返信 「愛をたくさん込めて返事を書くよ」
オリバーデリバーは内心ひやひやしていた。
普段なら、ご主人様は、『ポスト』とご主人様が呼んでいるキラキラした大きな透明な球から手紙ととりだして、オリバーデリバーに術をかける。その術は、オリバーデリバーがひとたび飛び上がれば、手紙の送り先にたどり着くことができるというもの。
しかし、さっきから、ご主人様は術をかけずに、腕組みをしながらうんうんうなっている。オリバーデリバーが二度ほど羽繕いを終えても、まだ、うなっている。
「クァァ」
オリバーデリバーは内心、汗ダラダラだったけど、ご主人様に『はやく術をかけろ』と催促の声をあげた。しかし、ご主人様はそれを完全に無視。
「…………、この手紙がここにある理由がわからんのじゃ。このポストに投函される手紙は、届けることが困難な手紙。じゃが、この手紙は妻から夫へのごく普通の手紙にみえる。……、もしかして、この手紙に特別な術でもかかっているのか………」
ご主人様は難しい顔をして、紙を上にあげたり、下からのぞいたりする。
「…………、『ほんでな、ガリツマちゃんは、見た目『ひょっこりはん』にクリソツねんな! 分かるやろ!?』、とあるから、この、ガリツマちゃんとよばれるものはぬらりひょんなのか? そして、それがばれて、行動を尾行して正体を見極めろという指令書なのか? ぬらりひょんは、ひょっこり現れるから、………………………ん? ………………………」
ご主人様が手紙から視線を外してオリバーデリバーを見た。
オリバーデリバーは思わず視線を右、左、とキョロキョロさせる。ご主人様がじぃーっとオリバーデリバーを見る。せっかく羽繕いしたというのに、羽がきゅうっと縮こまっていく。
「オリバーデリバー」とご主人様がいつも以上に優しい声でオリバーデリバーの名前を呼ぶ。オリバーデリバーは、慌てて羽を広げようと翼に力をいれた。
「まて」
羽を広げるよりも早く、ご主人様がオリバーデリバーを押さえつけて、首にかかっている黄色いバックを取り上げた。
「………、オリバーデリバー、このキラキラはなんじゃ?」
「クァ?」
「なんじゃときいておる。人界のビーズボールペンというものじゃろ? まだ、手紙を届けていないのに何故待っとる?」
「クァ? キラキラ? ………………キラキラ!!」
オリバーデリバーはすっとぼけたような声をあげた。しかし、目が泳いでしまったことは、すでにご主人様にバレていた。
「お前……もしかしなくても、勝手に人界に行って、勝手に手紙をとってきて、まずいと思ってあわてて『ポスト』に放り込んだのか?」
「…………キラキラ、テガミ、……キラキラ、テガミ…………」
「ばかもん!!!!」
ご主人様が乱暴にオリバーデリバーのかばんに手紙をいれた。
「すぐに元の場所にもどしてこい!!!!!!」
オリバーデリバーは「クァ」と小さく鳴くと、羽をひろげて飛び立った。ばさりばさりと羽を動かすと、あっという間に、キラキラと手紙を見つけた場所にたどり着いた。オリバーデリバーは手紙だけをかばんから取り出すとそっと机の上に置いて、ご主人様のもとにもどった…………。
◇
がちゃりと部屋の扉が開いた。オリバーデリバーが消えた直後入ってきたのは、手紙を書いた優と手紙をもらう予定だった強だ。
「ねえ、強! アタシ、強に手紙書いてん。ほんまは、ポストにいれよーと思うてたんやけど、やっぱ、直接手渡すのがええと思ってなぁ!! そのほうが、はよ、返事もらえるやろ? な、 ええ考えやろ?? せやから、すぐきてーって電話してん」
優が自信たっぷりに、机の上に置きっぱなしの手紙を指さした。
「……、でも、優ちゃん、手紙は84円で届くけど、千葉から大阪まではかなりの交通費がかかったんだけど……」と、満面の笑みの優を曇らせたくない強は優に聞こえないくらい小さな声で抗議した。
「ん? なんか言った? それより、はよ、読んで! 読んで!」
ぐいぐいっと優が強の手をひっぱる。強は机の上の手紙を手に取ると手紙を読みだした。
