第33話 細剣が!?

 ビークはドヤ顔をしている。シフの細剣を完全に折って勝利を確信していた。


「これで剣は使えない」


 ビークはシフの鳩尾をめがけて、爪を突き刺そうとしている。


 シフはビークを睨みつけると、両手を地面につく。ビークの爪が鳩尾に刺さろうとする、わずか1mmのところで、バック転をして上手く爪を躱した。


 ビークの爪は空を切った。躱されたことに舌打ちして、空高く飛ぶ。羽をパタパタさせた。助走をつけて、だんだんと加速させ、空を飛びまわる。何周かした後、突然、急降下した。シフに向かってくる。


「!?」


 シフは急降下してくるビークに気づき、右方向へと跳躍して避けた。急降下してくるとき、急には方向を転換できない。


 ビークは急ブレーキをかけたが、地面に、くちばしと頭を強く打ちつけた。その衝撃で倒れて、数秒、動けなかった。


「剣は折れても、まだ、やれることはある」


 シフはビークの目の前にやってきて構えた。その構えはボクシングの構え。いつ、ビークが来てもいいように態勢を整えつつ、ちらりと細剣に目をやった。


 細剣は完全に折れたはずだが、少し、刃の部分が柄から伸びている。


「もう少し時間稼ぎが必要か」


 シフはフーッとため息をつく。このとき、お臍の5㎝下にある臍下丹田せいかたんでんに力を込めた。


 武道ではよく使われる部分。簡単に丹田たんでん下丹田げたんでんともいわれる。気が集まる場所で、この部分に集中、力を込めると、動きの範囲が広がる。また、相手の動きを読みやすく、相手の力を利用して惑わすこともできる。


 ビークはそんなことも知らずに、シフに向かってくる。くちばしでくるのか、爪でくるのか、わからない状況。


 シフはそんな状況でも前転して、ビークの攻撃が来る前に、踵でビークを蹴った。


 ビークはバランスを崩す。それでも、羽を動かして、態勢を整えた。


「なかなか、死なないとはな」


 ビークはシフの肩に乗って耳元で呟く。肩に乗ったまま、少しずつ、肩に爪を食い込ませていく。


 シフの肩からは血が流れる。シフは、何もなかったかのように振舞い、肘でビークを押すと、素早く細剣を取りに行った。


 完全に折れた細剣が修復して元通りになっている。


 シフは細剣を振って吹雪を起こした。吹雪がビークを斬っていく。


「なんで、元に戻る!?」


 ビークは、細剣に気をとられて反応が遅れた。まさか細剣が元に戻るとは思っていなかった。


 ビークの体から血が舞った。


「この剣は特別なんだ。折れても勝手に修復してくれる」


 シフは細剣を大事そうに抱きしめた。この細剣はシフにとって大切なもの。今は亡き、強く勇気のある男性の形見の不思議な細剣。この細剣にその男性の魂が宿っているのではないかと思うほどだ。


「そんな剣があるとは……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る