第097話 川


 トウコに言われた通り、川に行くことにした俺は日曜日になると、準備をし、リビングに降りた。

 この日は珍しく、トウコも早起きしており、一緒に朝食を食べる。


「あなた達、どこかに出かけるんですか?」


 納豆をかき混ぜている母さんが聞いてくる。

 もちろん、テーブルにはマヨネーズが置いてある。


「川」

「山」


 俺とトウコは同時に味噌汁を飲みながら答えた。


「同じ動き……なのに行く場所は違うんですね……」


 母さんが呆れながら混ぜ終えた納豆にマヨネーズをかける。


「俺は男子と行く。トウコは女子」

「一緒に行けばいいのに」

「兄妹だってバレるじゃん」

「同じ顔で同じ格好なのに……」


 俺とトウコはどちらも運動着姿だ。

 なお、トウコは髪をポニテにしており、シャルリスペクトと思われる。


「お前、胴着は?」

「もう暑いよ。あと、花のJKが着るもんじゃない。それをこの前、会長に魔法を教え合っている時に会長の格好を見て、気が付いた」


 遅っ。

 というか、マジでリスペクトかい。


「あなた達、他の人に迷惑をかけるんじゃありませんよ」

「かけねーわ」

「大丈夫、大丈夫」

「ハァ……心配です」


 心配性の母親だわ。


「そんなゲテモノを食べてるお母さんに言われたくないね」

「迷惑だよな」


 何故、マヨネーズ納豆でご飯を食べる?


「ハァ……日本人のくせに納豆も食べられませんか……」

「「マヨネーズだよ!」」

「美味しいのに……食わず嫌いは良くないですよ」


 見た目が悪いんだよ。

 あと、マヨネーズかけすぎ。


 俺達はその後、朝食を食べ終え、2階に上がる。


「じゃあ、お兄ちゃん。私は山に行ってくるからお兄ちゃんは川ね」

「はいはい。気を付けてな。特にノエルには注意しろ」

「わかってるよ。じゃあ、行ってくる」


 俺達は頷き合うと、それぞれの部屋に入った。

 そして、ゲートをくぐり、寮の部屋を出る。


「おー、来た来た。朝からご苦労さん」

「僕らはゆっくりだけど、ツカサのところはまだ6時だろ?」


 休憩スペースにいるフランクとセドリックがそう言いながら手招きしてきた。


「もう慣れたわ。というか、逆に言うと、こっちの夕方に帰っても向こうは昼だわ」

「まあな。じゃあ、行くか」


 フランクとセドリックが立ち上がったので階段を降り、寮を出た。


「今日も良い天気だわ。ワニを狩るぞー」


 雲一つない天気だ。


「楽しそうだねー」

「熊といい、ワニといい、普通なら怖がるんだがなー」

「別にいいじゃん。行こう、行こう」


 俺達は丘を降り、転移の魔法陣がある建物に向かう。

 建物の中に入ると、2人組の先客がいた。


 一人は長身で長い黒髪の男であり、優男っぽい。

 もう一人は女性であり、これまた長い黒髪ですらっとしている。

 というか、女性の方は袴姿の和服だし、腰に刀があることから日本人っぽい。


 2人は建物に入ってきた俺達をチラッと見たが、そのまま魔法陣に乗り、消えてしまった。


「誰?」


 2人共、制服じゃないかったから生徒なのかもわからない。

 若かったし、学園内にいるから生徒だとは思うが……


「Aクラスの奴だな。男の方はロナルドだ」

「確かにロナルドだったね」


 知っているらしい。


「寮生?」

「だな。あの風貌は間違えねーよ」


 結んでいたとはいえ、男であの髪の長さはなー……

 もう一人の女子よりも長かったかもしれん。


「女子の方は?」

「見たことある気はするんだが……名前までは知らんな」

「Aクラスは離れているからね。でも、2人共、Aクラスの1年なことは間違いないよ。多分、ユイカは知ってるんじゃない? あれ、日本人でしょ。刀持ってたし」


 チラッと見ただけだが、顔も日本人っぽかった気がするし、そうなのかもしれない。


「ふーん……まあいいか。よし、川に行くぞ。フランク、先陣は任せた」

「相変わらず、ビビりだな」

「慣れてないだけだよ。ワープなんていう謎技術だぞ」

「魔法使いとは思えないな……じゃあ、先に行く。川に行きたいって思えばいいからな」


 フランクはそう言うと、魔法陣に乗り、消えてしまった。


「セドリック、先に行くか?」

「いいから行きなって。毎回、毎回、時間をかけないでよ」


 セドリックが背中を押してくる。

 そして、そのまま2人で魔法陣に乗ると、一瞬で変わった。


 そこは川と言うから確かに川があるのだが、対岸が遠すぎて陸が小さく見えるだけだった。


「え? 想像していた川と違うんだけど? でかくね?」


 俺は幅が数メートル程度のものを想像していた。

 だが、この川はそんなレベルじゃない。

 例の湖よりもでかい。


「俺も最初はそう思った」

「すごいよね。一応、説明しておくけど、川にワニがいるから注意ね。あと、後ろを見てごらん」


 セドリックにそう言われたので後ろを見る。


「……森じゃん」


 後ろは木がいっぱい生えており、どう見ても森だった。


「森だよ」

「例の湖と変わんなくない?」


 あそこも正面に湖があったが、後ろは森だった。


「ここに来たいって言ったのは君でしょ」


 というか、トウコがここにしろって……


「うーん、まあなー……川がワニで森がトカゲ?」

「そうなるね。トカゲは川の水を飲みに出てくるらしいよ」


 らしい……


「お前ら、ここに来たことないの?」

「あるぞ。来たことはな……」

「最初に一通り回ったって言ったでしょ? それ以降はほとんど外に出てないよ。行っても君やフランクに付き合って湖に行くくらい。だから寮の先輩とかに話は聞いているけど、実際にワニやトカゲを見たことはないね」


 ないんかい……


「フランクもか?」

「俺、泳げないから川に近づきたくないんだ。ワニは獲物掴んで川に引きずり込もうとするって聞くし」


 泳げんのか……


「武家だろ?」

「関係あるか。ウチはお前らみたいな島国じゃねーんだよ」

「それこそ関係なくね?」

「ないね。僕も泳げないもん」


 泳げない奴ばっかりだな……

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