妄想機械零零號の激オモロ雑文集!!――いまのところ、私は、我流ではあるが、肉を斬らせて皮を斬り、骨を斬らせて肉を斬り、髄を斬らせて骨を斬るつもりである――

妄想機械零零號

序文――その序文は、辞書における「凡例」に似ていた――

 私は小説家になりたい。働きたくないからである。

この「働きたくない」という意思は「小説家」という職業に就きたい、つまり「小説家として働きたい」という意思と矛盾しない。


 私はいわゆるフツーの仕事をするのがイヤなのだ。

毎日出勤して汗水垂らしてコツコツ働き関わりたくもない人間と関わるのが不快なのだ。

では、そうした要素のない気ままな仕事ならどうであろうか?

――私は働くだろう。大いに働くだろう。私は働きたいのである。


 よし、話は決まった小説家だ。

小説家として大いに働いてやろう。

なんたって小説家ってのは引きこもってキーボードを打っていればそれで済むのだからネ。

考えることといえば、人間関係の悩みなんかじゃなくてあくまで自分の作品についてのみだ。

実に人間的ではないか!


 もちろん私は画家になっても良い。……私に絵を描く技術と絵の具を買うがあるのなら。

あるいは歌手になっても良い。これなら身ひとつあれば成り立つ。……無論、私に歌唱する技術があればの話であるが。


 おお、技術! 技術!

我々は学童ではない! 習い事に忙殺され、自らの手にあらゆる技術と可能性を与えようと必死になる、あのコドモ達ではない!

そんな時代は過ぎ去ってしまった!


 成長への意思、私にとってそれは遠い過去のノスタルジックな思い出の一部に過ぎない。

「ああ、成長のために頑張っていた頃もあったかもネ~」

である。


 成長なんてどォ~でもいいのだ。

練習してる暇なんてあるワケないのだ。

なぜなら私は学童ではないのだから。

遠い昔に散々苦悩して手に入れた筈のあらゆる学知、技術はすでに失われている。


 私は今すぐに金が欲しいのだ。

金が必要なのだ。

そこで小説家である。


――しかし! 

その発想には一つの陥穽が存在した。


 私には想像力がないのである。

仮にも「妄想機械」などと名乗っている人間(?)にしては意外な弱点と言うよりない。

まァ、「妄想」と言ったって二種類ありますからねェ。


 すなわち「もうそう」と「もうぞう」。

後者は仏教用語で「とらわれの心によって、真実でないものを真実であると誤って考えること。また、その誤った考え。妄念。邪念」を指します。

こりゃ~まさに筆者(つまり私)の事ではないか!


 私は考えた。

妄想ができないから小説――すなわち、虚構的フィクショナルな散文。あるいは物語的ナラティブな散文――は書けない。


 しかし、ならばどうであろう!

私は見事にを書いて見せているではないか!

ほらご覧。これこそがである。


 私こそが雑文の申し子。

雑文ってのは、思ったことをそのまんま書いても良しとされるんだからねえ。

すこぶる小学生的な作文である。


 私は写実主義者リアリストでも自然主義者ナチュラリストでもないから、己を虚しゅうして主客合一の域まで達する観察眼なんぞ持っちゃいない。

したがって私の雑文は99.9999999……%の現実リアルと0.0000……1%の虚構フィクションが混ざり合うであろう。


 おお、私!

私とはまさに、この文章を書いているところの、キーボードを打つこの〈私〉である!

しかしそればかりではないのだ!

我が雑文における〈私〉とはキーボードを打つ〈私〉の忠実なる模倣ミメーシスではなく!

ある部分が拡大されたり縮小されたりする歪んだ鏡に映るがごときキミョ~な〈私〉なのである!


 そのズレを! 段差を! 私はあえて放置しようではないか!


 我が雑文の中で〈私〉は増殖する。

一人歩きする。

〈私〉は人になり犬になり猫になり……最後は神にでもなるであろう。

0.0000……1%のズレは回を追うごとに顕在化するであろう。


 それでいのだ。


 雑文!

これに決めた!

私は「牛のヨダレ」(二葉亭四迷『平凡』を見よ!)のごとく我が思念の限りを綴るであろう。


 この私を止められる者など存在しない。


――否! 存在する!

私は金が無いから雑文家エッセイストになろうとしているのだ。


 だからその根本的原因たる「金」の問題を解決してやれば私は黙る。


 読者諸君!

「口をのりする」

という言葉はご存知であろう。

しかし! この「糊」がお粥の事であることはご存知であろうか?


 お粥! 我々人間はお粥――食糧!――がなくては生きてゆけぬ!


 私は「口を糊する」ことができるようになれば、黙る。

私が「口を糊」できるようにすることは私を黙らせることに繋がるのである。


 だから賢明なる読者よ。

私を黙らせたいならば――私の口に液体糊を塗りつけて黙らせてしまいたいならば――「口を糊する」ことができるような金を送っていただきたい。


 私は金で黙るということを先に宣言しておこう。

これこそが「」だ。


 金! 金! そして金!


 我が言わんとすることはただ金! 金! 金に尽きるのである。

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