第3話 エメラルド
シフとクラウドは、同じ境遇だと知り、少し、距離が縮まった。シフは、ダル出身、クラウドはエルザード出身。ダルとエルザードの国は、ゴルの国のトップ、ザガードにより壊滅させられ、支配下となってしまった。
また、ダルもエルザードも今はもうないのと同じ。吸収されてしまい、名前すら消えてしまった。ダルとエルザードは、ゴルという国名に変わった。
シフとクラウドは、国を失って、これからどうするのか、途方に暮れていた。そんなときに、シフがモンスターに襲われ、クラウドに助けられ、今に至る。
「これから、どうするつもりなんだ?」
聞いたのは、クラウド。無口なクラウドが自ら質問することに、意外性を感じたシフは、思考を巡らせる。
しばらくして、シフはお手上げのポーズを見せた。
「どうするか……」
シフは周辺を見回すと、遺体が転がっている。人間の遺体もモンスターの遺体も。モンスターに襲われて命を落とした人々の無残な姿を見ると、悲しくなってくる。
「なんで、こうなっちゃったかな」
思わず、出た言葉。シフは遺体に手を合わせる。
「国のトップが変わらない限り、この状況は続くかもな」
クラウドも遺体に手を合わせる。
シフはその様子を見つめ、口元が少し緩んだ。
ぶっきらぼうではあるが、意外とクラウドは優しい心を持っている。そんな、クラウドの優しさに心が和む。
「なんだ?」
クラウドは眉をひそめた。
「意外と優しさがあるんだなと思ってさ」
シフの言葉に、クラウドはフーッと長く息を吐く。
「俺を何だと思ってるんだよ」
「悪い、悪い。それにしても……」
シフは苦笑いした。クラウドも人間だ。心も感情もあるのは当然だ。
「国のトップは何を考えているんだか……」
シフは5度目のため息をつく。
そのときだった。
急に眩しい光が周辺を包んだ。
それは、クラウドも同じだった。
「なんだ……?」
シフは、クラウドがどうなっているのか、確認しようとしても、あまりにも光が眩しくて見ることができない。
やがて、光が消えたと思ったら、女性が目の前に現れた。
「この国を助けて……」
女性の声が、頭の中で響いた。
「誰なんだ、あんた」
クラウドは、頭の中に響く女性の声に不快感を覚えた。
「私はエメラルド。お願い、この国を救って」
女性、エメラルドは懇願する。その目は泣きそうな表情だ。
「どういうことか、説明してくれないか?」
シフがエメラルドを落ち着かせる。
「……ザガードは全部の国を支配しようとしている。ザガードは暴走し始めてるの。だから、止めて欲しい」
エメラルドの目は潤んでいた。
「ザガードを止めて、国を救って」
「何故? ザガードを止めて欲しいと?」
シフが聞くと、エメラルドは涙を流した。
「愛しているからよ、ザガードを。私は前のザガードに戻って欲しいの」
エメラルドは念を押すかのようにお願いする。
「だから、お願い、助けて」
そう言って、目の前から、エメラルドは姿を消した。
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