推定冒険者ランク上級ダンジョン“旧支配者の古城“ ジャガーノート・スパイダーのお好み焼き

「蜘蛛はチョコレートの味がするとか聞いたけど、違うね。これ、めちゃくちゃ美味しいわ。なんだろ? 蟹? なんか乾き物みたいな味もする」

「はい! 不気味な見かけの割になんとも美味ですねぇ! 店長、ニーにも食べさせてあげたいです」

「ハハっ、もうニーさんが当店を離れて十日かぁ」


 ニーさんの代わりになりそうな魔道具や御神体的な物をダンジョンで探しているわけで、今回は上級ダンジョン。かつて魔王の一角といわれた旧支配者なる魔物が居城としていたダンジョン。何か役立つものがあるだろうかと探索してみると、蜘蛛型の魔物の巣窟となっていた。

 そしてとりあえず一匹捕獲して食べてみたところ、中々の美味。お酒に合いそう。店長は何に合うだろうかと思いながら、ミドさんとダンジョンを進む。

 

「撃て撃て! 魔法使い! 炎の魔法!」

「右からも来たぞ! 狩れ狩れぇ!」

 

 このダンジョンはどうやら、相当な魔物討伐依頼が出ているらしい。あちこちでわきまくっている魔物を討伐している冒険者達。蜘蛛以外にも虫型の魔物が多く棲息しているらしい。

 

「炎より氷の魔法の方が効果的っぽいけどなぁ」

「そうなんですか? 店長ぉ。このダンジョン全て氷漬けに」

「それは良くないかなぁ?」

「ふふっ、ですよねぇ!」

 

 虫は低温に弱い。が、炎の魔法で一掃している見た目の派手さに冒険者達は炎の魔法を多用している。炎の魔法で魔物を焼き尽くしていくと煙が発生する。煙がダンジョン内を満たすとどうなるのか。

 

「大群だ! 魔物の大群が押し寄せてきた!」

 

 何がしホイホイのように煙によって様々なモンスターが燻り出されてきた。そんな中で巨大な蜘蛛型のモンスターが出てきたのでさぁ大変。並の炎の魔法では退治できない。冒険者達が慌てふためている中、ミドさんが腕まくり。

 

「あれは食べ応えがありそうですね!」

「気をつけてね」

「はぁーい! 私の事、気にかけてくれる店長、好き」

 

 そう言って冒険者達の前に立つミドさん、彼女に冒険者達が「アンタ危ないぞ! 逃げろ」と声をかけると睨みつけ。

 

「誰の心配をしているんですか? 人間の分際で、ブリザード・チェーンソー!」

 

 氷のブレードを生み出すとミドさんは一撃の元に巨大な蜘蛛型モンスター。ジャガーノート・スパイダーを葬った。すぐさま店長が駆け寄ってくる。マグロでも解体するような大きな包丁をマジックリュックから取り出す。

 

「この前の下町の鍛冶屋さんはいい仕事したね」

「えぇ! 人間にしては大したものです」

 

 ジャガーノート・スパイダーの足や胴体を解体していく。体液は苦いのでそれはそこで捨ててしまい。使う分だけ残してあとは冷凍保存。

 

「本日は何を作られるんですかぁ?」

「ふふーん。この前錬金術師の人に作ってもらった鉄板を使いまーす」

 

 テーブルの前に鉄板を固定して、火を起こす。その間に小麦粉、葉野菜。卵、そして一口サイズに切り揃えたジャガーノート・スパイダーの足の肉。スライスしたオーク肉を油を引いた鉄板で焼いて、生地を流し込む。

 

「お好み焼きです!」

「わぁ! いい匂いがして美味しそう! これは麦酒が合いそうですね」

「ミドさん、さすがだね。そう、ハイボールかビールがおすすめだね」

 

 冒険者達は一体何が起きたのか? そして頭が冷静になってくると、これはまさか! あの有名な居酒屋なのかと理解してくる。

 

「居酒屋“ダンジョン“開店です! 本日のおすすめはこちら、ジャガーノート・スパイダーのお好み焼き! ドリンク二杯ついて銀貨一枚の銀ベロセットがおすすめですよ」

 

 割高の居酒屋“ダンジョン“がどこかしらのダンジョンで開店する話は聞いていた。一体いつ頃からそれが開店し、誰が何の為に行っているのかあまり人々は知らない。ただし、見たことのない美味しい料理が提供されるそのお店。

 ダンジョンを攻略する冒険者であれば、一度は食べてみたいというプラチナランク飲食店である。

 

「店長さん、銀ベロ一つ!」

「こっちは銀ベロ二つで!」

「オークのステーキできますかー?」

 

 たまに常連もいたりする。そんな中で初めてこの居酒屋を使う若い冒険者の一人が店長に誰もが思っていたが、誰も聞かなかった事を尋ねた。

 

「店長さんってなんでダンジョンでお店開いてるんですか? これならどこかの町で開いても大盛況じゃないですか? まぁ、ダンジョンにいないとダンジョンの魔物は仕留められないですけど、それも冒険者に依頼すれば手に入りますよね」

「そうですね。コストを削減する意味合いも大きいんですけど、実はとある人を探していまして、そのとある人に俺の作った料理とお酒を振る舞いたくて、色んなダンジョンに潜ってお店を開いているんですよね」

 

 ミドさんがとーっても不機嫌そうな顔をする。そんな事、気にせずに冒険者は話の続きを所望した。

 

「店長さんが料理を振る舞いたい相手? 詳しく聞いても?」

「うーん、いつだったかなぁ」

 

 それは店長とミドさんの出会いの物語。

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