第2章―会社創業編 第15話 親戚へのプレゼン 【1999年5月】
次の週末には、一郎さんの自宅に一郎さんと次郎さんと俺と父さんとじいちゃんに集まってもらった。
俺と父さんとじいちゃんは父さんの車で向かうことにした。おじいちゃんは、県庁退職後免許の返納をしていた。県職員だったおじいちゃんにとって、事故はご法度だったらしい。前回の人生で数年に1回は物損を起こしていた自分とは大違いだ。ゴールド免許になる事はなかった。
「今日は。珍しくみんな集めてどうしたんだ。俊和さんとそしてご無沙汰しています俊和さんのお義父さん」
一郎さんが父さん達に向けて話し始めた。一郎さんは、母さんの兄弟となるので、父さんの父にあたるおじいちゃんとはあまり会うことはないだろうな。おじいちゃんも一郎さんの実家は数えるぐらいしか行ったことないと思う。
おじいちゃんの実家と母さんの実家である一郎さんの家は1キロも離れてなく小学校の学区は違ったらしいが、田舎では祭が大きいので、祭などでは父さんと母さんは会っていたのではと思う。そこまで知らない土地ではないらしい。
「今日は集まってくれてありがとうございます。詳細は、息子から話すので、和久宜しく。」
父さんが一郎さんに向けて返事をした。
僕は、今日のために作成した会社経営内容の資料を回しながら話し始めた。
「今日集まって頂いたのは、現在自分達が行っている事業についてです。まずお配りした資料を見てください。今年の3月に自分自ら会社を立ち上げました。もちろん立ち上げ費用は自分で支払っています。まず会社の住所を見てください。設立直後ながら、名古屋駅前の1フロアに拠点を設けて事業を開始しました。現在働いているのは、自分とおじいちゃんです。」
「後、母さんの名義を借りて計3人です。経営内容としては、現時点では株の運用だけをしています。運用だけで会社が立ち行くのか思われますが、次のページに運用資金の月別推移の記載があります。」
「運用資金は、現時点で2億円となっており引き続き増え続けております。」
ココで一息入れてお茶を飲みながら、話をつづけた。
「さてここからが本題ですが、伯父さん達2人にはうちの会社に入って頂き、今後の会社の運営を手伝って頂きたく思っています。」
「お二人には、定年退職後、もしくは定年に迎えるに当たり、甥っ子である自分の立ち上げた会社を手伝って頂けないかと相談に伺いました。」
「まずこの資料って俊和さん、本当ですか?」
黙って聞いていた一郎さんが眼を資料に向けたまま、資料をめくっていたが、頭を上げて俺ではなく、父さんに質問してきた。
「私もびっくりしていますが、それが運用資金として証券会社にある今の法人口座の残高です。そして拠点も本当です。私も会社設立前の2月から話を聞いていますし、会議も毎週行っております。もちろん私は、サラリーマンなので現時点では、会社に入社しておりません。」
父さんは一郎さんから話を振られると思っていなかったので、少しびっくりしながら答え始めたが、途中には落ち着いた口調になっていた。
「もし本当だとすると、何時から株の運用をしているんだ?和久は確か18だったか。」
一郎さんは、私の方に向けて改めて話始めた。眼力がすごかった。
「昔から株投資のシミュレーションはしていましたが、実際の運用は大学が受かった今年の2月からです。運用を始めた頃から、他の投資家が株を買いたいと思った時に、私は持ち株を高値で売って、他の投資家が株を損切りした時に、私が株を安値の時に買ったりしながら、稼いで利益を上げてきました。今後会社が大きく飛躍するために伯父さん達の力が必要なんですよ。お願いします。」
一郎さんの眼力には、圧倒されがちになりながら、私は背筋を伸ばし今まで思っていたことを力強い口調で話した。
「内容はわかったが、それで俺たちがお前の会社にどう必要なんだ?」
一郎さんは、首をかしげながら聞き返してきた。
ここで僕は、待っていましたとばかりに考えていた事を前のめりになりながら話をつづけた。
「はい、それも纏めてあります。次のページお願いします。運用資金は、引き続き株式投資を担当する私が頑張ります。伯父さん達には他の部門を担当して、会社を大きくしてほしいのです。」
「まず一郎さんには、最初に投資する予定の不動産会社を、次郎さんには全体の管理部門と今後発生が見込まれる銀行とのセッションを担当して頂ければと考えています。」
一郎さんは落ち着いた口調で話し返してきた。
