第6話
訓練場の隅に
重厚な扉は開け放たれ、訓練用の木の剣や盾がぎっしりと並べられている様子が垣間見える。
ネトラレ気配の強さでわかる。建物の裏だ。
「ここからは絶対に声を出すなよ」
足音をたてないよう注意しながら裏手にまわる。
「ちょっ、もうヤメテ」
前に聞いたときの甘さは含んでいない。
武器庫の角から慎重に片目を出して様子をうかがう。
彼女は騎士服に着替えているが、
彼女は壁に背中を押し付けられていた。
両方の手首は、頭のうえで、ヤツの左手だけで固定されている。
【経験値】の増加速度はとても遅い。
今の状況ではネトラレとは判断されないようだ。
「えらく冷たい態度じゃねぇか、何があった?」
「世界が変わったのよ。アナタとの関係だって変わっても不思議じゃないわ」
彼女は鋭い目つきでヤツを睨んでいる。
「なんだと……浮気か?」
「違うわ、冷めただけよ」
「新しい男のことなんか忘れさせてやるよ」
彼女の唇が強引に奪われる。
「んっ!」
舌が押し込まれ、クチが強引に開かされた。
苦しそうに身をよじり、必死に抵抗している。
騎士服の腹部からヤツの右手が滑り込み、服の下の乳房が揉まれている。
生き物がうごめいているかのように、服が不規則に動く。
波打つ服は、時に早く、時にゆっくりと、緩急がついていた。
彼女の
【経験値】の増加速度が上がっている。
テッテレー♪テーレー♪テッテレー♪
突然頭のなかでファンファーレが鳴り響いた。
レベルアップの音だ。
しかし! 加護の確認は後。
今は二人の動きから目を離したくない。
「ぷはぁっ」
二人のクチははなれ、荒々しく呼吸している。
その間も彼女の胸は
「俺から離れるなんて絶対許さないぞ」
「かわいそうな男……。力でしか女を支配できないなんて」
「オマエは支配されるのが好きだったじゃねぇか」
あんなキツイ性格して彼女はMなのか?
「……そうね。だからこそ、もっと強い力で支配されることに快楽を感じるのよ」
「ソイツは俺よりも強いってのか!」
「暴力ではなく、精神的に、ね」
Mじゃなくて権力者に心酔するタイプなのか?
「チッ」
ヤツはおもしろくなさそうな表情で彼女から離れる。
解放された彼女は、痛む手首をさすっている。
「認めない。俺は認めないぞ――」
ネトラレ気配が俺に告げる。もう見せ場はないと。
食い入るように見ている
意図を察したようで俺の後をついてきた。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
二人に気づかれないうちに小屋から離れた。
周囲には俺たちの声を聞く人はいない。
「さあ
目をランランと輝かせる男子高校生がそこにいた。
「すまない
「やはり加護に関係してるんだな」
興奮しすぎて鼻息が荒い。
いや、俺も二人が交際していると知ったときは異様に興奮したな。
「今のところ言えるのは、委員長がイヤラシイことを始めるとエロセンサーが反応する」
「なにそれうらやま~~!! ……あ! トイレとか言って抜け出してたな」
「あの二人、部屋でやってたんだよ」
「
ぐいっと顔を近づけてくる。
「ドアは開けられないよ」
「生殺しかよぉ~。でもいいものが見れた、感謝するぜ」
まるでスキップでもするかのような軽い足取りだ。
「俺の加護を教えたんだ、オマエの加護も教えろよ」
「いいぜ、俺の加護は鍛冶師だ」
彼の返事でピンときた。
加護の規則性。
コイツの親は金物屋を営んでいる。
もしかすると親の職業に関係した加護が与えられるんじゃないか?
確か
――俺は?
両親とも普通のサラリーマンだぜ。なんでネトラレなんだよ。
例外もあるのか?
