第61話 衝撃の事実

「久しぶりね、トーガくん! 元気にしてた?」


「お久しぶりです、ジェシカさん! 元気にやってますよ!」


 本日の王国魔術師会合を終え、帰路に着こうと廊下を歩いていると、俺の推薦人である王国騎士のジェシカ・フランソワーズ殿と出会した。


 相変わらずこの方は麗しさの中にも、可憐さが感じられれる、金髪のポニーテールがよく似合うとても美人な方だと思う。


「どう? 王国魔術師としての生活は? 順調?」


 そして親しい人間への話し方は非常にフランク。

本当、この方が自分の推薦人になってくれて良かったと、心の底から思っているのだった。


「ええ、おかげさまで。ジェシカさんの騎士としての名誉に泥を塗るような真似は一切してませんよ」


「あはは! こっちの気も使ってくれているだなんて、さすがね! っと、挨拶はこれぐらいにして……」


 突然、ジェシカさんはそれまでのフランクな雰囲気から、王国騎士に相応しい厳かな態度に変わる。


「実はね、あなたに伝えなくちゃならないことがあるの。できれば人払い出そうな場所でお話をしたいのだけど、これからお時間よろしいかしら?」


「ジェシカさんのお誘いなら断るわけには行きませんね。それじゃあ、この続きは俺の館で……」


「ジェ・シ・カじゃないかぁ〜!!」


 と、真剣なジェシカさんの声を、少々まぬけな風の男性の声がかき消した。

するとジェシカさんは苦笑いを浮かべつつ、踵を返す。


「あ! お、お久しぶりです、ガトー隊長……!」


 ジェシカさんは突然現れたガトー隊長へ、胸に手を当てるといった王国騎士の敬礼をしてみせる。


「うう……ジェシカがまた僕に、騎士の敬礼を……寂しいじゃないかぁ!」


 するとガトー隊長は、嘘泣きなのか、本気なのか、まったく判別のつかない泣き姿を披露してくる。


「あ、いえ、それは……えっと……ご、ごめんなさい……一応、ここは王宮なんで、礼儀は必要かと……」


「そうだねぇ、ジェシカは小さい時から真面目で優秀な子だったからねぇ!」


「あ、ありがとうございます……」


「じゃあ久々にハグしちゃう?」


「それは断じてお断りいたします」


「良いじゃないかぁ、減るもんじゃなし!」


「これ以上迫るならば、斬り殺しますよ?」


「じょ、冗談だって! そんな真剣に怒んないでよぉ! 王宮で剣に手を回す方が無礼じゃないか。それに今のは単なるジョーク! ジョーク!」


 どうやらジェシカさんとガトー隊長はとても親しい間柄というか……いや、これはガトー隊長の一方的な片想いなのか……?


「やぁ、トーガくん、さっきぶり!」


 ガトー隊長はジェシカさんの肩越しに、挨拶を投げかけてくる。


「ど、どうもです、ガトー隊長。あの……」


「さぁ、ジェシカ、トーガくんはきっと僕と君の関係を不思議がっているだろうから、きちんと説明してあげてね!」


「し、仕方ないですね……えっと、ガトー・ガナッシュ王国魔術師3番隊隊長は、亡くなった私の父の親友なのよ……」


 ジェシカさんの話によると……ジェシカさんが幼かった頃、同じ王国騎士だった彼女の父親は戦場で命を落とし、ほどなくして母親も病死してしまったらしい。そんなジェシカさんを不憫に思い、色々と世話をしてくれたのが、彼女の父の親友だったガトー隊長だ。


「ところでおじ様、こんなところで油を売っていても良いのですか? そろそろ会議の時間では?」


「そうだね。じゃあ僕はこれで。たまには屋敷にも顔を出してくれよ! チルだって、ジェシカが次いつ来るのかなぁ? とか、毎日楽しみにしているし!」


「ええ、それは、近いうちに必ず……」


 俺はわずかながら、ジェシカさん声音から、微妙な何かを感じ取る。

しかしその微妙な変化の正体はなんなのかまでは判然としない。


「本当に、僕はいつでも待っているよ、ジェシカ。チル、共々ね……」


 そういってガトー隊長は、廊下の向こうへと消えてゆく。

隊長からも、異様な雰囲気を感じ取ったが、その正体さえも俺はわからなかった。


「トーガくん、悪いけど、いますぐあなたと話がしたいわ」


 いやに真剣な様子でジェシカさんが問いかけて来たものだから、俺はおもわず首を縦に振るってしまった。


そしてこの話は、おそらく安心できる場所でするべきであろう。


「では、先ほどいった通り、俺の館で」


「ありがとう、そうして」


 俺たちはすぐさま王宮の中庭に出て、転移魔法を発動させ、館へと戻った。

するとすぐさま、朗らかな笑顔のパルが俺たちを出迎えてくれる。


「お帰りなさい、トーガ様! ジェシカさんもお久しぶりですっ!」


「ただいま。すまないが、しばらくジェシカさんと真剣な話がしたい。俺が良いと言うまでは、一切の取次を断ってくれ」


「か、かしこまりました」


 俺とジェシカさんはパルを横切り、自分の私室へと向かってゆく。

そして椅子に腰を据えた途端、ジェシカさんはまず衝撃的な事実を伝えてきた。


「……実は先日、クーべ・チュールが獄死したわ」


 クーべ・チュール……俺が王国魔術師となることができたきっかけ"人の魔物化事件"の首謀者であり、ケイキ王国で異端視されている、危険な連中、錬金術師の1人だ。王国騎士団に捕まったやつは、ずっと尋問を受け続けていたとは聞いていたが……


「尋問に耐えかねて?」


「今の騎士団はかつてとは違って、そこまでの尋問を実施してはいないわ。それにクーべも柔な精神をしていなかった」


「だったら……?」


「殺されたのよ、何者かに……」


「口封じ、というやつでしょうか?」


 ジェシカさんは確信を孕んだ首肯を返してきた。

しかも他殺の、更に獄死となれば、心が穏やかではないのは俺も同じ。


 なにせクーべが収監されていた、バストレイヤ収容所は、政治犯など重要な人物が多く収監されており、警備レベルもこの国で最高峰だ。さらに檻は頑丈な錠前はもとより、強固な結界魔法によって封じられている。


 これを破るには、王国魔術師クラスの術者でなければ……


「まさか、犯人は王国魔術師の中に……?」


「ええ。そして、これは私、個人の見解だけど、その犯人こそ、王国魔術師3番隊隊長ーーガトー・ガナッシュだと踏んでいるわ」

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