「株はわかったが、不動産までお前はわかるのか?不動産の専門知識持っているのか?確かに俺は不動産会社にいたから経験で知識はあるが不動産は大変だぞ。」
「はい、土地の売買動向も株の売買同様に小さいころから、頑張って勉強してきたので大丈夫と思います。」
「勉強してきたからって、簡単ではないが本当に大丈夫なんだろうな。」
一郎さんは、40年間不動産業界にいた経験上、少し迫力を持った声で聞いてきた。
「まだ経験が浅いので難しい所も多々あると思いますが、一郎さんにフォローしてもらって頑張りたいと思います。お願いします。」
若干、伯父の一郎さんの迫力にたじろぎながら答えた。
「・・・わかった。まぁプレゼン内容には、改善しないといけない所は多くあるが、面白そうだし定年過ぎて手が空いたからやってみるか。なぁ次郎。」
少し間が空いたが、一郎さんは最後には納得してくれたのか頷きながら返してくれた。そして次郎の方を振り向いて声をかけてくれた。
「そうだな。俺の聞きたいことは一郎兄さんが聞いてくれたので、俺も手伝うよ。」
弟の次郎さんはずっと聞いていたが反論もしないで賛成してくれた。
「ありがとうございます。伯父さん達のおかげで、目標に大きく前進できるよ。給料は、とりあえず今年は500万円でいいですか?今は資金が少ないので許してください。来年度からは給与体系をしっかり決めて、払うようにしますから。」
僕はお茶を飲み干して返事をした。少しの時間だったがのどがカラカラだ。前の人生でもここまで緊張したことはあまりない。
「給与の件はわかったが、目標ってなんだ?」
伯父の一郎さんが引き続き、俺の直前の会話に食いつき聞いてきた。
「はい、目標って感じではなく漠然とした考えですが、人のライフステージ・イベントのあらゆる商品・サービスを自分の企業グループ内で提供できる環境を作り上げたいと思っています。簡単にいうと生まれた時から、死ぬまでのサービスを販売できる大きな経済圏を持った企業グループを経営したいと思ってます。」
これはイギリスの経済学者で政治家のウィリアム・ヘンリー・ベヴァリッジは、1942年に社会保険と関連サービスに関するベヴァリッジ報告書を発表している言葉になるため、若干異なるが、その中身は「この世に生まれてから去るまで、社会全体で面倒をみましょう」という社会保障制度のためにできた言葉である。通称「ゆりかごから墓場まで」と言われている。俺は、社会保障ではなくサービスとして一つの会社が提供できる企業として言っているつもりである。
前世では、楽天市場経済圏など楽天市場内ですべてが完結までしないまでも、人間の一生の大半は楽天市場内での取引で済むと言われている。これと同じことを今回俺は、目指しているつもりだ。
「それは難しいことをいうな。そこまで大きな事はいいが、とりあえずお前の思った事を手伝っていくよ。」
伯父の一郎さんはあまりわかってくれなかったが、俺のやる事を全面的に協力する事を約束してくれた。
ふぅっーっと一息がつけた。みんなから賛同が頂けるとは、思っていたが、実際賛同を頂けたときには疲れがどっとでる。
身内とはいえ、人にプレゼンするのってしんどいな。前世の経験が生きたかな。
後日一郎さんは、定年を迎えており、すぐに会社に入ってくれる予定となった。次郎さんは、まだ定年前で銀行に勤めていたのでそのまま銀行に勤めて頂くことになった。銀行員のほうがいろいろな事情を持った企業を投資案件として紹介してくれる。一石二鳥のため、そのまま在籍して頂いた。
後日、電話越しに銀行員の次郎さんに相談をした。
「では、この間一郎さんの家で話した感じで、後継者不足で悩んでいる。もしくは資金に行き詰っている不動産会社を探してほしいです。一度銀行内で確認お願いできませんか。」
電話を切り今後の展開を期待しながら、次郎さんの返事を待つことにした。
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1999.3 投資会社立ち上げ
1999.3 高校卒業
1999.4 投資会社 名古屋駅前に本社移転
1999.5 親族入社
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今後の投稿について(近況ノート)
https://kakuyomu.jp/users/cyanmathu/news/16818093077633895029
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