第079話 青春は勉強会


 C校舎を出た俺とジョアン先輩は寮への丘を登っていき、男子寮と女子寮の分岐点までやってくる。


「ツカサ君、悪いけど、アンディを呼んできてくれる? さっきは男子寮に行ったけど、基本的には行っちゃダメだから」


 だろうなー……

 これまでここから先で女子を見たことなかったもん。


「わかりました。呼んできます」


 頷くと、丘を登っていき、男子寮に向かう。

 そして、2階に上がったところで足が止まった。


「アンディ先輩の部屋……?」


 どこだっけ?


 俺は首を傾げながらもセドリックの部屋に向かう。


「セドリックー、いるかー?」


 ノックをして、しばらくすると、扉が開き、セドリックが顔を出した。


「んー? ツカサ? どうしたの?」

「悪い、悪い。アンディ先輩の部屋って知ってる?」

「アンディ先輩? 3階の一番手前だよ。右側の部屋」


 おー、さすがはセドリック。

 何でも知ってる。


「ありがとー」

「いいけどさ……あ、ジョアン先輩が探してたよ?」


 セドリックが対応してくれたらしい。


「会ったぞ。その関係でアンディ先輩なんだ。一緒に清掃のバイトするんだよ」

「なるほどね。頑張って」

「ああ。あんがとさん。また明日な」

「はいはい」


 セドリックが扉を閉めたので階段に行き、3階に向かう。

 そして、一番手前の右側の扉をノックした。


「アンディせんぱーい? おられますー?」

『んー? 誰?』


 どうやら中にいるようだ。


「1年の長瀬ツカサでーす。ウォーレス先生のバイトのことでお話があります」

『ちょっと待ってねー』

「はーい」


 そのまましばらく待っていると、扉が開き、アンディ先輩が顔を出す。


「ごめん、ごめん。トイレにいたんだよ」


 そんなこと言わなくてもいいよ……


「先輩、掃除のバイトのことは聞いてます?」

「ああ。ジョアンから誘われてね。割の良いバイトを回してもらって感謝だよ」

「さっき先生に誘われて俺もやることになりました。この前の魔物を呼ぶ道具を作ったらっていうのがヒントになったらしく、礼だそうです」

「へー……まあ、研究職の人はインスピレーションを大事にするって聞くからねー……全然わかんないけど、感謝しているんだろうね」


 シャルもそんな感じだしなー。


「そういうわけで3人です。それで日程なんかを決めようってことになりまして、下でジョアン先輩が待ってます。呼んでこいって言われたんで」

「あー、なるほど。じゃあ、行こうか。あそこの分岐点でしょ?」

「ですね。行きましょう」


 俺達は階段を降りていき、寮を出る。

 そして、丘を降りていき、ジョアン先輩が待つ分岐点へと向かった。


「ジョアン先輩、連れてきましたー」


 ジョアン先輩のもとに行くと、声をかける。


「はい、ご苦労様。アンディ、悪いわね」

「いや、暇だったからいいよ。それでいつにする?」


 アンディ先輩が早速、本題に入る。


「そうねー……ツカサ君はどんな感じ?」

「えーっと、月曜の午後以外はフルですね。それと土曜はダメです」

「へー……意外と真面目に授業を取っているのね」

「さっきの先生の話じゃないですが、何をするかを模索中でしてね」


 もちろん、目的は呪学だが、それは腕のことがあるから。

 自分の将来はまだ決まっていないから考え中なのだ。

 ただ、シャルには悪いが、錬金術はないと思っている。


「なるほど。良いことだと思うわ。私は錬金術をおすすめするけどね」


 すんません……


「ついていけそうにないんで微妙です……」

「まあ、あれだけ武術が使えればそっちの道の方が良いかもね。アンディはどこが空いてるの?」


 ジョアン先輩が今度はアンディ先輩に確認する。


「僕は水曜と金曜の午後が空いてる」

「……私は火曜と木曜ね」


 すげーな。

 見事にバラバラだ。


「どうします?」

「うーん、まあ、放課後でもいいか。まずは確認だしね」

「確認というと?」

「地下の古い研究室だからまずはどんな感じなのかを確認してから掃除に入ることになってる。だから掃除は日曜にして、今週のどっかで一度、確認しに行く感じかな?」


 なるほど。

 確認だけなら時間もかからないわけだ。


「それならいつでもいいですよ。俺は半寮生だから夕方の5時に授業が終わっても日本はまだ昼の2時ですからね。先輩達に合わせます」


 後輩だし、そっちの方が良いだろう。


「アンディは?」

「僕もそれでいいよ。日曜は空いてるしね」

「じゃあ、そうしましょうか。確認の日にちは……悪いけど、木曜でもいいかな? ちょっと準備がいるし、私は時間がかかるのよ」


 女子だもんな。


「俺はいいですよ」

「僕も。じゃあ、木曜にしようか」

「ええ。悪いわね。木曜の授業終わりにD校舎の掲示板の前に待ち合わせね」


 木曜の5時に掲示板の前っと……

 忘れないようにしよう。


「わかりました」

「わかったよ」


 俺とアンディ先輩が頷く。


「じゃあ、それで……ところで、ツカサ君、なんで土曜はダメなの?」


 ジョアン先輩がちょっとにやつきながら聞いてきた。


「ちょっと約束があるんですよ」

「へー……デート?」


 絶対にジョアン先輩の脳裏にはシャルが浮かんでいるな……

 合ってるんだけども。


「俺、勉強が苦手なんで教えてもらっているんですよ」

「ほうほう! 勉強かー! 青春だねー」

「何の話?」


 アンディ先輩が首を傾げながら聞いてくる。


「何でもないわよ。有名な戯曲を見ている気分」

「ハア? よくわからないな」


 俺もわからない。

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