第2話 異次元空間のミッション遂行

真っ白な空間には、

横になる白い服を着た天使ヌアンテが

ゲラゲラと空中に浮かぶ透明な画面に

YouTubeを見ながら笑っていた。


手元には大きなコンソメ味の

ポテトチップスとシュワシュワの

コーラがあった。


腕を組んでイライラする悪魔のクロンズは、

声をかけた。


「おいおいおい。

 いつまでそうやって怠けているんだよ。

 ミッションこなせよ。」


悪魔であるはずのクロンズが天使の

ヌアンテを注意している。

その光景を見て、疑問符を浮かべながら

口を開いた。


「誰? ねぇ、ここどこ?」


 異空間に飛ばされた息吹は、

 目の前にいる悪魔と天使のやりとりに

 不思議で仕方なかった。

 息吹は、悪魔のクロンズの後ろに立つと

 気配に全然気づかなかったため、

 クロンズは驚きながら敵があわられた

 ごとくズサーッと後退した。


「ちょいちょいちょい!!

 ヌアンテ!!ミッション発生してっぞ。」


「あ??」


 リラックスタイムを邪魔されたヌアンテは

 不機嫌そうな顔をした。


「あたしの時間を奪うのは誰よ。

 本当に、ちゃんと考えなさいよね?!」


「いやいやいや、前よく見ろって。

 てか、お前、少なくとも天使なんだから

 愛想よくしろってつぅーの。」


「なぁにが愛想よくよ。うるさいっての。

 ……あらあらあら、

 あなたが迷える子羊ちゃん?」


 急に声色を変えるヌアンテの発言に

 息吹は驚きを隠せない。

 

「お、俺は羊なんかじゃない!!

 人間だ。

 小学1年生なんだ!!」


 そこへ空中からちょんちょんと

 黒い小さくて可愛いコウモリが

 飛んできた。


「ごめんなさい!

 何も説明もなしにここに飛ばして

 来ちゃいましたねぇ。

 紹介が遅れました。

 悪魔のクロンズの

 お供の光宙ヒカチュウと申します。

 どこかのモンスターと名前似てるんじゃ

 無いかと思いますが、

 それはスルーでお願いします。」


「え?ん?」


 息吹の目の前にパタパタと飛ぶ

 コウモリの光宙が言葉を発してる。

 現実世界なのだろうかと目をこする。

 

「ちょっと待ってください。

 私もいますよ。」


 ゆっくりと足元を歩いてくるのは、

 天使ヌアンテのお供のハリネズミの

 微宙ビチュウ

 冷静沈着に行動する。


「動物なのに言葉を発するのは謎は

 解けませんから。

 問題はそこではありませんよ。」


「そうそうそう。さて、

 今日もミッションこなしましょう。」


 ポキポキと手を鳴らすヌアンテ。


「来るわよ?!」


 真っ白い空間の分厚い壁から

 物々しい真っ黒い煙のようなものが

 全体的に漂ってくる。

 人とような人ではない。

 目と口はある。鼻もあるだろうか。

 飲み込まれそうな大きな手がこちら側に

 向かってくる。

 モクモクと煙のようなその物体は

 息吹たちを包み込もうとした。

 ヌアンテは手を伸ばして指をパチンと

 鳴らす。

 ハリネズミの微宙の体から

 目をくらむような雷を起こし、

 真っ白い光を出した。

 一瞬消えた煙のモンスターは

 またモクモクと発生し出す。

 キリがなさそうだ。


「げげげ…やばいやばい。

 ちょっと、クロンズ!!

 仕事しなさいよ!!」


「言われなくてもお前より働いてる

 つぅーの。怠けるからだ!」


 クロンズはパチンと指を鳴らした。

 コウモリの光宙は空中をふわふわと

 飛ぶと、超音波を発生させた。

 

 キーンとした音に

 周りにいたみんなの耳が痛くなる。

 

 煙のモンスターには効果はなさそうだ。


「音は無理ってことだよな。

 まぁ、予想はついてたけどな。

 これは自分で後始末しろってことだ。

 息吹!! 息を思いっきり吐け!!」


「え?あ?なんで名前知ってるの!?」


「良いから、

 今は悠長に自己紹介してる

 場合じゃないつーの。

 あいつに飲みこまれるぞ。」


「え、吐けばいいの?

 えっと…すぅううう

 ふぅううううう〜〜〜〜。」


 息吹が深呼吸をして、思いっきり

 煙モンスターに向かって息を吐いた。

 少しだけ小さくなった。


「よし、その調子だ。

 もっと強くさせるからもう1回吐け。」


 クロンズは、息吹のそばに近づいて

 もう一度指をパチンと鳴らす。

 