「……強へ、1つ頼まれてくれるか!?あんな!? うち《我妻興信所》のガリツマちゃんにな………、え? ガリツマちゃんに女の子紹介するのかい?」
「そうや。『ひょっこりはん』みたいな男がタイプ言ゆうとる女の子がおってん。やっぱ、ガリツマちゃんにも彼女いたほうがええやろ??」
「まあ、………そういうのは個人の自由だと………ごにょ」
「あかんの?」
「…………、まあ、何事も経験したほうがいいけど………」
強は歯切れ悪く答えた。
「せやろ!! でな、強には女子とのトークスキルを伝授することと、デートを尾行してほしいんや」
お願いっと両手を合わせて、優が片目をつぶる。
「優ちゃん、せっかく手紙を書いたのに、全部しゃべってしまうのかい?」
「あ!! ごめん!! じゃ、読んで!! アタシ、静かにしてるわ。でも、返事はすぐ書いて、私に渡して!!」
「わかった。じゃ、読んで、返事書くよ。………でもさ、優ちゃん、そんな僕にくっついていたら、読みづらいよ」
「あ!! ごめん!! じゃ、アタシ、買い物に行ってくる。返事、頼んだで!!」
てへへっと優は笑うとバタンという大きな音をたてて出て行った。
「ふう………。相変わらず、僕の想像の斜め上をいくんだから……」と強は、大きくため息をついた。
『すぐきてー!』って珍しく優が電話してくるから、何事かと思って慌てて千葉から大阪まで来てみたら、手紙の返事をはやく欲しかったからとは、まったく優は僕の想像を遥かにこえている。新幹線代、いくらかかったと思ってんだろう。
「ま、どや顔の優が見れてよかったんだけどね……」
そんな優もかわいいと思ってしまう自分がいて、強はもう一度大きなため息をついた。そして、かばんから優からもらった万年筆をとりだすと返事を書きだした。
*******
優ちゃんへ
優ちゃんのちょっと癖のあるまあるい字にほっこりしながら、優ちゃんのお手紙を読んでいます。優ちゃんが嬉しそうにお手紙を僕に手渡してくれて、僕はすごくうれしかったです。それに、早くお手紙の返事が欲しいって気持ちが少しだけわかったような気がします。メールも早くて正確でいいけど、やっぱり直筆の手紙はその人なりが伝わってきて、いいですね。
さて、本題。
おめでとう!!
おめでとう!!
急に大阪に行くって言って出て行ってしまったから、僕はちょっと心配だったんです。でも、お仕事だったんですね! それも映画のヒロインの「極道の女」役!! すごいです!! 本当にすごいです!! 優ちゃんのことなのに僕の方が緊張してきました。
そこで、一つ提案です。
優ちゃん、お祝いを兼ねてデートをしよう!!
忙しいと思うけれど、時間を空けてくれると嬉しいです。(僕としては、有馬温泉とかでしっぽりデートをしたいところだけど、優ちゃんは通天閣かな? それともなんば花月?)
あと、ガリツマちゃんの件は半分了承しました。若い子にささるようなアドバイ
スはできないかもしれないけれど、僕が優ちゃんをどれだけ大切にしているか話します。(砂糖より甘い話になるかも(笑))
そして、ガリツマちゃんのデートの尾行の件ですが……。
優ちゃんがガリツマちゃんを心配して、デートを尾行してほしい気持ちはよくわかます。普段のガリツマちゃんを見ていたら、僕も心配であれこれ世話を焼きたくなります。でもね、ガリツマちゃんも一人の男です。ここはぐっと我慢して、ガリツマちゃんのことを信じてみてはどうでしょう。たとえ、失敗しても、きっと僕たちにはちゃんと話してくれると思いますよ。ガリツマちゃん、見た目はひょっこりはんみたいだけど僕からみれば最高にいい男ですから。
強より
追伸:①必殺のコークスクリュー・ブローは甘んじて受けます。
優ちゃんの愛ならどんとこいです。
②映画ということはキスシーンとか濡れ場とかあるのでしょうか。
いくら撮影で作り上げた世界とはいえ、嫉妬する気持ちを抑えることが
できず悶々としそうです。
③これからも、たまにはお手紙をくれるとすごくうれしいです。
僕も優ちゃんにお手紙を書くようにしますね。
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