2度あることは3度ある

 「あれ、誰もいないのか?」


 走りこみを終え、夕方頃に家に帰ってきたリクは、玄関から感じる静けさを感じ取っていた。リクの家は道場を営んでいる為、基本的にこの時間帯は門下生達がいるのだが、彼らの声が聞こえない。


 「……警戒しておくか。一応だけど」


 自分の家の中だが、警戒しながらリクは歩く。本来であればこんな事をする必要はないのだが、リクは不審な静けさを感じ取った場合、家の中でも警戒するようにしている。なぜなら―


 「!!!」


 角を曲がり、庭に続く廊下に出た瞬間、前方から3人の子供達が木刀で斬りかかってきた。


 やっぱりそうくるよな、と頭の中で思いながらリクは彼らを迎え撃つ。


 1人目の木刀を軽く躱し、そのまま足払い。そのまま2人目が剣を振り下ろす前に、足で手から木刀を蹴り飛ばす。


 「っと、あと1人は……あぶねっ!」


 距離を取っていた3人目の突きを躱し、そのまま庭へと転がり、体勢を整える。その時点で先程襲ってきた3人にもう敵意は無く、転んだ仲間に手を差し伸べていた。


 「はぁ、お前らもかよ。ジン、アカネ、シュン」


 「うわー、今日も勝てなかったか」


 「作戦は考えたんだけどね」


 「次こそはリク兄ちゃんに!」


 呆れて言うリクに足払いから起こされたジン、ジンに手を貸してたアカネ、未だに剣を持ったままのシュンがにやにやと笑いかける。


 「いい加減してくれよ。なんで皆、俺に不意打ちしてくるんだよ」


 「えー、でもこれも訓練になっていいんじゃないの~?」


 「いや、流石に限度はあるぞ」


 文句を言うシュンに反論するリクに、アカネが手出しながら近づいてくる。


 「ちょっと、これ見てよ!」


 ぷんぷんと怒る彼女の手はリクが刀ごと蹴ったせいで赤くなっていた。これにはリク自身も少しは申し訳ないと思う。


 「ごめんな、でもあの時はあーするしかなかったんだよ」


 リクの謝罪を受けてもアカネは怒っていたのだが、


 「あー、これじゃー、お、お嫁さんに、い、行けなくなっちゃうナ~」


 「それは……少し大袈裟じゃないか?」


 「ちょっと!!!お兄ちゃん、本当に悪いと思ってるの?」


 手以上に顔を赤く染めてたと思ったら、急に怒りだしたアカネにリクは困惑する。

 

 「いや、先に攻撃してきたのはそっちだから、な?」


 「はー、アカネちゃん、諦めなって。リク君はそういうのじゃないって」


 「そういうのってなんだよ、ジン」


 やれやれと言った表情で庭の軒下に座りながらジンに反論するリクだが、それを無視してジンは言葉を続ける。


 「そういえば、さっき『お前らも』って言ってたけど、なんかあったの?」


 「あー、実はツバキにも不意打ちされて、これで今日2か――」


 話している途中、瞬間的に殺気を感じ、考える間もなく身体が反応し一気に後ろに飛び退く。刹那、土煙が上がり、元々リクがいた場所には木刀が突き刺さっていた。そしてその木刀を握っているのは美しい黒髪の女性だ。

その女性を見ながらリクは冷汗が止まらなかった。少なくとも、あの一瞬反応が遅れていたら、いくら木刀と言えども悲惨なことになっていたに違いないからだ。


 「「ひっ」」


 「……」


 ジン、シュンの2人はその殺気だった女性を見て、完全に震えあがっている。アカネに至っては完全に白眼を向いて気絶している。


 「これで3回目かよ…」


 「……」


 顔を手で押さえるリクの前で、木刀を地面から抜きながら女性が立ち上がる。その女性は一気に距離を詰め―


 「ストーーーーップ!!!!アカネが気絶してる!!!」


 「……」


 リクの言葉に身体を一瞬振るわせた女性は、無言で軒下の方を振り返る。


 「あ、あ、あ」


 「ち、ち、違うんです、ぼ、僕達、そ、その……ごめんなさい!!!」


 「……」


 女性を見てジンは言葉が出ず、シュンは何故か謝罪をしている。そんな2人と横で気絶してるアカネを見て、女性の雰囲気が一気に変化する。


 「あら、ジンとシュンじゃない……じゃなくて、アカネちゃん!どうしたの!」


 先程までと一気に変化した雰囲気で2人に話しかけ、焦った様子でアカネに駆け寄るリクの母親‐ミズキを見て、ジンとシュンは呆気にとられる。


 「え、ミズキ……先生?」


 「まじかよ」


 アカネを介抱するミズキを見て唖然とする2人にリクが歩いて近づく。


 「あー、2人、というかアカネもだけど、ジンとシュンは、鬼の母さん初めて見たのか」


 「リク君、俺達、怖すぎて全く気付かなかったよ」

 

 「お、鬼」


 ジンの言葉にシュンがポツリと呟く。彼らが知っている彼女は道場で教えている先生としての姿なのだろう。


 「俺が子供の時に何かしでかした時とか、父さんと本気で喧嘩した時にしか基本見れないんだけどな」


 昔、彼女が冒険者をやっていた時はその美しさとは裏腹に、殺気だった時の恐ろしさから知り合い達からは鬼姫とか言われていたらしいが、全く持って否定できないのが怖い所だ。


 「俺、今度からミズキ先生は絶対に怒らせないようにする」


 「お、俺も、稽古もっと真面目にやる」


 ジンとシュンはこれから先は、彼女の事をこれまでと同じように見ることはできないだろう。少し気の毒に思うリクだった。



 


 「あ、アカネちゃん、目を覚ました?」


 「……はっ!お、鬼は!!!鬼は、どこ!?」

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