王者、福岡私立富滝高校との練習試合
俺は、高宮コーチの指導を受けてから、丹田のことが気になり、丹田のことを調べた。練習中は丹田をいつも意識するようになった。
今日も丹田を意識しながら練習をしていた。なんとなくだけど、スムーズに身体が動くような感覚がある。それに集中力が高まってくる。これには驚きだ。
「今日の練習はここまで。自主練するのは構わないけれど、休むことも練習だからな。身体を動かしたら、しっかり休ませる。それも忘れずにな」
高宮コーチはそれだけ告げると、すぐに体育館を去っていく。
高宮コーチも忙しいんだよな。忙しいのに
「あっ! 大事なこと忘れてた!」
高宮コーチは急に振り返って叫んだ。
「悪い、ひとつ、言い忘れていた。3週間後の土曜日、練習試合をやる。相手は、インターハイ、ウィンターカップの覇者、
俺たちは耳を疑ってしまった。
まだ、活動を再開したばかりで、3週間後に練習試合!? インターハイとウィンターカップの絶対王者だ。そんな相手と対戦するというのか。
「強豪校と聞いて、弱気になっていると、それだけでメンタルはやられていくぞ。あえて、強くなれとは言わない。でも、弱いなら弱いなりの戦い方があるんだよ」
高宮コーチはニッと笑う。
「こっちが福岡へ行く。朝早いけれど、これも大会に向けた練習だ。大会本番は、朝早く起きて活動することも大事だからな」
高宮コーチはそう言い残して、次の仕事があるからと体育館を後にした。
高宮コーチが去って行った後、俺たちは福岡の富滝高校と練習試合をするということに動揺していた。
高宮コーチが言うように、弱気になっていたらダメだ。弱いなら弱いなりの戦い方があると思う。でも、流石に、強豪校との練習試合は無理だろうとも感じてしまう。
強豪校の名前を聞いただけで、ビビってしまうのは、まだ自信がないからだろうか。それともレベルが違うと思い込んでしまっているからなのか。
俺は丹田に力を入れて深呼吸した。
ここで、慧が前向きに考えるために、マイナスの思考を断ち切った。
「大丈夫だよ、俺たちにだってできる。今の富滝高校のイメージを変えよう」
慧は更に前向きな言葉をかける。
「まず、富滝と練習試合ができることに感謝しよう。そう簡単に練習試合ができる相手ではない。それでも、練習試合を組んでくれたんだからさ」
俺は、慧がマイナスの思考を断ち切ってくれたので、続いて声をかけた。
「高宮コーチは、弱いなら弱いなりの戦い方があると言っていた。だから、俺たちで見つけようぜ」
達也は、慧と俺の言葉に頷き、頬を叩いて気合を入れていた。
「あぁ、そうだな。今の俺たちは弱いかもしれない。でも、これからだ! 俺たちは」
達也の声に、部員全員が前を向いた。
「よし、今日は解散!」
慧はそう言うと、体育館の掃除に入った。
全体練習が終わると、必ず、体育館に感謝の気持ちを込めて、掃除をすることが定番だ。
当たり前のことに感謝する。その気持ちを忘れるなと、これも高宮コーチに教わったことだ。
当たり前のことは、当たり前ではない。脳の慣れが当たり前にしてしまう。だから、当たり前のことを奇跡だと思って感謝すること。高宮コーチが言っていたことだ。
床をモップで掃除した後は、雑巾がけ。それが終わると、体育館の倉庫を掃除する。いつも、倉庫にボールやバスケット道具を置くから。
体育館の掃除が終わって、俺は帰り支度を始める。
俺は全員に前向きな声をかけたものの、正直、富滝高校と練習試合をすると聞いて怖いと思った。
ただの練習試合。それなのに、こんなに恐怖感があるとは。練習試合でこんなに恐怖感を持っていたら、大一番というときはどうなるんだ。心臓が飛び出してしまうかもしれない。
すぐ緊張するタイプだということは自覚しているけど、練習試合で怖さを感じるとは思わなかった。
多分、恐怖を感じているのは強豪校だからという理由だけじゃない。
その強豪校、富滝高校には……
「
美香の声がした。俺はハッとして我に返った。
「もしかして、まだ気にしてる?」
美香は何かを察したようだった。
美香は幼馴染で中学も一緒。まだ、ケガをしていなかったから、一緒にバスケをしていた。中学では男子、女子の監督が同じだったので、合同練習をしていた。
だから、富滝高校と聞いて、ピンと来たのだろう。
富滝高校には、同じ中学でバスケをしていた奴がいる。
そいつは……
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