最後の仕事は見て行動を起こす事。
さんまぐ
第1話 夢の終わり。後始末の始まり。
太古の昔。
2人の神が世界を作り、のちに戦った。
1人の神は「人類皆きょうだい」、博愛の心を広めて世界の繁栄を願い、もう1人の神は「力こそ正義」、人は力あるものに支配されるべきと言い、意見を対立させた。
話し合いとも戦いとも語り継がれる行為の後、博愛の心を広めたかった神は、全てを諦めて世界を捨てた。
残された、人は力あるものに支配されるべきと言った神は、暴力や知力なんかの力ではなく権力と財力が支配する世界に形を変えると姿を消した。
もう、千年はこの世界が続いている。
豪邸、寝室。
ベッドの上には老齢の男。
その傍らには男。
老齢の男を見る男も若くはない。
「よく…きた」と老齢の男は弱々しい声で言い、「はい」と返事をした男は、「御用はなんでしょうか父上?」と呼ばれた理由を聞く。
この世界には、人類皆きょうだいなんて言葉はない。
言葉自体はあるが、意味を持たない。
男は老人の3番目の子供で、2番目の子供はすでにこの世に居ない。1番目の子供は弱る父を見て、残される財産の把握に勤しんでいて、旅立ちの近い父の見送りなんてものには、来ようとしない。
それ自体は間違っていない。
老人がそうやって育てた。
それは自分が父からされていた事を、子供にしただけだった。
今この場にいる男には、財産の一部も与えられない。
2番目以下は、全ての生殺与奪も、何もかもを家長に握られる。
父親も祖父達も皆そうしてきた。
1番に生まれてくることに意味がある。
1番でなければ意味はない。
2番目以下は1番を謀殺して、自分が1番になるしかない。
だが自由のない中で、それをやり切るのは相当な事で、2番目の兄は父から「兄を亡き者にして家長の資格を得てみろ」と言われて、幼い頃から修練をしたのに返り討ちに遭って呆気なく終わった。
父親は「お前に…最後の贈り物をしてやろう」と言うと、一枚の紙を渡して来る。
【自由行使権】と書かれた紙を男が見ていると、「…手続きは済んでいる。お前の身柄は…誰のものでもない。……イーワンの…物でもない」と兄の名を出してきた。
「この紙は?」
「お前は誰の所有物でもなくなる為の…魔法の紙だ。……ダイヤモンド鉱山一つと、交換で手に入れた。…お前はサンスリーの名を名乗らずに、ゲイザーと名乗り……、世界中を見て、好きに行動をすればいい…」
いきなり自由だと言われても困る。
男…サンスリーは子供の頃から、父親に言われるままに生きてきた。
習い事から何から全て決められた。
それは何一つおかしなことではない。
この世界は家長がルールになる。
どのように育てても構わない。
権力者は何をしても構わない。
だから老人も家長を受け継いで、すぐに使用人たちを入れ替えて、家の模様替えもした。
この先ではあの兄もする。
父が集めた人や物を捨てて、自分好みにこの家を染め上げる。
家長になれる、長子の特権だった。
この世界は権力者と、それ以外に分けられる。
サンスリーは権力者の子供だが、そんなことに意味はない。1番目ではないのだから、他の人々と同じ目に遭う。違う事と言えば、何ものでもない子供は生まれた時から飢えの危機が付きまとうが、権力者の子供は、生まれた時から、飢えるも飢えないも親が決める危険が付きまとっている。
身柄を買われなければ、国や権力者から金をもらうべく、野菜を育てたり、畜産なんかをする事になるし、鉱山なんかで働く事になる。
人の命はパンより安い。
二束三文で働いて、権力者は得た富で更に栄華を極めていく。
最悪の悪循環。
多分キッチンスタッフ達の一部は残るだろう。
だが、何か失敗をすれば、容赦なく切り捨てられる。
それは比喩でも誇張でもない実話だったりする。
サンスリーが考えていると、サンスリーの父は「早速仕事だ。夢を終わらせる。自由を与えてやれ。そしてそのままお前は旅立てゲイザー」と言った。
「御意」と返事をして、サンスリーは収納魔法から武器を取り出すと、一直線に闘犬と呼ばれる使用人達の部屋を目指す。
権力者達のやる事は大差ない。
人の命をモノのように扱う。
身柄を買われた人間には、自由も何もなく家長の指示に従う。
近隣の権力者と戦わせる目的だけで育てられ、字も読めず、学も何もない戦闘用の人間を作り出して殺し合わせる。
別に家長が生きていれば、衣食住は保証されるが、家長が死ねば大体は不要として捨てられる。
学もないまま、ある日外に放り出されれば、生きる為に使える技術を総動員するしかない。
戦闘スキル。
間違いなく野盗になったり、別の権力者に子飼いの為の練習台として買われてしまう。
今より人生が好転する事はない。
夢を終わらせる。
この悪夢を終わらせる。
サンスリーは剣を抜いて闘犬用の部屋に入ると、父親が最後に買い育てていた人間を一太刀で葬り去る。
周りはサンスリーから距離を取り状況を見ている。
「御当主から、終わりにしろと命じられた。命を差し出せば苦しまずに死ねる。刃向かうのも好きにしろ」
サンスリーは言うだけ言うと1人また1人と斬り殺していく。
命差し出す者。立ち向かってくる者。
様々だがサンスリーは問題なく戦っていく。
今鍔迫り合いをしているのは、共に育ったレンズ。
レンズは戦闘用の人間達から生まれてきて、子供の頃から戦闘訓練を仕込まれた。
言葉を覚えるより先に、戦い方を仕込まれた。
「サンスリー!」
「…すまない。御当主が死ぬ前に終わらせろと言ったんだ。…フレイムウェイブ」
鍔迫り合いのままサンスリーが火魔法を使うと、魔法を使えないレンズはなす術なく焼き殺される。
その後はもう作業だった。
向かってくる者もレンズより強い者は居なかった。
魔法を教わっていた人間もいたが、サンスリーの魔法からしたら話にならなかった。
30分もすると闘犬用の部屋は沈黙する。
サンスリーは次の部屋に行く。
次は風俗室。
この部屋に送られた男女には、戦闘用の人間達より救いはない。
好みが合わなければ容赦なく捨てられる。
あの兄、イーワンの好みに触れる女はいない。
接待用の男も女もまた新たに仕入れて仕込めばいい。
間違いなく野に放たれると、良くて娼館、悪くて野垂れ死にしか待っていない。
だから終わらせる。
部屋の中は独特の臭いがする。
体液の臭いと、それを誤魔化すようなお香の匂い。それぞれが混ざって独特な臭いになっていた。
1番に始末したのは、ただただ淫具を使って果て続ける事だけを命じられた女。
毎日果てた回数を記し続けて食事を得る。
他にも接待用の男女は、相手を接待の相手に見立てて尽くし尽くされる。
中には接待の果てに妊娠している者も居たが、生まれ落ちても親同然の未来くらいしか待っていない。
容赦なく「終わらせる」と言って、部屋の中に動く者がいなくなるまでサンスリーは行動すると部屋の外に出た。後はめぼしいメイド達を終わらせると外に出る。
外には執事長が待っていて「若様、お仕事お疲れ様でした」と言って金を渡してくる。
「路銀か?」
「はい。御当主様は若様に、好きに生きろと言っておられました」
サンスリーは金を受け取ると「兄上をよろしく」と言って屋敷から外に出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます