーデリバーは文字を読むことができない。だから何が書かれているのかわからない。オリバーデリバーは、自分の悪口が書かれていないことを祈って、小さく「クァ」っと鳴いた。


「ん? ああ、オリバーデリバーか。いたのか」

「クア?」


 オリバーデリバーは、これは何かと問うように、浮かんでいる文字をつつく真似をした。


「ああ、これか? これはな、電波のトラブルかなにかで、現世の無料Webセミナーの案内が、わしの通信機器に紛れ込んできたのじゃ。まあ、ある意味トラブルじゃな。トラブル、間違いということじゃ」


 自分のことではなかったと安心したオリバーデリバーは、浮かんでいる文字に対する興味を失って、羽繕いを始めた。でも、ご主人様はまだうんうんうなっている。


「防災グッズの備蓄と大災害への備えに関するセミナーか。まあ、この空間が大災害にあうことはないはずじゃが………………、いや、『ないはず』という考えは慢心じゃった。オリバーデリバーは術以外ではここから出れないはずという『ないはず』も破られてしまったからのぉ……」


 オリバーデリバーと呼ばれて、オリバーデリバーは首をあげた。


「なになに……、参加すべきは、水中での活動限界が10時間以下のもの、落雷の衝撃を緩和する技術のないもの、死ねば異世界転生できると勘違いしているものとな。死ななくても異世界に行くことはできるが、わしは水の中にいたことがない。それに、電流から身を守る術はない。うん? …………、この通信はトラブルではなく、わしに参加を促すためにわざと送ってきたものか? ならば、参加しなくてはならぬ」


 ご主人様が片方の口角をあげてオリバーデリバーを見た。ご主人様の視線に気がついたオリバーデリバーは顔を上げた。ご主人様の口がにまぁっと広がる。


「それに、フタヒロくん人形も必要じゃからな」

「フタヒロ?」

「そうじゃ。フタヒロくん人形と言えば、現世では大人気の人形で、その声は神々しく、キラキラまばゆい光を放っておる人形だという噂だからの」

「キラキラ!」

「そうじゃ。お前の好きなキラキラじゃ。オリバーデリバーとわしの分を買っても一人分の金額ですむというのはよい知らせじゃ。よしよし、返信を書くことにするかの」


*******


メルマガ担当のエンジェルちゃんさま


こんにちは!

オリバーデリバーです!

暖かい日が続いていますが、いかがお過ごしでしょうか。

セミナーに参加します。


ぼくわ、水の中にいることも雷をよけることもできんのじゃ。

大災害がきたらたいへんじゃから、セミナーにさんかする。

これが理由じゃ。


フタヒロくん人形は2つ(^o^)/(^o^)/

よろしく♡


追伸:フタヒロくん人形はキラキラ仕様で頼む


*+:;;:+*+:;;:+*+:;;:+*+:;;:+*+:;;:+*+:;;:+*+:;;:+*+:;;:+*+:;;:+*


           have a nice day!


*******


「返事は、こんなもんじゃろ」というと、今まで浮かんでいた文字を消した。

返事という言葉をきいて、オリバーデリバーは、張り切って、ご主人様の前に立った。


「ヘンジ!! フタヒロキラキラクレ!」

「ん? オリバーデリバー、お前、何か勘違いしておる。返事は電気信号で送ったから持っていく必要はない。つまり、お前の出番はないのじゃ。それに、フタヒロ人形はセミナーに行かないともらえないのじゃぞ?」


 返事を持っていかなくていい??

 フタヒロ人形はもらえない??


 オリバーデリバーは首をひねってきょとんとした。ご主人様がなぐさめるように、ぽんぽんとオリバーデリバーの羽を叩いた。そして、顔を少し上にむけて、うーんと悩んでいたかと思うと、「あっそうじゃった」と口角をあげた。


「………………ああ、そうそう、オリバーデリバー。セミナーにはお前の名前で申し込んでおいたから、セミナー参加、よろしく♡」


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