 クロンズの指先から氷が出てきた。

 そのまま息吹の吐いたい息とともに

 細かい氷がたくさんあらわれて、

 煙のモンスター

 『スモーク』に大ダメージを与えた。


「よし、あいつは氷なら効くんだな。

 息吹、『コールドブレス』って叫べ!!」


 クロンズは、たくさん息吐いたばかりで

 はぁはぁ言っている息吹に叫んだ。


 横で何もしていないヌアンテは

 早くコーラが飲みたくて仕方なかった。


 ハリネズミの微宙はため息をついて 

 呆れていた。



「え、あ、うん。わかった。

 すぅぅぅうううう

 『コールドブレス!!!!!』」


 鼻で思いっきり吸って

 口から力一杯に吐き出した。


 効果てきめん

 見事に『スモーク』は声を荒げて、

 静かに消えていった。


 さっきのクロンズの力が

 プラスされたため、氷の力が追加された。

 息吹は、技の『コールドブレス』を

 マスターした。


「よくやった。」


「お疲れ様。

 もう,コーラ飲んでいいよね。」

 

 ヌアンテは喉が乾いたらしく

 早く休みたくて仕方ない。


「おい。まだ飲むな。」


 クロンズは、額に筋を浮かべる。


「え、なに、今の。」


息を荒げて、両膝をおさえた。


「さっきのは煙で出来た

 モンスター『スモーク』だ。

 息吹、お前の中の嫌な気持ちが

 実体化してモンスターになる。

 自分は悪くないって思ってなかったか。」


「え、もしかして、

 拓人くんと喧嘩したことかな。

 でも、プールの中で溺れそうだったよ。

 深くないはずなのに

 ものすごく深くて死にそうだったんだ。」


「ああ、ここは天国と地獄の境目だからな。

 自分の中の敵と戦う場所だ。」


 その言葉を発した瞬間。

 真っ白かった空間は一気に切り替わった。



 息吹は、綺麗な花畑の天国と

 マグマが広がった地獄の間にいた。



「ここは一体なに?

 さっきいた場所て何だったの。」


「異次元空間だ。

 さっきの真っ白い空間は審判の間。

 ここは地獄と天国の境目。

 今から、息吹はどっちに行くか?

 と思っただろ。

 残念、まだ死んでないんだよ。お前は。

 病院の集中治療室で頑張っているんだ。

 このモンスター『スモーク』を倒したから

 意識を戻せる。」


 クロンズは空中に

 透明なディスプレイを表示させて、

 病院のベッドで酸素吸入をして、

 横になっている息吹がいた。


「あれ、俺がいる。

 なんで、ここに。」


 息吹の足元が歪んで、真っ黒くなる。

 ゆっくりと下に落ちていく。


「そのうちわかるさ!」


 クロンズは手を振って下に落ちていく

 息吹に別れを告げる。

 横でコーラとポテチを食べていた

 ヌアンテは話し相手がいなくなって

 残念そうな顔をした。


「えー、もう行ったの。

 もっと話したかった。」


「お前なぁ、何もしてなかっただろ。

 天使のくせになんで悪魔の俺が

 尻拭いしなくちゃいけないんだよ。

 本当にな。

 しっかりしろよ。」


 それでもなおポテチをむさぼる。

 ハリネズミの微宙は呆れて

 ものが言えない。

 コウモリの光宙は

 パタパタと浮かんだままいつものこと

 だろうと特に気にしていなかった。


 そこへ、真っ白い髭を手で何度も撫でる

 年老いた神様が杖を持って現れた。


「ほぉ、ほぉ。ほぉ。

 いつも通りじゃなあ。」


「ちょっとじいさん。

 どういうことなんだよ。

 いつも俺ばかり

 ヌアンテの尻拭いさせられて、

 こう見えても俺悪魔だかんね。

 どうしてくれるのさ。」


「大丈夫じゃよ。

 良いことすれば、お前も天国行けるさ。」


「いやいやいやいや、

 俺は地獄に行きたいの

 悪魔なの。

 じいさんバカじゃないか。」


「ちょっとさっきから神様に向かって

 じいさんとかって失礼じゃない。

 言葉は綺麗に使うべきよ。

 ねぇ、神様。」


「あ、まぁ、もうどっちでもいいけど。

 きちんと仕事してもらえれば

 口が悪かろうか、なんだろうが、

 なんでもいいのよ。

 それはそうと、ヌアンテ、

 明日からオヤツ抜きじゃよ。」


「えーーーー、

 嘘ぉ。やだやだやだ。

 それは勘弁して、おじいさま。

 仏様、神様ぁ。

 言うこと聞きますから!!」


「いやいつもミッション出してるの

 こなさないのは誰じゃ?

 明日オヤツ抜きね。」


「チッ……

 クソジジイ。」

 

 ヌアンテは小声でいじけていた。


「あ、ヌアンテ。聞こえておるぞ。 

 ついでにコーラも抜きね。」


「えーーーーー、コーラだけは無理。

 やーめーてー。」


 懇願するようにヌアンテは神様の服を

 引っ張った。


「今クソジジイって言ったでしょう。」


「え、だって、

 さっきどんな言葉使ってもいいって。」


「いや、ヌアンテは仕事もしてないじゃろ。

 てか、それにつけて言葉も悪いって

 調子よすぎじゃ。

 悪魔であるクロンズに仕事預けるって

 どういう神経してるんじゃ。

 天使失格!!」


「えーーー。また試験受け直し?!」


「そうじゃなぁ。覚悟しておくんじゃな。」


 クロンズは両手をあげて

 コウモリの光宙と呆れ顔だった。

 前途多難な天使の悪魔だ。


 

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