思春期流星群

維 黎

桃色シューティングスター

 令和6年8月12日午後22時過ぎ。T県S市にある早乙女女学園の特別教室などがある校舎の屋上に四人の女子生徒の姿があった。

 彼女たち四人は天文部で本日は流星群の天体観測の為、特別に校舎屋上での観測を許可されていた。顧問の女性教諭が付き添うという条件付きではあるが。ちなみにくだんの先生は只今絶賛レコーディング――音入れおトイレ中。


由美ゆみ、スマホの再チェックは済んだ? そろそろ流星が増えてくる時間よ?」

「ばっちりです、七瀬先輩。さっきまでの単発の流星も撮れてました。‶星撮りくん3″のアプリは無料なのにいい仕事してくれますね」

「去年の冬はうまく撮れなかった‶夜空写ルンです″のアプリからこっちに変えて正解だったわ」

「そういや小百合さゆり、空にむかって『この腐れアプリがぁぁ』って叫んでたわね」

「そうそう。私、ビックリしちゃいました。あの時、一条先輩がスマホを屋上から放り投げるんじゃないかと思いました」

「笑いごとじゃないわよ、高崎たかさき。あの腐れアプリに300円払ったのよ。それなのに使えないんだもの。ブチ切れても仕方ないでしょ」


 七瀬香澄ななせかすみと部長である一条小百合いちじょうさゆりは三年、木下由美きのしたゆみ高崎雫たかさきしずくは二年の合計四名が天文部の部員だった。


「さて、と。それじゃ流星群の撮影は‶星撮りくん3″に任せて私たちはを探すとしますか」

「「「――」」」


 香澄の言葉に残りの三人は無言でうなずくと、真剣な眼差しを星空に向ける。

 いつの頃からか天文部に代々と伝わってきた伝説がある。

 夏と冬。

 二大流星群のどちらかで桃色ピンクの光を放つ流れ星を見ることが出来れば、同じ日に青色ブルーの光を放つ流れ星を見た運命の相手と二年後に出会い一緒に流れ星を見ることになるだろう――と。

 平たく言えば、どこの学校にもある七不思議とか都市伝説のような思春期の学生の間で盛り上がるネタ的なものだ。

 何年か前の先輩は実際にピンクの流れ星を見て、二年後に出会った運命の相手と結婚した――との話はあるのだが、香澄たちがその先輩のことを直接知っている訳ではなく、今年卒業した先輩たちから聞いただけで真実はわからない。


(それでもまぁ――信じたくなるのが乙女心ってもんよね)


 心のうちでつぶやく香澄。

 小百合や由美、雫の三人にしたって全く信じていないということはないだろう。夜空を見つめる視線は真剣マジだった。


 満天の星。

 時折、光の尾を引いて流れていく。

 黒い夜空に白い流星――のはずなのだが。


「あれ?」


 香澄は思わず声を上げた。

 見知っている流れ星は1秒にも満たないだろう時間で、すぅっと消えていくものばかりだったのに。

 今まで見たこともないほど長い尾を引いて淡く輝く流れ星。時間にして数秒。

 

「――本当にピンク色に見えるんだ」

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