第21話 イギリス

「はあ、ここがイギリスかあ」


 鈴奈が周りを見渡しながら言う。

 周りには異文化が見渡せる。

 例えば家の形は、日本のものとは全く違う形となっておりイギリスらしさが見える。


「だな」

「なんかめっちゃ英語が聴こえるよう」

「そりゃあ当たり前だな」

「だってほれ、周り見て? ほぼ全員金髪だしすごいすごい。異文化だー」


 確かに人もみんな金髪の白人ばかりで、日本人なんてほとんどいない。


 鈴奈は楽しそうだ。見ているこちらまで楽しくなってきた。

 そして、マンチェスター市庁舎を見るためだ。どうやら様々な映画に使われているらしい。見ると想像よりも壮大だ。大きく、それが町の壮観を雅てる気がする。

 そしてそれを後にしてマンチェスター大聖堂へと向かう。その中に入ると、仲がとても聖堂だという語彙力を失いそうなほどのすごい景色だった。イギリスらしさのあるすごい建物だ。俺はそれを見て、この度は俺の人生観を変えるなと思った。

 そして鈴奈の方を少し見る。すると本当に感激している感じがした。


「私ここに来て良かったよ」


 そう、しみじみとした感じで言った。その声は本当に冗談交じりではない、ちゃんとそう心の中で思っているそうだった。

 鈴奈にとってはこれが最後の旅行なのだ。

 そしてその旅行がイギリスという今まで見たこともない異文化を味わう旅だ。楽しくて当たり前だ。

 その鈴奈の姿が愛しく思えてきて、真面目な顔でしっかりと中の景色を見ている彼女をそっと撫でた。


「浩二君?」


 む? 大胆過ぎたか? 鈴奈が不思議な顔でこちらを見る。


「なんかかわいいと思ってな」

「なによ。もう」


 そう言って、鈴奈は再び景色をじっと見る。その顔を見ると、少しだけ照れているようだった。


 そして一日目は終わりを告げ、近くに会ったレストランへと向かう。


 そして英語で訊かれたので、英語で返したいところだが、あいにく俺はしゃべることが出来ない、なので鈴奈にお願いすることにした。

 そして鈴奈が見事に華麗な英語力を使って、見事に注文して見せた。


「私に感謝するんだよ。浩二君」

「おい、なんだよ、その勝ち誇ったような顔は」

「だって、浩二君に私の有能さを見せつけたんだから。こういう顔してもいいでしょ」

「まあ、それはそうだが」


 だが、やはりイキられると少しだけイラつく。


「それでさあ」


 鈴奈はテーブルに腕を置いて俺の顔をまっすぐ見る。


「何だよ」

「イギリス料理って不味いって聞くけど、どんなんなんだろうね」

「どんなんって……てか不味いの?」

「なんか聞いた話だけどね。あくまでも噂よ」

「それはなんとなく怖くなってきたなあ」


 今からそのご飯を食べるというのに。


「でもね、私死ぬまでに一回でもいいからイギリスの料理食べてみたかったんだよね」

「イタリア料理じゃなくて?」

「そう、イギリス料理だからいいの。不味いって評判の料理が美味しかったらそれはいいことだし、不味かったら、残念で終わりの話じゃない? だからさ、楽しみだなって」

「どんな考え方なんだよ……」

『注文の品をお持ちしました』


 そんな中料理が運ばれてきた。


「これが噂のフィッシュアンドチップスかあ。一度は食べてみたかったんだよね」

「なるほどこれが……」


 さっきメニュー表を見た感じではよくはわからなかったが、これがフィッシュアンドチップスかあ。確かにおいしそうである。……というかもしこれが不味かったらイギリスは大丈夫なのかって話になるしな。


 そして一口食べると、かなり行ける味だった。魚の触感とポテトのうまみが上手く合致していた。

 これはおいしい。そう確信できる味だ。


「これ行けるな」


 そう鈴奈に告げると、何も言うことなく、首を縦に振った。肯定と言う意味だろう。そして首を縦に振ると、再び料理をむしゃむしゃと食べ始めた。

 その様子を見ると、もうこれは誰にも渡さない。そう言っているみたいだった。


「おいしかったか?」

「もちろん。最高だったよ。これを最後の晩餐にしてもいいくらい!」

「お前が言うと妙に説得力があるな」

「まーね。こう見えても余命僅かだしね」

 そして俺たちはホテルに着いた。ユースホステル、普通のビジネスホテルみたいなものだ。今日はここで夜を明かす。


「しかし、明日はどんなものが見られるのか楽しみだよ」

「それは明日の楽しみだな」

「ねー!!」

「ねーって何だよ」

「肯定の意味じゃん。浩二君が求めていたものだよ。ほら感謝して」

「調子に乗るな」


 そう言って俺は彼女の頭を軽くたたく。


「いったー」

「明日に備えてもう寝ろ」

「……」


 何かを言いたげな目で俺を見る。


「浩二くんってさ、親みたいだよね」

「お前が子供っぽいからだろ」


 そう言ってベッドに横になる。すると鈴奈もあきらめたようにベッドによじ登り、横になる。そして俺が電気を消そうとすると、「そう言えば初めてのお泊りだね」と言ってきた。


「確かに初めてだな」

「そう、だからさ、隣で寝てもいいよ」


 何を言ってるんだこいつは。


「そんなことを言ってないで寝るぞ」

「なんでよ。私のこと好きなんでしょ?」

「はあ?」

「バレバレだから。あの海の日以来少し意識してるでしょー」


 う、ばれていたようだ。


「手を出す気はないから」

「あ、引っかかったね、私別にそう言う意味で誘ってないよ」

「……寝る」

「あー待ってよ。冗談はやめにする。ここからは真面目モード」


 冗談?


「私はさ、せっかく二人でのお泊りだから、君と寝たい。だめかな?」

「……」


 そんなこと言われたらこっちが弱い。こっちだって本当は一緒に寝たいし。


「分かった」

「やった!!」


 そして俺たちは一緒に寝た。

 そして特にイベントなどもなく、すぐに朝になった。

 一緒に寝た感想としては、特に何も無い。鈴奈自体、寝相が良かったのもあり、別に一緒の布団にくるまっただけで、特別感は感じなかった。

 ただ一つ、変わりがあることは彼女を起こすのが楽だったっということだ。体を揺らすだけで素直に起きてくれた。


「じゃあ行こう!!!」


 なんで起こされた方が先導しているの? と言いたいのを胸の中に抑え込み出発する。なんやかんや言っても計画を立てているのは鈴奈なのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る