「どうした? 深刻そうな顔をして」
「鍛冶師がなにを作れるのか気になってな」
「材料さえあればなんだって作れるぞ」
「護身用の武器……、そうだな、ナイフがあると便利かもしれない」
「任せとけ、すげぇ~の作っておくよ」
「助かる」
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
夕食後、クラスメイトはダンスホールに集合していた。
【経験値】は増加していないのでプレイ中ではない。
いつものように
「調査結果はどうだった?」
「歴史については
彼女はクラスで二番目に背が小さい。
もしかすると大きな態度は、少しでも体を大きく見せるための工夫かもしれない。
頭のうえについているお団子ヘアは、シークレットブーツならぬシークレットヘアかも?
「この国の名前はジーハテメ。いまから四十年ほど前、異界から勇者が召喚され、魔王は討伐されたのだ」
――魔王いるんだ?!
なら宰相の話は
「五年後、勇者は病死。そして、翌年から召喚の儀式は毎年行なわれていた」
「俺たち以外にも呼ばれた者がいるのか?」
「慌てるなよ
「酷い話だ」
俺たちが呼び出された部屋。
床に描かれた魔法陣には黒いシミがついていた。
まさか、犠牲になった神官?
「今年で三十五年目。わかるかね?」
「……クラスの人数か」
「憶測だがね。失敗の回数がプールされ、今年、大量の召喚が成功したのだろう」
「偶然か?」
「もうひとつの仮説は、勇者はひとりで、残る三十四人は巻き込まれ、だ。この説を検証する必要なないだろうがね」
「そうだな、結果としてクラス全員が来ているのだから」
勇者にふさわしいのは
きっと俺は巻き込まれたモブだ。
がんばれ
「魔王が討伐された結果、魔物の脅威は減少。大陸はつかのまの平和を得る。しかし長つづきしない。戦争だ」
「まさか、俺たちを戦争の道具に?」
「おそらくね。魔王はいないんだ。宰相は世界平和のためと言ったが、本音はこの大陸の覇権だろうね」
「許せないな……」
勝手に呼び出して戦争の道具かよ。
なんの思い入れのない国に加勢するわけないだろう。
むしろ反旗をひるがえし、攻められるとは考えないものか。
「力ある者は利用される、これは世の常だ。例え逃げ出したとしても、他国で同じように利用されるのがオチだ」
「俺たちの出自を明かさなければいいんじゃないか」
「むずかしいな。三十人を超える大所帯が国境を越えれば怪しまれるだろうからな」
「分散するべきだと?」
「いや、見知らぬ土地で、なんのアテもなく生活するなんで無理だろう。そこでだ、俺たちで村を造り、生活するのはどうだろうか」
「国境超えは怪しまれると言ったのは
「地理についてはボクから説明するよ」
地学部の
彼もメガネをかけている。丸形で柔らかい印象だ。
「この国の西には森が広がっています。それはもう人類が踏破できないほどの広大な森です」
「その森に村を造るのがいいと?」
「はい。水量の豊富な川と険しい山があるので、資源も容易に採取できるでしょう」
「そんな恵まれた環境、いままで放置されているのは理由があるんだろ」
「はい。凶暴な魔物が生息しています。この国も開拓を試した記録がありました。何度も失敗し
「俺たちには加護がある。昼の訓練では
「暴れてなどいない。一発なぐっただけだ」
冗談ではなく本気で思っているようだ。
「凶暴な魔物はどの程度だ? 手合わせしないことには判断できないぞ」
「たしかに……。森に入る手はずがいるな」
「
みんなの視線が
「悪いけどボクは村造りには参加しないよ」
「どうしてだ?」と
「勇者はきっとボクだ。ボクこそが選ばれた人間なんだ。ボクの力を見ただろう? 兵士たちも驚いていた」
「参加しない理由に結びつかないんだが」
「わからないのかい? ボクはキミたちに同行しない。この国に残ると言っているんだ」
「正気か? 戦争に巻き込まれるんだぞ」
「望むところだよ。ボクはこの国で栄光を手にするんだ。きっと英雄扱いされる。もとの世界では味わうことのできない高みだよ」
