第7話『魔力を測ろう!』
「スマートウィッチを携帯していないのが悪いんですよ」
ちゃぶ台のようなサイズの小さいテーブルに並ぶ朝食を食べながらライラが言う。早朝の散歩時に魔獣に襲われた話をしていたのだ。
「生身の木村ノヴァはこの世界において全くの無力であると言う事実をちゃんと認識しておくべきでしたね。魔力がほぼ無いに等しいのですから。スマートウィッチの無い木村ノヴァなど、カツの入っていないカツ丼、魚の入っていない海鮮丼、親子の入っていない親子丼です」
「なんで例えが全部丼ものなんだよ」
ふわふわとしたパンのようなものを齧りながら、俺はツッコミを入れる。ふと、白米が恋しくなった。この世界に米などは無いのだろうか?今のところ、パンやスープなど、洋風の食事しか目にしていない。
俺のそのような心中の不満を察したのか、ライラが小声で俺に言う。
「ちゃんと満足できる食事が出てるだけでも感謝するべきです。この世界の水準では、この朝食、だいぶレベルが高いですよ」
言いながら、手元のスープを美味しそうに飲んだ。
「とくにこのスープなどたまりませんね、程よい旨みと、塩加減。野菜の甘みも溶けていて、これはまさに……」
「あんた、やっぱ感情あるだろ」
「私に感情はありません」
そのようなやりとりをしている俺らの元に、エプロンをつけたままのカザミが鍋を持ってやってきた。
「どうかしら?お口に合ってれば良いけれど……」
「完璧です。最高です」
ライラが食い気味に言う。俺も頷いた。
「めっちゃ美味いよ。悪いね、泊めてもらったばかりか食事まで……」
「良いのよ。料理は趣味みたいなものだし、喜んでもらえたのなら嬉しいわ」
そう言って、にっこりと笑った。俺はカザミの後ろの方をそっと見つつ、恐る恐る聞いてみる。
「お爺さんは、飯食べないの?」
「お爺様は自分の部屋で一人で食べてるわ。人嫌いだから……」
苦笑いをしてから、鍋をテーブルに置いて座った。そして俺の方を見て聞く。
「さっきの話、ちょっと聞こえちゃったんだけど……魔力がほとんど無いって、本当?」
気遣うように、言葉を選ぶようにしながら聞く。俺はこともなげに答えた。
「ああ、そうみたい。つーか魔法とかなんも分からないし」
「ええ⁈とんだ田舎者ね!」
気遣いもクソもない直球の言葉が飛び出した。
「じゃあ、もしかして、自分の魔力量も魔力のタイプも知らないのかしら?」
「ああ。タイプとかあんの?」
俺の返しにカザミは絶句した。少ししてから、口から漏れ出すように呟いた。
「今までよく生きてこれたわね……」
彼女の反応的に、俺の今の質問は1+1レベルの基礎中の基礎だったのかもしれない。恥じるべきなのかもしれないが、実感がないからなんとも言えない。
「よし、じゃあこれから貴方の魔力量とタイプを測るわよ!」
そう言って勢いよく立ち上がると、エプロンを外しながらどこかへ行ってしまった。
「……魔力測るって、何するんだ?」
ライラに聞いてみる。彼女はスープを飲みながら無関心げに返す。
「今に分かりますよ」
そう待たずして、カザミが戻ってきた。何やら植木鉢に入った植物を持っている。大きめのハエトリグサのような風貌で、口のような葉をパクパク動かしている。
「なんだこれ?」
「これで魔力を測るのよ」
そう言って、カザミは片手で葉に触れた。一瞬の沈黙の後、植物が音を発した。
「かぜぞくせい〜……ひゃくじゅういち〜」
なんとも気の抜ける声だった。カザミがこちらへ振り向いて言う。
「このように、私の魔力量は111で、風タイプだと分かるわけよ」
「へ、へぇ〜」
なんだか、思っていたやり方と違った。水の上に葉を浮かべたりするものかと思っていたのだが。
カザミが俺の方を見て無言で促す。俺が躊躇ってるのをみると、ライラが手を差し出した。
「それでは私が」
そう言って葉に触れる。植物はすぐに答えた。
「やみぞくせい〜……にひゃく〜」
「200⁈」
カザミが驚きの声を上げた。
「高いわね!100を超えてても天才なのに、その倍って……」
言いながら、間接的に自分を天才と称してしまったことに気づいたらしく、カザミは赤面して咳払いをした。
「……おほん、しかも……闇タイプなんて、滅多にお目にかかれないレアなタイプだわ。貴女、すごいわね」
ライラは満面のドヤ顔を俺に向けた。俺は吐き捨てるように言う。
「あんた感情あるな?」
「ありません」
それから俺に、魔力を測るよう促す。そのライラの顔は驚くほどに煽り力が高かった。俺は渋々植物に手を触れる。植物は少し考え込んでから、音を発した。
「……はぁ〜?」
「なんだ、文句あるのかオイ⁈」
「木村ノヴァ、怒らないでください」
やがて、植物はやる気無さげに言う。
「ぞくせいなし〜……はち〜」
「8⁈」
カザミが悲鳴のような声を上げた。
「し、しかも属性無しって……どのタイプの適性も無いってことじゃない!」
どうやら、魔法の才能がからっきしだったようだ。薄々気づいていたことだが、なんとも面白くない話だ。
カザミはハッとした様子で俺に謝罪した。
「ごめんなさい失礼なこと言って……貴方も色々苦労したでしょうね」
昨日この世界に来たばかりなのだから苦労も何もない。いやもちろん、竜を殴ったり、ケルベロスを殴ったり、豪華な食事を頭に被ったりといった苦労はあったのだが。カザミの言っているのはそんな話では無いだろう。
「別に謝らなくても良いよ」
そう言ってみるが、カザミは聞いていない。何やら気まずそうな顔でブツブツと独り言を呟いている。
「でも、そうね……ここまで魔力が少ない人は初めてかも……ノヴァなら、もしかしたら継げるかもしれない……ある意味後継者の素質があると言えるかも……」
「あの、カザミさん?聞いてる?」
俺の質問に、カザミは勢いよく答えた。
「ええ!もちろん聞いているわ!つまり、こういうことでしょ?」
自信満々に、彼女は言う。
「貴方はお爺様の弟子になりたいのね!」
「はあ⁈」
カザミの頭の中では、現実と何かがごちゃごちゃになっていたようであった。
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