第110話 しょうもない……


「じゃあ、対策会議を始めましょうか。クロエ、あなたの意見も聞かせてくれる?」

「承知しました」


 確かに六連覇さんは良い意見をくれそうだ。


「クロエ、外にいるだろうミシェルさんを呼んでくれる? いっそ教員をこちらにつけよう」

「よろしいと思います。少々、お待ちを」


 クロエがリビングから出ていく。


「ミシェル? 例の女?」


 シャルがジト目になった。


「先生だぞ。しかも、暗部」

「うーん……今は使えるものは何でも使う時か……」


 その通り。


「戦いの前にいかに準備をするかが大事だ」

「それはそうね。トウコさんもしているのかしら?」

「しない。何故ならあいつは相手に合わせてスタイルを変えるという器用なことはできないんだ。前もそうだったろ」


 これは性格の問題であり、あいつのスタイルだ。


「まあ、確かにね。でも、私対策はしてくるでしょ」

「良い言い方をすると、あいつの敵は自分自身なんだ。シャルと戦った時の課題である魔法と武術の組み合わせは取り入れてくるだろうが、それはシャル対策ではなく、自分の弱点を消すためのものだな」

「一見、バカに見えるけど、そうではないわね。天才なのに上しか見てない。そりゃ強いわ」


 あくまでも高みを目指すためだ。

 あいつに挫折なんかない。

 シャルに負けてもケロッとしてるし、課題を絶対に残さない。


「お待たせしました」

「あー、涼しい……日本の夏って暑いねー」


 クロエがミシェルさんを連れて戻ってきた。


「本当にいたのね……」


 シャルが呆れた感じでミシェルさんを見る。


「そりゃいますよ。仕事ですもん。クロエ、水かお茶ちょうだい」

「はい、ただいまー」


 クロエがキッチンに向かうと、ミシェルさんが座っている俺とシャルを見比べた。


「何? 座ったら?」


 シャルがミシェルさんに座るように勧める。


「あ、いいんだ」


 ミシェルさんが俺の隣に座った。

 すると、クロエが氷の入ったお茶を持ってくる。


「どうぞ」

「ありがと。朝なのに27°だって。すごいわ」


 ミシェルさんはお茶を受け取り、クロエに礼を言う。


「8月はもっと上がりますよ」

「夜も暑いし、きついわー」

「夏対策はケチらない方が良いですよ。日本の夏は本当にきついですからね」


 フランスの夏って涼しかったっけ?

 覚えてないな……


「やっぱり外で待機はやめようかな……あ、なんで呼ばれたの?」


 ミシェルさんが聞いてくる。


「今日は魔法大会の対策会議ですよ」

「へー……いや、私、教員なんだけど? 公平な審判も務めるんだけど?」

「ラ・フォルジュ派でしょ。味方しろ」

「いや、イヴェールじゃないの……どちらかというとトウコさんの味方よ」


 いやいやとうるさいな。


「クロエ、お茶を下げて。予想最高気温33°の外で待機してもらおう」

「わ、わかったわよ……それで対策会議って?」


 ミシェルさんは納得したようだ。


「それはこれから。シャル、続けて」

「はいはい。まず私達の対戦相手はCクラスのアーサー、ヘンリー組、Aクラスのロナルド、ユキさん組、そして、Dクラスのユイカさん、トウコさん組。対戦順序もこの順番」


 確かそうだったな。


「まずはアーサー、ヘンリーだな。シャルは知ってるの?」


 シャルがまとめた紙には剣術が優れていると書いてある。


「同じクラスだからね。一昨日も言ったけど、どちらも武術に長ける魔法使いよ。はっきり言って強い」


 強いのか……


「こいつらとはガチの初戦で戦うからな。戦いを事前に見れないのがネックだ」

「そうよねー……私も基礎学の実技の授業でちょっと見たことがある程度よ」


 それだけでも強いと思ったのなら確実に強いな。


「この2人に関してはそこまで考えなくても良いと思いますよ」


 クロエが紙を見ながら言う。


「なんで?」

「この2人、戦闘タイプの魔法使いのくせに戦いをわかっていませんね。2対2と言っているのに同じタイプで組んでいます」

「同じタイプなん?」

「ええ。魔法もできる接近戦型です。オールラウンダーですね」


 フランクと同じタイプか。


「そうね。この2人は仲が良いらしいのよ。それで組んだんでしょうけど、学園側が2対2にした意図がわからなかった2人ね」


 ミシェルさんもクロエに同意する。


「どういうこと?」


 シャルが首を傾げた。


「私は立場上、あまり言えない」

「ツカサ様、できる男アピールのチャンスですよ」


 クロエが説明するように勧めてくる。


「1対1と2対2では戦い方が変わってくる。お互いの短所を補い、長所を伸ばすことができるんだよ。今回の魔法大会はそれを教えるためのものなんだ。でも、わかってる奴はわかってるから勝つために最初からそういう相手と組んでいる」

「トウコさんも?」

「いや、あれは違う。違う人と組むことによって1+1が3でも4になるんだが、トウコやユイカは誰かと組むことを想定していない魔法使いだから1+1が2にしかならない」


 もっとも、その1が大きすぎる2人だが……


「なるほどね。そうなると、アーサーとヘンリーは組む相手を間違えたわけね」

「と、この2人は言ってるな」


 俺はアーサーとヘンリーを知らないからわからない。


「仲が良いならその分、連携もできるんだろうけど、同タイプが組んでも弱点を補えないのよ。今回、対戦相手の組み合わせ会議に私も出席したけど、こりゃ負けるなって思ったわね」

「ツカサ様の圧倒的な力に押し潰されるでしょうね」


 ユイカにもだな。


「他の組の相手にしてあげればいいじゃないですか」

「だから勉強なのよ。この2人はバランスも良いし、相当な実力者らしいわ。だからこそ敗北から学んでほしいんだって。あと、単純にトウコさん、ユイカのコンビといい勝負ができそうなのがこの2人くらいなんだってさ」


 可哀想に……


「じゃあ、潰せばいいわけね」

「ノーコメント」


 教員のミシェルさんが目を逸らした。


「ツカサ様の敵ではないでしょう。2人は真っ先にお嬢様を潰しにかかると思いますのでナイトの腕の見せどころです。2人を瞬殺した後に俺の女に手を出すんじゃねーって高らかに言うんですよ」


 さて、次はっと……

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