お祖父様お祭りに行く 171話
儂の
「どういうことだと言われましても、私も書いてあること以上の事は分かりかねます」
儂はポエムに調査チームの立ち上げを命じた。
◇
次々に上がってくる調査書。目を通してはその無謀さにあきれ果てた。
無理だろ、これは……。
誰が指揮を取るというのだ?
しかし、同時に楽しみを感じている儂もいる。もしかしたら何かしでかしてくれるのではないか。そんな期待がうごめく。儂は執事を呼んで、祭りに行けるようスケジュール調整と宿の手配を頼んだ。
「旦那様、ターナー領へ向かわれるのですか?」
「ああ」
「あれほど……いえ、かしこまりました」
「それから、正式に行くのではない。忍びで行く。商人のふりができるように手配をするように」
「商人ですか。分かりました」
執事はすぐに出て行った。執事の驚きは分からんでもない。あれほどターナー領には足を踏み入れようとはしなかったからな。しかしなんだ。以前レイシアの言っていた言葉がどうにも引っかかるのだ。孤児院で学んだ。孤児が字を読める。一体、ターナー領は、
しかし、このことは妻には内緒にしないといかんな。
儂は執事を呼び戻し、秘密裏にするように釘を刺した。
◇◇◇
「神々しい」
孤児たちの歌声を聞いて、思わずつぶやいてしまった。技巧的な聖歌隊とは違う、素朴な、しかし心のこもった男女2部合奏。おい、指揮をしているのはクリシュか? 大きくなったな。アリシアの面影が強く出ている。父親に似なくてよかったな。
やがて歌が終わった。
チャン♪チャラチャラララ♪ チャン♪チャラチャラララ♪ チャチャチャ チャララン♪ チャラ チャン チャン♫
儂の感動を切り裂くように、オルガンがけたたましい音を奏でた。
すーはー???!!!
よく分からんが腕を広げる。体が硬い。運動など最近はしていないからな。
すーはー すーはー すーはー すーはー
何だこの心地よさは。体が温まる。頭がスッキリとする。まるで神の愛に包まれているようなこの感覚は……。
必死についていったら、いつの間にかすーはーは終わった。
聖なる儀式! 神の呼吸『スーハー』
確かに神の福音かもしれん。体が熱い。
儂の感動をかき消すように、ヤツがステージに上がった。
ふむ、真っ当なことが言えるではないか。領民たちが割れんような拍手でたたえておる。普段から慕われておるのか?
料理コンテスト。斬新な料理の数々が並ぶ。いくつか食べたがうちの食品開発室の連中にも食べさせたかった。発想が斬新だ! この領の人々は何でこんなに楽しそうなんだ? 何でこんなに自由なんだ?
楽しいではないか。祭り。
2日目も驚くことばかりであった。
孤児が字を読んでおる! レイシアから聞いてはいたが、やはり異様だ。しかも孤児たちが健康そうで楽しそうだ。この教会は何をしているのだ?
一瞬、霧雨が降り、空に虹が掛かった。
この気配は! あの時と同じだ。レイシアが特許を申請したときの神殿での神の気配。わずかだが神を感じる。
ここにレイシアはいないのか? レイシアに対する福音ではないのか。
だとすると……
この地は神が愛されている土地なのか?
この領の人々が神に愛されていると言うのか?
神殿のあり方が、神に認められているとでも言うのか?
神よ。
儂はいつの間にか虹に向かい祈りを捧げていた。
◇
あの神官に見覚えがある。
儂はポエムに神官をこっそりと連れてくるように命じた。
「何かありましたでしょうか? トラブルでも……」
「儂じゃ。オズワルド・オヤマーだ。お主はあの時教会にいた神官だな」
神官は儂の顔を見て驚いておった。
「なぜここにいる」
「はいっ! 本部の命令で1年間こちらの教会で研修しろと移動になりました」
「なぜお前が?」
「恥ずかしながら、立候補致しました。ここに来ればレイシア様に会えるかと」
「レイシアに? なぜだ!」
「神に……神に
「なるほど。敵意はないとそう言うのか」
「神に誓って」
「よろしい。それでこの教会、そして孤児院はどうなっているのだ。詳しく教えろ」
神官は、「忙しいので」と言いながら神父と領主、それにレイシアの素晴らしさを熱を入れて語った。
儂は神官に、今夜教会でこっそりと泊まれるように手配させた。
◇
祭りが終わって片付けが始まった。儂は一台残した馬車で、その様子を見ていた。
レイシアが集めたごみの山に近づくと、一気に炎が上がった。何をしたんだ?
領民が集まって酒飲みを始めた。
どうしたんだ? 領民が大声を出し始めた。
「クーリフト!」
「クーリフト!」
「クーリフト!」
みんながヤツの名前を叫んでいる? アイツがステージに上がったら、どこからか光がヤツを照らした。どうなっているのだ? 何が行われるんだ?
「皆、よくやった! 来年も祭りをやろう! 皆で楽しむんだ」
ヤツがそう言った途端、割れんばかりの歓声が上がった。
「「「おおお――――」」」
「クーリフト!」
「クーリフト!」
「クーリフト!」
クリフトコールが止まらん!
手でリズムをとる者。足を叩きつける者。領民が全身で喜び、ヤツを讃えた。
うらやましい程慕われているな、クリフト。領民にも子供たちにも。
アリシアは、そんな所が好きであったのだろうか。
アリシアが結婚する前にちゃんと向き合ってやればよかったのか?
儂らはアリシアの幸せを願って……。いや、儂らが向き合っていなかっただけなのかもしれんな。
いい男かもしれんな、クリフト・ターナー。認めたくはないが……。
アリシア、すまんかったな。
儂がアリシアの事を考えていたその時、また、神の気配がこの地に感じられた。
ああ、神よ。私たちを許してくれ給え。
そんな思いがあふれた。神の気配はちょうど酒樽が置かれていた辺りに集まると、やがてふわっと消えていった。
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