第12話 6月1日の夜

「はぁ。無駄な一日を過ごしたな」


 夜の11時が過ぎた。昨日は夜更かししたので今日は眠い。俺はもう寝ようかと思ったそのときだった。

 姫乃からメッセージが届く。


姫乃『ちょっと、出てきて』


 なんだろう、何かあったかな


佐原『どうした? どこに居る?』


姫乃『圭の家の前』


 俺の家の前? こんな時間にどうしたんだろう。親と喧嘩でもしたのか。前にもそういうことがあった。


 俺は慌てて着替え、外に出る。少し離れたところに姫乃は居た。


「どうしたんだ? 家出か?」


「違うわよ」


「じゃあ、どうした?」


「圭が……」


「俺が?」


「圭が……忘れ物してるから」


「忘れ物?」


 何か学校に忘れてきたと言うことだろうか。それを姫乃が持ってきてくれた?


「明日でいいだろ」


「明日じゃダメでしょ。今日何日だと思ってるの?」


「あ……」


 そこでようやく言っていることが分かった。今日はまだ6月1日。そして、俺はまだ姫乃に告白していない。姫乃は俺が告白を忘れていると思ってわざわざ家の前まで来たのか。


「もう、忘れてるなんて最低ね。早く済ませなさい」


「あ、いや……」


 どうしよう、告白はしないという作戦だったはずだ。だが、なんだっけ。その後のリアクションで告白をねだられたらする、ってことじゃなかったか。今の状況は告白をねだられているんだろうか。


「ほら、早く」


 間違いないな。これは告白をねだられている。城門を開けているところに攻め入る……。よし、俺は心を決めた。


「……姫乃、お前が好きだ。俺と付き合ってくれ」


 姫乃は俺を見た。まっすぐ見た。

 これは……



「ごめんなさい」


 姫乃は頭を下げた。


「は!?」


「じゃ、用も済んだし、帰るね」


 姫乃は自分の家に帰っていく。


「ちょ、ちょっと……」


 俺は姫乃を追いかけた。


「ん? 何?」


「送っていくから少し話そう。えっと、お前、告白されに来たのか?」


「そうよ」


「なんでわざわざ……」


「だって、圭が忘れてるからでしょ」


「結局断るなら忘れたままでいいだろ」


「断るとは限らないでしょ。望みはあるっていつも言ってるじゃん」


「いや、お前の判断なんだからお前は断るって分かってるだろ」


「そうだけど、圭からしたらそうじゃないでしょ」


「そりゃそうだけど……」


「圭が告白したいだろうなあ、って思ってきたんだから感謝しなさい」


「感謝って……」


 姫乃の考えることはよく分からない。


「じゃ、また明日ね」


 姫乃は家に入っていった。



 告白作戦会議のグループに報告する。


佐原『敵の夜襲に遭う。作戦を継続するも失敗』


 既読が付かず、反応は無かった。あいつら、もう寝てるな。


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