コイツ、加護の力に酔っているのか。
「俺たちの作戦を宰相に漏らすつもりなのか」
「するわけないじゃないか、むしろ協力するよ。力ある者はボクひとりで十分だ。そうじゃないと栄光が陰るからねぇ。もし国から出ていかないのならボクの手で始末していたところさ」
目的のためなら平気で俺たちを殺すだろう。
クラスメイトが倒れている光景を想像すると、背筋に嫌な汗が流れた。
「委員長も連れていってよね。宰相に気に入られているし、はっきり言って邪魔なんだ」
「もちろん彼女も連れていく」
「約束だよ」
まさか脱出計画を練っている最中に、狂人から殺害予告されるとは思ってもみなかった。
急いで行動に移さないとアイツが何をするかわかったものじゃない。
「下見を兼ねて、森を調査できるよう委員長と交渉してみよう」
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
俺は自分の個室に戻っている。
何もしていないが、クラスメイトの会話を聞いているだけで疲れた。
加護の力に溺れるヤツが出るなんて想像していなかったよ。
そういえばレベルが上がっていたな。
加護を確認すると、新しいスキルが増えていた。
【
ネトラレの現場を
姿や気配などが消え、他者に認識されない。
透明人間になれるのか? ヤバいな。
ドレッサーの前に立ち、【
すぅっと自分の姿が薄くなり、鏡から姿が消えた。
服も消え見えなくなる。
全裸で移動しなくて助かるな。
ふと、【経験値】が増加しているのが目にとまる。
アイツらまた始めやがった。
仕方ない。クラスメイトのための監視だ。
それに、新しいスキルは試したほうがいいよな。
……いったい俺は誰に言い訳してるんだ?
部屋を出てネトラレ気配のするほうへ移動を開始。
迎賓館の外からビンビンと感じる。
アイツら野外プレイとかマニアックだな。
星の光をたよりに屋外を移動する。
ちなみに、この世界に月はない。
けれど夜は月夜よりも明るいのだ。
物理法則なんて加護のある世界には関係ないのだろう。
気配は、案内されたことのない建物から漂ってくる。
迎賓館よりも豪華な気がするが暗闇なのでよく見えない。
正面玄関から入ろうと試みるがドアは施錠されいた。
仕方ないので建物の外を壁伝いに移動する。
どうやら目当ての部屋は一階のようだ。
開いた窓から明かりがもれている。
背伸びをしても部屋の中は
「あんっ……」
息遣いは荒く、昼間、
「ふっふっふ、異界の娘とまぐわれるとは、ワシも運がいい」
――この声、宰相か!
「んっ……」
「どうじゃ、良いのか?」
「はい、とても、きもちいいですっ、あっ……」
熱い吐息とともに、いやらしい水音が漏れている。
「くっくっく、憂いヤツよのう、こんなに濡らしおって」
いったい中では何がおこなわれているんだ?
中年オヤジの太くゴツイ指が、彼女の柔肌を
見たい! 凄く見たい!!
【経験値】の増加速度は今までで最速だ。
「加護の調査はどのていど進んでおるのだ?」
「んっ……、新たに、判明したっ、者は、おりませんっっ!」
「かりにもオマエはアイツらの長なのだろう。なぜ命令を聞かない」
「委員長にっ、命令権はっ、ないの、ですっ」
「使えないヤツめ……。まあよい。アイツらが隠す気なら強引に暴くまでよ」
「どう、なさるの、です、かっ、ああっ!」
「騎士団では相手にならなかった。ならば、もっと強いヤツに相手をさせれば良かろう。西の森には強い魔物が生息しておる。訓練と称して森のなかへ入らせるのだ」
「わかり、ましたっ、あっ。お任せ、くださいっっっくぅぅっ!!!」
「なんじゃ、もう果ててしまったのか」
宰相の呼吸は普通。ということは腰を振っていない。
彼女は指だけでイカされたのか。
ネトラレ気配が急激に冷め、【経験値】の増加も停止してしまった。
――終わり? 本番はこれからだろ? なぜ?
「はぁ……、異界の若い娘ならばと期待したが、これでも
宰相は
かわいそうに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます