第3話 これは異世界転移物語
「美月麗羽」
美月麗羽は自身の名前を呼ばれる声に意識を覚醒する。
「ん......ここは......?」
「気が付いたか?」
頭上から降ってくる聞き覚えのない声の主を確認しようと倒れた体を起こし顔をあげる。
「あなたは?」
「私は神である」
「神......様?」
神を名乗る男は美月麗羽に現状を説明する。
「美月麗羽、君は不運なことに強い願いを込められた呪物とも呼べる代物を拾い上げてその封印を解いてしまった。浜辺で拾った手紙がそうだ。それにより神隠しに遭いこの場所まで強制的に連れてこられてしまったのだ」
「元の場所には戻れるのでしょうか?」
神を名乗る男は静かに首を横に振った。
「残念ながらそれは出来ない。ここへは一方通行でここから出れば違う世界へ飛ばされることとなる。ここは転生の場所なのだ」
「つまり、私は死んでしまった......ということでしょうか」
「状況的には同じだが、細部は違う。君は生きたままここにきてしまった。だから本来転生されるところだが、肉体を持っている君にはそれが出来ない。その体を保持したまま異世界へ転位となる」
「異世界へ転位......ごめんなさい。頭が追い付きません」
「それは無理からぬ話だが、無理矢理にでも納得してもらうほかない。この世は理不尽に溢れている」
美月麗羽は日本人らしい思考に行き着く、これは神様からスキルをもらって異世界を謳歌するあのパターンだと。
とは言っても日本での暮らしも美月麗羽にとって不満などは何一つなかった。容姿は控えめに言ってクール系の美人であるし、勉強もできるし、運動だってできる。このまま日本で暮らしを続けていれば人並み以上の成功を手に入れていた事だろう。
しかしながらその道は、神隠しという突拍子もないことで閉ざされてしまった。それなら自暴自棄になって下を向いて生きるか?
―――否である。
美月麗羽は数秒の思考で感情を飲み込み。神様に交渉することにした。
「これはいわゆる異世界転位ということで、転位者には特別なスキルが与えられるという救済措置があったりするのでしょうか?」
「もちろんだ。君の望むスキルをひとつ授けたいと思っている。なにか要望はあるか?」
美月麗羽はこういう場合の成功パターンを知っている。ここで手に入れるべきスキルは日本の商品を手に入れるための『ネットショップ系』のスキルだ。
これから先どんなふざけた環境になっても、アイテムさえ手に入ればどうにでもなる。ダメ元でまずはここから交渉してみるべきだろうと答えに至る。
「異世界に行っても日本での暮らしの快適さを失う事は何よりも苦痛に感じます。なので可能なら日本の商品が手に入る『ネットショップ系』のスキルを望みます」
美月麗羽は自分で言っていてなんだが、この願いは却下されると思っていた。いくら神様でも無から有を作りだすことはできないのではないかと考えていた。しかし答えはあっさりしたもので......。
「それが何よりも苦痛か......わかった。美月麗羽、君には日本からモノを召喚するスキルを授けよう」
「! ......ありがとうございます」
なんと簡単に手に入ってしまったのである。
「君の行く異世界は神隠しの呪いによって既に決まってしまっている。地球とは違う剣と魔法の世界だ。もちろん魔物だっている危険な世界で、今までの価値観を大きく歪められる困難が待ち構えている。どうか心を強く生きて欲しい」
「優しい言葉をありがとうございます。神様から頂いたスキルがあればどんな困難も乗り越えられると確信しています」
「そうか、名残惜しいがここまでにしよう。さぁこのゲートをくぐって新しい世界へと旅立つのだ」
「はい」
神様が示す手の方向には虹色に光る門が開いていた。美月麗羽は迷いなく歩を進めて門の前に立つ。
「それでは神様お元気で」
「あぁ、君の事は見守っておくよ、お行きなさい」
美月麗羽は虹色の光の中へと吸い込まれていった。
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