第182話

 目を覚ますと、まだ薄明かりのままの部屋の中で、俺はみんなのぬくもりに包まれていた。


 ルリの膝を枕にして、アオの手を握り、小柄なメイがお腹の上に乗って抱き枕のようにされ、クルシュは俺の腕を抱きしめて寝ている。


 彼女たち一人一人を丁寧に剥がして身体を起こす。


 伸びをしながら、そっと呟く。



「みんな、ありがとう……」



 昨夜は、性属性の暴走があったことで、四人が激しかった。


 それを受け止めて、体は疲労感よりも、充実した満足感に包まれている。



 みんながぽかんとした顔をする。


「ご主人様……おはようございます」

「おはようなの!」

「いつもみんなが癒してくれるから、特別な癒しをプレゼントしよう」



 満足しているみんなにヒールをかける。


 聖属性のヒールで体力と体温を上昇させる。




「ソルト……また」

「ソルトさんの癒しは強烈なのです」


 

 ヒールをかけたあとは、彼女たちとの触れ合いを大切にする。


 俺はまずルリの頭をそっと撫でる。


 フェンリルのふわふわの耳を、やさしく包み込むように。



「いつも家事やみんなをまとめてくれてありがとう。がんばってくれてるルリには……感謝しているよ」



 ふわりとした光を指先から流し込むと、ルリは思わず目を細め、青色の尻尾をぱたぱたと振った。



「ご主人様……気持ちいいです……ふにゅ……」



 次はアオは後ろから抱きしめて、ルリのように頭を撫でる。



「アオはみんなのムードメイカーで妹的な存在だ。アオがいてくれることでみんなが元気になって頑張れる、今回もたくさんありがとう」



 アオは「ふわぁ……」とあくびして、くすぐったそうに笑う。


「主人様、大好きなの!」



 次は小柄なメイを膝に乗せる。



「メイは……肩が凝ってるみたいだから、ほら、こうしてやるよ」



 ぎゅっと肩を揉んで、ヒールを直接流し込む。



「うわぁ、上手~!」


 満面の笑顔で気持ち良さそうにしてくれるメイをほぐして、ほぐしていく。


「メイの偵察や気遣いに感謝しているよ。君がみんなを陰で支えてくれているから」


 肩をマッサージしながら、耳元で囁くと、メイは身震いしていた。



「じゃあ、今日はもうサボってしまいたいです!」

「ああ、休息も大切だからな」


 そんなやりとりに部屋が和む。



 最後はクルシュ。



「クルシュはみんなを守ってくれてありがとう」



 クルシュは、覚悟したような身構える構えをしていたが、素直に受け入れてくれる。


 指を丁寧にほぐし、肩に軽く手を当てると、ふと顔が赤くなる。


「クルシュは、俺以外にこんなことをさせないって知ってるよ」


 いつもは男勝りで強気な彼女だけど、誰よりもみんなのことを考えてくれている。



「っ……こんなところで……みんな見てるぞ」

「みんなの前だからいいんだ。たまには、素直に甘えてほしい」

「……むぅ。今日は、特別に許してやる」



 ふいに小声でそう呟くと、恥ずかしそうにそっぽを向くクルシュ。


 だが、手はずっと俺の手を離さない。


 みんなが少しずつ照れた顔で、でも嬉しそうに微笑む。


 ふと気づくと、部屋の空気が一気に柔らかくなっていた。



「ねぇ、主人様、今日はみんなで一緒に過ごしたいの!」



 アオが元気に言うと、ルリも「はい、ご主人様を真ん中で!」と声を揃える。



「よし、じゃあ今日はみんなでゆっくりしよう」




 ルリとアオが右と左、メイは俺の足元でくるりと丸くなり、クルシュはこっそり俺の肩に寄り添う。


 安心感と笑いに包まれて、今日だけは、世界のすべてがここに集まっているような、特別な夜だった。



 誰かがそっと「……ご主人様、だいすき」と呟く。


 

 俺もだよ、と静かに返しながら、心の底から安堵する。


 闇の底で見たもの、まだ終わらぬ不穏の気配。


 けれど、この癒しのぬくもりがあれば、また明日も、戦える。


 そう、確かに信じることができた夜だった。

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