第075話 薬草採取
月曜から狩りをした俺は1週間の残りの日は穏やかに授業を受けて過ごした。
土曜になると、シャルと公園で訓練を行い、俺の家で勉強会を行う。
シャルに教えてもらいながら真面目に勉強をしていると、夕方くらいになり、隣の部屋からガタゴトという音が聞こえてきた。
「ん? トウコさん?」
シャルが顔を上げて聞いてくる。
「だろうな」
「そういえば、今日は昼にいなかったわね。お茶とお菓子もお母さんが持ってきてくれたし」
トウコはいつも3時くらいになると、お茶を持ってくる。
そして、そのまま居座ってぺちゃくちゃしゃべっているのだ。
「あいつは今日、森に行っている。熊を狩るんだって意気込んでたな」
「熊って……あそこで遭遇したくない魔物ナンバーワンじゃないの」
俺はそのナンバーワンを100パーセントの確率で遭遇している。
これを言うと、シャルが明日行きたくないって言いだすかもしれないから言ってない。
「俺とイルメラが狩ったからムキになってるんだ。あいつ、子供だもん」
「そっくりねー……狩れたのかしら?」
「どうだかねー? いや、狩れなかったみたいだな」
そう思う理由は音が激しいから。
そして、どんどんと足音がこっちに近づいてくるからだ。
「――お兄ちゃんっ!」
勢いよく扉が開かれ、ゆったりとした部屋着姿のトウコが部屋に入ってくる。
「ノックしろよ。客がいるんだぞ」
「どうでもよくない!?」
いや、絶対にどうでもよくない。
「何だよ」
「熊、いなかったー! 狼ばっかりー!」
トウコが俺のところに来て、身体を揺らしてくる。
「お前は熊に嫌われているんじゃないか?」
「ぬいぐるみを持っているのにぃ!?」
いや、知らん。
関係ないだろ。
「レアなんだから仕方がないだろ。俺は先輩達が襲われている現場に遭遇しただけだし、イルメラは運が良かっただけだな」
「ずるいよー……明日も行きたいぃー」
マジでガキだな。
「その甘い声が通じるのは父さんだけだぞ。あと、明日はダメ。俺がシャルと行く」
「よし! 私も行く!」
「逆に聞きたいんだけど、いいのかよ」
あっちでは目も合わさなさいくせに。
「お義姉ちゃーん、一緒に森に行こー」
トウコがシャルのところに行き、体を揺すり始めた。
「いつ私があなたの姉になったのよ……」
シャルが呆れる。
「一緒に行こうよー。熊を倒そうよー」
「明日は薬草採りなんですけど……」
「薬草と熊を狩ろう!」
「嫌よ。私は熊が嫌いなの。あと、どう考えてもろくなことにならない気がするわ」
俺もそう思う。
「ラ・フォルジュとイヴェールめー……同じフランスなんだから仲良くしろよ!」
それ、絶対に俺のセリフ。
「お前が言うな。定期的に行ってたらそのうち、遭遇するだろうから我慢しろ」
「くそー! こうなったら毎日行ってやる!」
めんどくさい妹。
「単純に疑問なんだけど、なんでこんなに熊を狩りたいのかしら?」
シャルが呆れながら聞いてくる。
「意地になってるだけだろ。イルメラに自慢されて悔しいだけ」
どうせ自慢したんだろうし。
「その気持ちがわからない……」
「ロマネコンティ味のポーションを作ったって自慢されている感じ」
自分で言ってて全然わからんがな。
「なるほど。わかった」
わかったらしい。
俺達はその後も話を続けると、いい時間となったのでシャルが帰っていった。
そして、翌日の午後になると、準備をし、寮に向かう。
シャルとの待ち合わせ場所は湖のセーフティーポイントなので寮の丘を降り、転移の魔法陣に乗って湖に飛んだ。
すると、前の方に湖を見るシャルとクロエの後ろ姿が見える。
シャルはいつぞやに見た外套を羽織っており、クロエはメイド服だ。
「シャル、クロエ」
2人に近づき、声をかけると、2人が振り向いた。
「こんにちは」
「こんにちは。ツカサ様は運動着なんですね?」
そういうあなたはメイド服ですね。
森に行くって言ってんのに……
「まあね。湖を見ながら何してたんだ?」
「別に……」
シャルがちょっと頬を染め、目を逸らした。
「クロエがまたなんかしょうもないことを言ったの?」
「それ」
やっぱりかー。
クロエはたまにくだらないことを言うもんなー。
「御二人が真面目すぎるんですよ」
絶対にクロエがふざけすぎ。
「クロエは放っておいて薬草採りに行きましょう」
「そうだな」
「息ぴったりー!」
うぜっ。
俺とシャルはクロエを無視して、森に入っていく。
今回は狩りではなく、薬草採取が目的なため、奥にまで行かず、比較的浅いところで採取となった。
シャルは木の下でしゃがむと、俺を見て、手招きをしてくる。
「何?」
シャルの横に行き、しゃがむと、目の前に草があった。
「これが薬草。主に葉っぱの部分が回復ポーションの材料になるんだけど、根と茎も触媒になるの」
シャルが草を指差しながら嬉しそうに教えてくれる。
「へー……」
「あと、こっちの草も触媒になってね、ポーションの効能を上げてくれるの」
「そうなんだー」
なんか授業が始まったぞ……
「お嬢様、仲良くするのは結構ですが、ここは魔物が出る森の中です。ツカサ様は護衛係ですのであまり邪魔してはいけませんよ」
クロエが主を諫める。
「そう? じゃあ、採取するわ。ツカサ、よろしく」
シャルはそう言ってさっき教えてくれた草を採取し始めたので立ち上がり、クロエのもとに行く。
「……すみません。お嬢様の悪い癖です」
クロエがシャルには聞こえない声量で謝ってきた。
「……シャルが楽しそうだから良いんだけど、全然わかんねー」
2つの薬草を教えてくれたが、差がまったくわからなかった。
「……でしょうね。私もわかりません」
だろうな……
「ん? どうかしたの?」
シャルが俺達を見てくる。
「いえ……お嬢様、魔除けを持っているとはいえ、先日のこともあります。もちろん、私達も警戒しますが、お嬢様も気を抜かないでください」
「はいはい。ツカサがいれば大丈夫よ」
シャルはそう答えて採取に戻った。
「……ツカサ様はお嬢様からとてつもない信頼を勝ち取りましたね。その反面、ちょっとショックです」
わからないでもない。
クロエも入れてやれよって思ったもん。
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