忘却の時魔術師

東雲潮音

プロローグ

???

 かつて世界全体を闇で喰らい尽くそうとした魔王が突如現れた。魔王はその眷属として、魔人、魔物を率いて、他種族へと侵攻を開始し、世界は危機に陥ったのだった。

国々は結託し、連合軍と魔王軍の戦争が開始したのだが、戦争は熾烈を極め、連合軍は壊滅的な状況であった。そんな中、ルクス王国を中心とし、各国から集められた冒険者達が戦況を一変させた。

 

 「はああぁぁぁぁぁ!!!」


 その城はかつて、とある文明が栄えていた国の城。しかし現在、そこは世界を呑み込もうとする軍団に占拠され、人々は恐れを込めてそこを魔王城と呼んでいた。その城の最奥の間では、今まさに世界の行く末を左右する決戦の場となっていた。


 全剣士が弾き飛ばされ、床に転がる。その手に握る剣は、血に濡れて、本来の銀の輝きはほとんど失われ彼女の髪と同様に真紅に染まっている。追撃で彼女に向かって放たれた魔法が、逆の方向から放たれた魔法によって相殺される。


 「大丈夫ですか、―――」


 相殺したのは男性のエルフだ。剣士に駆け寄った彼は、その場に魔法壁を展開して、次の攻撃に備える。


 「いま、回復魔法を、っておい!待て!」


 「うおおぉぉぉぉぉ!!!」


 回復を待たずに剣を構え、魔法壁も無視して再度突進をする剣士。彼女が突進をする先にいるのは、この世界を闇で呑み込もうとした存在‐魔王。奴が再び自分に無謀な突進をしてくる剣士に向け魔法を放った。


 「頼む!―――!」


 「えぇ、任せて」


 叫ぶ剣士の声に静かに反応したのは、美しく長い黒髪を持った武士。彼女は放たれた魔法をその手に持っている刀で断ち切り、剣士が進む道を作るが、陰から魔物が2体飛び出す。それでも剣士は一瞥もくれない。無防備な剣士に向かい、魔物がその鋭い爪を振り下ろすが、爪が到達することはなかった。1体の魔物は腹を岩に貫かれ、もう1体は飛んできた戦士に腹をその拳で貫かれた。


 「こんな雑魚じゃ!相手にならねーんだよぉ!!!」


 魔物を貫いた戦士は、その場にあった巨大な瓦礫を持ち上げ、


 「くらえやぁ!!!」


 そのまま魔王に投擲するが、それを魔王は岩魔法を放ち、あっさりと迎撃する。


 「おらぁぁぁぁぁ!」


 砕けた瓦礫の背後から剣士が飛び出した。そのまま、魔王に斬りかかる。


 「!!!」


 魔王は即座に魔力壁を展開して剣を受け止めるが、


 「展開しやがったな!」


 「……断ち切ります」


 同様に剣士の背後から接近していた武士が魔力壁を魔力ごと断ち切り、消滅させる。


 障害が無くなったことで、剣が届くようになった剣士がそのまま斬りかかるが、魔王は正面で右手で剣を抜き受け止める。


 「ここ!」

 

 魔王の空いた左側への武士の一閃は左手で抜いた剣によって防がれたが、


 「両手が、塞がりましたね」

 

 「いまだ、―――!」


 「わかってる!」


 剣士に名前を呼ばれた戦士がその腕に岩魔法を纏いながら右側から突進する。


 「くたばりやがれぇ!!!」


 「!!!」


 戦士の岩を纏った右ストレートで喰らった魔王が吹っ飛ぶが、まだ闘いは終わっていない。


 「お前ら!そこをどけ!俺と―――で止めを刺す!」


 魔導士が叫び、3人が一気に魔王から距離を取る。


 「いいか、アイツの動きを止めれるのは3秒が限界だ」


 「ああ、わかってる。皆のお陰で魔力を集中することはできた。それで十分だよ」


 魔導士の横で返事をする騎士。彼が身に付けている鎧は、戦場にいなければその美しさから、国宝にされていてもおかしくない程の鎧。そして剣は剣士の持っている血塗られた剣とは違い、一切の曇りが無く銀に輝いている。


 「―――、今だ!」


 魔導士が魔法を展開し、既に立ち上がっている魔王を氷漬けにする。だが、すでに亀裂が入り、今にでも砕けてしまいそうだ。それでもその騎士が接近して、一太刀を浴びせるには十分な隙。


 「くらえ!魔王!」


 騎士は光を纏わせた剣を氷ごと魔王を突き刺し、そのまま当たりが強い光に包まれて――、


 


 * * * *




 「オレ、2回戦あるとか聞いてないんだけど」


 「ええ、そうですね」


 先ほどまで鬼が宿るような表情をしていた剣士も、本来の整った美しさが伺える落ち着きを取り戻したが、芳しい表情はしておらず、隣にいた武士も、戦闘中では一切崩さないはずの表情から焦りが読み取れた。


 「……っぷはぁ、、、おい!―――、魔力の残りは?」


 「魔力は大丈夫です。ただ、回復用のポーションの残りが、」


 戦士は身体中の傷を癒すためにポーションを飲みながら魔導士に尋ねる。魔導士の発言と表情からも、状況がかなり悪い事を表していた。


 「大丈夫だよ、皆。まだ――彼がいる」


 そう皆に声をかけた聖騎士も、顔からは疲労が隠せずにいた。それでも彼の発言を聞いた全員の瞳に力が戻る。


 「そうさ、―――がいれば大丈夫さ!」


 「ふふっ、―――様と一緒なら、私達は負けません」


 「俺が本気で挑んでも、―――には勝てないからな!」


 「……それ、自分で言ってて悲しくならないのか?まあ、身を持って―――の強さはお前が、一番知ってるんだろうけどさ」


 彼らの言葉を聞いて、騎士は微笑みながら、安堵の表情を浮かべる。それは皆が元気だというのとは別の理由で安心しているようだった。


 「……その様子だと、大丈夫そうだね。僕達全員、―――の事をまだ―「オオオオオオォォォォ!!!!!!!!!」


 彼らの準備を待つ間もなく、突然、魔法が放たれた。魔法は津波のように押し寄せ、到底回避ができるようなものではなく、本来なら1パーティではなく1兵団に向けて放つ規模だ。


 「おい!マズいぞ!防御は!?」


 「魔力は話しながらも集中していました。だが、この規模では!」


 叫ぶ剣士に、魔導士が素早く魔力壁を展開するが、彼の発言から察するに長くは防げないようだ。


 「わ、私が、この刀で、断ち切ります」


 「駄目だ!あの規模の魔法はその刀じゃ切れない!


 動揺しながら前に出ようとする武士を騎士が止め、


 「―――!君の岩魔法で防壁を何重にも構築を!」


 「おう!任せろ!」


 戦士が岩魔法でバリケードを構築する。それでもこの魔法を防げるかどうかは、余りにも未知数だった。


 「くるぞ!」


 騎士が叫び、全員が魔法に備える。だが魔法は彼らに到達せずに過ぎ去り、後方にあった壁をあっけなく破壊したのだった。


 「!?この魔法は!」


 「あの野郎、やっと来やがったか」


 驚く騎士に、不敵に微笑む剣士。そこに突如、彼らの前に瞬間移動かの如く、1人の青年が現れた。軽装備に身を包み、まるで戦争などは無縁かと言わんばかりの顔つきだが、その瞳からは強い決意がみなぎっている。


 「ごめん、皆。お待たせ」


 その青年は振り向き、微笑んだ。

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