私道侵入男

 ====== この物語はあくまでもフィクションです =========

 ============== 主な登場人物 ================

 戸部(神代)チエ・・・京都府警警視。東山署勤務だが、祇園交番に出没する。

 神代宗佑警視正・・・京都府警東山署署長。チエの父。

 船越栄二・・・東山署副署長。チエを「お嬢」と呼んでいる。

 小雪(嵐山小雪)・・・チエの小学校同級生。舞妓を経て、芸者をしている。


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 午前8時。祇園私道。

 4月に入ってから、出入り口付近に、『通行禁止 罰金1万円』の看板が建てられている。観光客が私道に入らないようにするたである。狭い路地が多い祇園では、ツアーガイドに連れられて歩く観光客で溢れ、カメラ片手に歩き回り、舞妓や芸妓を追いかける観光客が後をたたないからである。

 元々ツアーガイド(ツアーコンダクター)が、過剰サービスで行った案内は、マナー指導不徹底が祟って、環境客を案内するから悪い、との声もある。

 花見小路ではすでに、外国人観光客向けにマナー啓発の看板が立てられているが、現状を見かねた地元の要望に、祇園南側地区協議会が指摘している新たな看板の設置は、公道から枝分かれする私道を対象にしたものである。

「マテー!!」と言って、カメラ片手に追い掛ける人物がいた。その前には、私道に入って走る男がいた。男は、帽子を持って走っている。

 両方とも外国人のようだ。

 行く手に、小町が立ちはだかった。

 小町は、先に追って来た男にグーパンチを撃った。

 男は、もんどりうって倒れた。

 後から来た、男は叫んだ。「ひったくりです、『婦警』さん。」

 小町は、カメラ男の後ろに回り込み、警棒でカメラを叩き落とした。

 継いで、警笛(ポリスホイッスル)を鳴らし、カメラ男の腕に手錠をかけ、先の男の倒れている場所まで、引きずって行き、かけた手錠の反対側の輪を先の男の手にかけた。

 そして、カメラ男の腰をキック、倒れたカメラ男と、先の男の股間を踏んづけた。

「どう見ても、グルやないか。」

 カメラ男は、英語で何か叫んだ。

「ユー、ウィル、リメンバー、ユー、ディッド!!(You Will  Remember You Did!!)」小町が叫んだ、数秒後に警官隊がやって来た。

 警官隊は、男達の股間が濡れていることを、見て見ぬ振りをして、小町に敬礼した。

 午前9時。東山警察署。取り調べ室。

 机の『脚』に手錠をかけられている、私道侵入男2人。

「英語で言い逃れしようと思うなよ。ウチは英検2級や。それに、今は、翻訳アプリもある。それと、四条河原町から、あんたらを追い掛けてたんや。チビリたくなかったら、大人しく白状せい。どこの廻しモンや。New Tuberとか言うてたけど、アンタらが申告したアカウント名は、存在セエへん。帽子のDNAも取っといたで。」

「ネットで、ええバイトあるから。楽やから、絶対バレへんからって言うてたんです。」

 小町は、2人を改めて往復ビンタをした。

 男達の内、1人が、何か呟いた。

 小町は、胸の谷間から、ICEレコーダーを出し、自動翻訳機の前で再生した。

 途端に、自動翻訳機のアプリが作動して、やや機械的な口調で発音した。

《裁判で吠え面かくなよ》

「どういう意味か言うてみぃいいいいいい!!」

 男達の股間は、また濡れ始めた。

 副署長が入って来た。

「はいー。良い刑事悪い刑事普通の刑事、どれがいい?」と、船越は2人に尋ねた。

 すると、2人は「この人以外」と、異口同音に言った。

「そら、そうやわなあ。」と、船越は、にっこりした。

 署長室。

 小町と署長の神代は、鰻重を食べている。

「ちゃん。EITOのメシは上手いんか?」「あ?陸自から、賄い要員が交替で来るらしい。たまに、芦屋食品の弁当が出る。」「たまに、っていつ?」「『敵倒した後』やな。」

「ちゃんは、厄介払い出来てエエと思うてるん?」「うん。」「言い訳せえへんねな。」

「言い訳したら、お前にシメられるがな。暴れん坊小町に。」

「そうですか。」「そうです。せいぜい、お気張りやす。」

「メール書いてもええか?」「メール?」「『業務連絡』や。」

「ええよ。」「ちゃんは、おばあはんに『業務連絡』入れるん?マザコンやさかい。」

「人聞きの悪いこと言うなや。愛情やないか。」

「そうですか。」「そうです。せいぜい、お気張りやす。あと一日や。」

「後一日、って、勤務まだ終ってないやん。「引っ越しの準備もあるやろうからな。今の内やで。明日、五時過ぎたら、出発やからな。」「鬼やな。向こうの住まいは?」「その内、見つかるやろ。小柳に言うといた。」

「ごっそはん。」

 小町が署長室を出て、取り調べ室の前を通り過ぎる時、中からすすり泣きが聞こえた。

「今の内に泣いておき。」と、小町は、囁いた。

 バラさんこと、茂原刑事が部下を引き連れ帰って来た。

「お嬢。しらべは?」「船越のオッチャン。」

 小町が署を出て行くと、茂原は部下に言った。

「後1日の辛抱や。分かってるな。」部下達は、黙って頷いた。

 外で、パトカーが猛ダッシュする音が聞こえた。

 誰もが、聞かなかったことにした。

 ―完―


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