第5話 まずは一歩から

「うーん……」



 顔を覆う暖かさをもった柔らかい感触と甘いに匂いに幸せな気分になって目を覚ます。そして、目の前の柔らかいものの正体を知って思わず悲鳴と共に体をおこす。



「うおおおおお? おっぱい!! 俺は一体何を……」

「セイン様、おはようございます。気持ちよさそうに眠ってらっしゃったので添い寝をさせていただいたのですが……ごめいわくだったでしょうか? そうですよね……私のような大きい胸……」

「いやいや、最高だったよ。毎日添い寝してほしいなぁ!!」

「ほんとうですか!! セイン様にそう言っていただき幸せです。では……今晩からセイン様のお部屋にお邪魔させていただきますね……そして、情欲を持て余した男女は……」



 どんどんしょんぼりとしていくシグレに慌てて返事をしてその胸元に抱き着くと。満面の笑みで抱き返してくれる。ぶつぶつと言いながら顔を真っ赤にしているがその言葉は聞こえなかった。

 彼女が自信を取り戻すのは一朝一夕では済まないということだろう。まあ、俺は巨乳に甘えられて幸せ、シグレも自己肯定感があがってウィンウィンになるのではないだろうか?



 そういえばヘスティア様が加護をくれるって言ってたな……



 彼女に抱き着きながら女神の言葉を思い出す。そういえば加護をくれたと甲斐あっていたような……脳内に直接ホログラムのようなものが浮かんできた。

 まるでレトロゲームのようでちょっと懐かしい。


☆☆☆


ヘスティアの加護スキル

ヒール:傷を治します。

アクセラレーション:一時的に身体能力が上がりますが体の負担も増えますので多用はしないでください


*あなたたち転生者の馴染みやすいようにてれびげーむ?風にしてみました。ほかの女の子を救えばスキルはふえますので頑張ってくださいね。


☆☆☆


「おお、すごいな……」

「どうしたんですか?」



 脳内に浮かんできたスキルに感嘆の声をあげていると、シグレが不思議そうな顔をしてといかけてくる。まあ、自分の胸にかおをうずめているやつがそんな声を上げたら疑問に思うよな……

 だけど、彼女をどこまでまきこんでいいものか悩ましいよね。



「いや、なんでもないよ。気になったんだけど、女性は魔法を使えるって言っていたけど、どんなことができるの」

「そうですね……基本的には火や水を生み出したり、大地を操ったり、幻影を使ったりすることができます。ただ戦闘で使えるようになるには訓練と才能が必要なのでかなり限られますね。基本的には強力な力を持つAカップ以下の女性が魔法使いとして戦場にでて、あとは生活を便利にするために使うくらいでしょうか?」

「あー、だからメイドさんたちも普通に使っていたんだ。怪我とかしたらどうするの? 回復魔法とかはあるのかな?」

「かつての勇者様や聖女様は使えたそうですが、今は王都に病を治せる聖女がいるとか噂話程度ですね、基本的にはポーションなどで治療しますよ」



 ヘラの加護で使えるのが攻撃だったら妨害系で、多分ヘスティアの加護で回復やステータスアップみたいだ。そして、それを使える人間は今のところ表立ってはいないらしい。

 だったら、俺が回復魔法とかを極め有用性を示せばすればヘスティア様の信仰もあがるんじゃないかな? 

 そのためにはまずみんなに注目してもらえるようにならないと。そのためには強くなることが大事だ。そう……兄であるドノバンを超えればこの屋敷での発言権だって増すだろう。



「今日から訓練に行こうと思う。シグレもついてきてくれるかな」

「セイン様……ついに……もちろんです!!」



 なぜか嬉しそうにうなづくシグレが後ろを向くと再びさらしを身に着けようとしたので、声をかける。

 決して生着替えに興奮して凝視したわけじゃないからね。



「それじゃあ、胸がいたくなっちゃうしかたちもくずれちゃうよ。ブラジャーとかつけてから締め付けた方がよくない?」

「ブラジャー……ですか?」



 ああ、そっか巨乳には人権がないし、貧乳はその平らさをアピールするからそういうのはつくられていないのか……



「今度俺がオーダーメイドで作れないか聞いてみるよ」

「よくわからないですが、プレゼントをしてくださるのですか!? ありがとうございます」



 笑顔のシグレを見て俺は彼女とそのおっぱいのためにも必ずやプレゼントすることを誓うのだった。






 屋敷から少し離れた兵士たちの訓練場に行くと様々な声や音が響いていた。訓練用の剣と剣がぶつかり合う金属音や魔法の炸裂する音を聞いて本当に異世界なんだなと実感する。

 だけどさ……



「なんで女の子たちはみんなあんなに露出高いの? 戦闘用だよね、なんにも守れないくない?」



 そう、男の兵士たちはイメージ通りの鎧を身に着けているのだが、問題は女の子たちの格好だった。体にぴっちりとフィットする胸元から下半身まで覆う衣装……ようはワンピースタイプのスク水にローブを身につけているのである。

 なにこれ、貧乳痴女カーニバルかな? うちの親父変態すぎでは?



