第071話 女子達


 セドリックと食堂で昼食を食べた後、一度、自宅の部屋に戻り、準備をする。

 と言っても、俺は武器や防具といった装備がないから運動着に着替えるだけだ。


「よし、行くか……」


 着替え終わると、寮に戻り、急いで丘を降りていく。


「あっ」

「よう」


 遅れてはいけないと思い、小走りで丘を降りていくと、ちょうど男子寮と女子寮の分岐点でノエルと遭遇した。


「町の外に行かれるんですよね? イルメラさんとユイカさんはまだ寮ですから急がなくてもいいですよ」


 ノエルが微笑みながら教えてくれる。


「あ、そうなんだ。じゃあ、ゆっくり行くかな」


 小走りをやめ、普通に歩くことにした。

 そして、ノエルと一緒に丘を降りていく。


「なんかイルメラさんとユイカさんが無理やり誘ってごめんなさいね」


 何故かノエルが謝ってきた。

 友人代表かな?


「別に暇だからいいよ。外に出るのはワクワクするし、戦うのは好きだからな」

「やっぱり好きなんです?」

「昔から武術をやっているからな。そもそも体を動かすことは好きだし」


 座学より実技が良い。


「私は逆に武術系統は苦手ですね。運動神経も良くないですし」


 シャルと一緒だな。

 まあ、ノエルは見るからに運動ができそうにない。


「ノエルの家って武家じゃないよな?」

「武家じゃないですね。研究職の家です」


 なら良かったわ。


「あ、そうだ。魔力が高いと魔物が寄ってきやすいってマジなの?」

「………………」


 ノエルが何も言わずにひどいものを見る目で俺を見てきた。


「何?」

「……いえ。あくまでも一説でして、証明されているものではありません。魔力に引き寄せられているのではないかという説があるんです」


 へー……


「じゃあ、また熊と遭遇するかもなー」

「イルメラさんとユイカさんはそれ目当てでしょうね」

「ユイカは戦うの大好きって感じだけど、イルメラも魔物狩りに積極的なのか? 同じ武家のフランクはもう飽きたって感じだったぞ」


 全然、積極的に前に出る感じではなかった。


「イルメラさんもですよ。私達が外に出る時って基本的にはユイカさんが誘ってくるんです。それに私やイルメラさんが付き合う形です。昨日はトウコさんが誘ってきましたけどね。どうやら親御さんから外に出る許可を得たそうです」


 知ってる。

 一緒に頼んだもん。


「じゃあ、イルメラは積極的ではないわけ? でも、今日はめっちゃ誘ってきたぞ」

「それはツカサさん達が熊を仕留めたと聞いたからです。それもかなりの大物らしいですね?」

「大きかったな。グリズリーだっけ?」


 名前は聞いたことがあるんだけど、でっかい熊ってことしか知らない。


「それをフランクさんから聞いて、仕留めたくなったそうです。熊は森の奥にいるんですが、なかなか見つからないんですよ。熊って臆病な動物ですから人が近づくと逃げるんです」


 それは知ってる。

 というか、肉食動物じゃない動物は基本的に臆病だ。


「それでノリノリなわけか」

「はい。昨日は丸一日探しましたけど、成果は狼だけですからね」


 丸一日……

 ノエルは疲れただろうなー……


「まあ、そんな熊が出るかは知らんが、探してみるか……」


 俺達が話しながら歩いていると、丘を降り、D校舎の前までやってきた。


「はい。では、私は授業があるのでここで。頑張ってください」


 ノエルがニッコリと笑い、立ち止まった。


「そっちも授業を頑張ってくれ。じゃあな」


 ノエルと別れると、転移の魔法陣がある建物へと向かう。

 そして、転移の魔法陣を使い、湖のセーフティーポイントまで飛んだ。


 魔法陣からちょっと前に進み、綺麗な湖をぼーっと見る。


「ツカサ、何してるの?」

「たそがれてんじゃない?」


 しばらく何も考えずに湖を見ていると、後ろから声がしたので振り向いた。

 もちろん、そこはユイカとイルメラがいた。


「よう。お前らは制服のままか?」


 2人は午前に見た格好と同じだ。


「着替えるの面倒だしねー。それに私はガチガチの鎧は着ないの」


 イルメラがそう言って、槍を取り出した。


「槍なん?」

「剣も使えるけど、こっちの方が得意。まあ、森では振り回せないから微妙なんだけど」


 確かに木があるから振り回せんな。

 まあ、槍は突きか。


「お前は?」


 今度はユイカに確認する。


「私の戦闘服はあまり人に見せるものじゃない。ウチは暗殺……じゃない、忍び系に近いから」


 はっきりと暗殺って言わなかったか?

 赤羽って物騒な家だな。


「秘密なのか?」

「いや、ちょっとえっちなんだ。ミニ浴衣みたいな感じ」


 あ、そっちか。

 そりゃ控えるわ。


「お前はスピード重視だし、どっちみち、格好なんてどうでもいいか」

「そうそう。ツカサは? 胴着じゃないの?」


 トウコと同じって言いたげだな……


「これでいいよ。武器もないし」

「ふーん……」


 ユイカはニヤニヤしながら双剣を取り出した。

 ちょっとかっこいい。


「いいなー……ちょっと貸してみ?」

「いいけど、短剣だから男の人は似合わないと思うな」


 ユイカはそう言いつつ、双剣を貸してくれる。


「ふむふむ……どうだ? 強そうか?」


 よくわからないのでユイカっぽく構えてみた。


「やっぱり似合わない」

「あんた、剣はドシロウトね。構えがひどい」


 ダメか……


「返す。やっぱり男はトライデントだわ」


 そう言ってユイカに双剣を返す。


「トライデントなんか実用性皆無よ? あんたはメリケンサックでいいでしょ」

「ダサいからダメ」


 かっこよさがない。


「ツカサはハンマーとか斧とかの方が似合うよ」

「もうちょっと俺に似合いそうなかっこいいのないの?」

「「ない」」


 セドリックの言う通りだな。

 こいつら、マジで素直だわ。

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