第6話 はじめて魔法をみた


 剣が扱えるかどうかの懸念は早くも払拭された。剣の才能はきちんと持ち合わせているようだと心配事が1つ減った。次はいよいよ魔法だろう。ものは試しと掌から小さな炎を出すイメージで念じてみたが魔法は発動しなかった。

 地球に居た頃は魔法の概念はあったけれど、それはファンタジーの話で実際に魔法が使える人は居なかった。

 そのため魔法を使うやり方が全然イメージできないないのだ。ここは素直に聞くべきだろうと美月麗羽は考える。


「あの王様、私の世界では魔法が使える人物は存在せず、例にまみれず私も魔法の使い方が分かりません。この中には魔法が使える人物もいらっしゃるのでしょうか?」


「なんと、魔法がない世界とはそれはまた不便な世界ですな。しかし、そういう事ならお任せあれこの世界に魔法が使えない者は存在しません」


「それなら今、教えてもらう事はできますか?」


「もちろんですとも、ライアン! 説明を頼む」


「っは!」


 王様にライアンと呼ばれた人物が足早に美月麗羽の前に立ち、深く礼をした。


「それでは実演も兼ねて私めが説明させていただきます」


「はい、よろしくお願いします」


 ライアンは周囲から人を下がらせて、説明に入る。


「魔法を使うには体の中で魔力を生み出す事が必要です。魔力を生み出す核となるのはへその下の当りにある丹田というところです」


 美月麗羽はふむふむと説明に聞き入る。魔力を生み出す場所が丹田というならチャクラの概念に共通するものがあるのだと自らの脳の引き出しを開ける。前提知識があるおかげか、兵士の説明がすんなりと腑に落ちていく。


「ただ、魔力を作り出すには魔素という材料が必要になります。魔素は目には見えませんが空気の中に溶け込んでいます。魔素は特殊な呼吸法により丹田へ供給することができます」


 特殊な呼吸法はいわゆる腹式呼吸に近いもので大きく息を吸い込んで、息を吐き出す時に魔素だけは丹田に留まるように意識して吐き出す。

 そうする事によって体内に残された魔素が丹田に吸収されて魔力へ変換されるらしい。


「こうやって体内に溜めた魔力をイメージと共に外へ排出すると魔法が発動します。見ていてください」


 ライアンは静かに美月麗羽から距離をとって、両手を地面につけて、片膝で支えて腰を浮かしたようなポーズをとった。美月麗羽の目からは短距離走を走る時のクラウチングスタートのような体勢に見えていた。


「美月さま! 行きますぞ!」


「はい!」


 いったいどんな魔法が発現するのだろうか、初めての魔法に心が湧きたつのを感じていた。心臓がドキドキして、魔法の発現を目に刻もうと美月麗羽の瞳はキラキラに輝く。


「ヘップバーーーァン!」


 ライアンの雄たけびにも似た魔法の名称に呼応して、ライアンのお尻からは爆音と共にものすごい勢いで炎が噴き出した。


 ライアンの火の魔法によって空気が一気に熱せられたのか熱気を帯びた、嫌な温度の風が頬をなでる。なんだか少し臭うような気さえしてくる。


 あまりの光景に美月麗羽は今までした事がないような、ド変態の汚物を蔑むようにライアンを見下していた。無意識にだ。


 ライアンはキリっとした顔で立ち上がり、得意げな顔でズンズンと美月麗羽に近づいてくる。


「美月さま、どうでしたかな? 私めの魔法は......?」


「おい! 私に近づくな」

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