第4話 消去
祖父の葬式が終わり、私は父への恨みを封印することにした。いくら不満があったとしても、今もし、親が急に死んだとしたら、私はもっとできることがあったのではときっと後悔するだろう。
そんなことばかり毎日考え、家族や親戚に手紙やプレゼントで感謝の気持ちを伝えるようになった。
そんな私を、母は、「大人になった」といい、親戚から「千夏がお歳暮を送ってくれた」ときけば、嬉しそうに私に話してきた。
「さすが私の子だ」
「千夏はすごい子だって昔から思ってた」
私は、一度諦めた、母が目指していた道に再チャレンジしようと決めた。
母が認めてくれるようになったからに他ならないと思う。
以前は反対していたはずの母は、全力で応援してくれた。
私は一心不乱に勉強した。
独学で様々な資格をとり、大学に編入して学問を学び始めた。
この時の思いも、以前の思いも、同じだった。
「自分みたいに、理解されなくて、生きづらくて、苦しんでいる人の味方になりたい」
毎日毎日朝から晩まで、様々な講義を聞き漁る日が続いた。
しかし、掘り下げれば掘り下げるほど、自分がなにかを無意識の中に封じ込めていることに気付き始めた。
母への憎しみだった。
—だいすきなおかあさん。
おかあさんにふりむいてほしくて、べんきょうした。
えをかいた。
わざとおこられることもたくさんした。
わるいこともした。
まいにちまいにちおこられた。
ひどいこともいわれた。
でも、おかあさんにおうえんしてもらえないと、ちがうきがして
みとめてもらえないと、ちがうきがして
おかあさんの、のぞんでるちなつになりたくて
やっとなれたとおもえて—
…なのに、そんなわけがないと思った。
ずっと、父が悪い、父が病気だったから母はあんなふうにしないといけなかった、母も辛かったと聞かされてきた。
悪いのは父だと思っていた。
でも、父も母も結局同罪じゃないか。
母が父の脅迫から私を守ってくれる事は、結局一度もなかった。母は、私ではなく、父の味方で、最後まで父を守り続けた。
私は本当は、父から守ってくれなかった、私より父を優先した、母の方をより恨んでいたんだ。
それにはじめて気がついた。
私は混乱した。
柔らかい声色で優しく語る教授の講義を聞きながら、涙がとめどなく溢れ出す。
ポツリポツリと、教科書が涙で滲む。
辛かったこと
悲しかったこと
嫌だったこと
心の奥底に封印していたたくさんの思いが、すべて吹き出してきた。
私は、母に毎日、長電話で日常の愚痴を話したかと思うと、次の日には、母への積年の恨みつらみをメールで送りつけた。
混乱状態は数ヶ月に及んだ。
依存と攻撃を繰り返す私に、母は次第に疲れ果てていった。
次第に、何か送っても
「これから出かける」とか
「今日は仕事が大変だ」とか
話をそらされたり、スタンプ1つで返されるようになっていった。
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