「なにをおっしゃっているんですか、ああして女性であることをアピールし、谷間を強調することによってその魔力の高さを見せつけ、相手をけん制するんですよ」

「ああ、そうなんだ……一応理には適ってるんだね……」

「はい、それに胸元を強調することによって、ヘラ様の加護を得やすくなり魔力もあがるそうですよ」



 シグレの言葉に頭が痛くなってきたのに耐えながら、俺は兵士たちの元へと進む。これで女の子たちが巨乳だったらテンション上がるんだけどね。



「あれ、なんでセイン坊ちゃんが訓練場に……?」

「ドノバン様に痛めつけられて二度とこないっていってたのに……」

「あれじゃないか? エッチな女魔法使いたちをみにきたんじゃ……お年頃だし……」



 俺は坊ちゃんでドノバンは様か……こそこそと聞こえてくる声でいかに軽んじられているかがわかる。この世界は魔物などもいるため彼らの存在は大事なのだ。

 現にうちでも定期的に優秀な人をスカウトしたり、王都から教官を招待している。



 それなのにこれはまずいよね……まずは俺が舐められないようにしないと


  

 木剣を握ると思ったよりもしっくりときてどう振るかがわかる。セインも兄にいじめられながらも訓練はしていたからだろう。体が覚えているのだ。



「これなら神聖術とあわせれば多少はいけるかな……」



 兵士たちの訓練をサポートしているのか、少し離れたところで、彼らに指示をしているリーダーっぽい女性に声をかける。セインの記憶にないってことは新しく来た人なのだろう。



「お姉さん、誰かに稽古をつけてほしいんだけどいいひといないかな?」

「ん……あなたは確か……セイン様ですね、最近は稽古を欠席していると聞きましたが、どうしました?」



 ちなみにだが、この人の場合も体のラインを強調するような鎧でありぞくにいうビキニアーマーを身に着けている。とはいえ、例によってその谷間は皆無である。



「うん、俺も少しは戦るようにならなくちゃって思ってさ……」

「それであえて私たちに声をかけたと……気合は十分なようですね」



 なぜか興味深そうに笑った女の人はこちらを観察するようにして上から下まで見ると、チンピラみたいな男の人に声をかける。



「それでは我が部下で最も適した男を紹介しましょう。ケルベー相手をしてあげなさい!!」

「げぇー、ヒルダの姉御。なんで、俺がガキの子守なんて……」



 女の人にこえをかけられたのは目つきの悪い二十代後半くらいのひげずらの男である。まあ、俺の相手をさせられるくらいだから兵士たちの中で一番弱いのかもしれない。



「セインだ……よろしく頼む」

「坊ちゃんの噂はきいてますぜ……俺は弱いんでね。あいにく手加減できるほど器用じゃないんです。剣がぶつかって泣かれてもこまるんすよねぇ……」



 ガラの悪い男の子供をあやすような声に周りがクスクスと笑い声をあげる。これは予想以上になめられている……だけど、ここで引いちゃいけない。

 そう思っていると、後ろに控えているシグレと目があった。



「セ、セイン様……応援していますよ。その……頑張ったら私、今夜色々がんばっちゃいます!!」

「ありがとう、シグレ。大丈夫だよ」



 今はサラシでおさえている胸を押し付けて気合を入れてくれるシグレに笑顔で答える。 一気にやる気でてきたぁぁぁ!! 

 そして、不敵に見えるように笑みを浮かべてケルベーに話しかける。



「お前はそんな泣き虫な俺に負けるのがこわいのか」

「坊ちゃん……安い挑発ですが、口は災いの元って言葉を知ってますか?」



 舐められないように挑発したけど正直怖い。こいつ鎧の上からもわかるけどマッチョだし、チンピラみたいな顔してるし……だけどさ、決めたんだよ。この世界の常識を変えるって。だったらひいてはいられないのだ。

 現に俺たちのやり取りを見て周囲の兵士たちが集まって来る。ここで少しは男気をみせないと彼らの心はつかめないだろう。

 まあ、俺だけ使える神聖術を使えば一般兵不意打ちくらいは噛ませるはず……



「お、セイン坊ちゃんがなんかやっているみたいだぞ」

「怪我されないよな……大丈夫か?」



 兵士たちの俺を心配するこえが聞こえてくる。どうかんがえても目の前のチンピラ兵士に一矢報いるとは思われていないようだ。

 だからこそチャンスなのだ。俺は全身にアクセラレーションを使い身体能力を引き上げた。



「仮に俺が怪我をしても文句は言わない。安心してくれ」

「俺はいちいち作法なんて知りません、だから実勢形式でやらせてもらいますぜ」

「実戦形式ってのはべらべらとしゃべることなのか、なら俺ももう戦場に出れそうだね」

「はっ、よくいったな、坊ちゃん!! この俺の剣をうけても泣かないでくださいねぇ!!」


 

 目の前のチンピラ……ケルベーの木剣がぶれたと思うと、一瞬でこっちに接近してきて……








セイン君は勝てるのか? お楽しみに。


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