第058話 イルメラにも同意を求めたが鼻で笑われた


 シャルとの電話を終えた俺は部屋を出て、トウコの部屋に行く。


「トウコー」


 扉を開けると、トウコが制服のままベッドに寝ころび、雑誌を読んでいた。


「ノックしろー」


 トウコに文句を言われたので開いたままの扉をコンコンとノックする。


「ちょっといいか?」

「この世で一番意味のないノック! なーにー?」

「今、シャルから電話があって、ジェリー先生が町の外に行く許可を出してくれたんだと」

「マジ? やったぜ!」


 トウコが喜んで起き上がった。


「一応、伝言を言うと、町の外に行くのはいいけど、気を付けなさいね、だって」

「はいはい。一人で行くわけじゃないから大丈夫。よし! イルメラのところに行ってくるー」


 トウコがそう言ってゲートをくぐって出ていたので時計を見てみると、まだ夕方の5時過ぎだった。

 俺も誘おうと思い、自室に戻ると、ゲートを通り、寮に向かう。


「こっちは暗いんだな……」


 窓を見るともう暗かった。

 こっちは8時だから当たり前と言えば、そうなのだが、やはり違和感はすごい。


 俺は部屋を出ると、まずは隣の部屋に向かった。


「フランクー! フランク・ヘーゲリヒー!」


 フランクの名前を呼びながら扉をどんどんと叩く。

 すると、扉が開いた。


「うるせーよ。あと、フルネームで呼ぶんじゃねーよ」


 フランクが嫌そうな顔で部屋から出てくる。


「ようやくお前の苗字を覚えたんだよ」

「ひっでー奴……それで何だよ? お前がこの時間に訪ねてくるなんて珍しいな」


 俺は一度帰ったらあまりこっちには来ない。


「町の外に行けるようになったから行こうぜ」

「あ? 親に許可をもらったんか? そりゃ良かったな」

「ああ。そういうわけで行こうぜ。お前は普通に行けるんだろ?」


 前に武家の家の子は逆に行かされると聞いた。


「まあな。セドリックは?」

「さあ? あいつ、好きそうじゃないからなー………よし、聞いてみよう!」


 今度は自室の対面の扉の前に立つ。


「……シーガーで合ってるよな?」


 一応、確認。


「合ってる」


 フランクが頷いたので扉をノックした。


「セドリックー! セドリック・シーガーくーん!」

「はいはい……苗字を覚えててすごいね」


 セドリックはすぐに扉を開け、出てきた。


「早っ」


 秒で出てきおった。


「フランクを呼ぶ声が聞こえてたよ……」

「あっそ。町の外に行こうぜ」

「町の外? 別にいいけど、大丈夫なの?」

「大丈夫。テストの点を見た母さんが泣いて許可してくれた」


 すぐ泣くんだから。


「俺、お前の親じゃなくて良かったわ」

「お母さん、苦労したんだろうねぇ……」


 勉強できるバカもいるしな。


「そういうわけで行こうぜ」

「まあ、いいけど、僕は狩りとか好きじゃないから見てるだけだよ?」


 やっぱりセドリックはこういうのを好まんな。


「キツネ狩りとかしねーの?」

「しないけど……よく知ってるね?」

「イギリスを調べた時に書いてあった」


 友人の出身地くらいは知っておこうと思い、調べたのだ。


「イングランドね……ドイツは何て書いてあった?」


 ドイツ……


「ビール」

「あと、ソーセージだろ」


 フランクが言い当てる。


「それ」

「まあ、そんなもんだろうな」

「だろうね。町の外に行くのはいいけど、いつ行くの? 今度の土日?」


 今日は月曜日だ。


「明日でいいじゃん。俺、土日は用があるんだよ」


 土曜はいつものやつ。

 日曜はシャルと町に出かける約束をした。


「ふーん、明日ね。僕はいいけど、フランクは?」

「俺も別にいいぞ」


 よしよし。


「じゃあ、明日なー。おやすみー」


 2人が快諾してくれたので上機嫌で日本の自室に戻った。

 やはり窓の外はまだ明るく変な気分だった。


 翌日、授業が終わると、一度、家に帰って準備をする。

 そして、寮の休憩スペースに行くと、制服姿の2人が待っていた。


「あれ? 制服なん?」


 とはいえ、セドリックは外套を羽織っている。


「そういうお前は運動着か。スポーツマンだな」

「魔法使いには見えないね」


 まだ制服の方が魔法使いに見えるという自覚はある。


「他にないからなー。制服を汚すと母さんが怒るし」


 白いから洗濯が大変らしい。

 この前の決闘でシャルに投げられて制服を汚したトウコが怒られていた。


「まあ、お前は武術だもんな」

「お前らはそれでいいのか? マチアスみたいな鎧は?」


 マチアスは重装備で騎士みたいだった。


「重いんだよ。疲れるし、メンテが大変なんだ。それに獣相手ならなくてもいい」

「僕の外套は良いやつなんだよ。ほら、君らの決闘の時に会長が羽織ったでしょ」


 確かにシャルの外套はトウコの氷魔法を防ぐくらいにはすごかった。


「セドリックはなんとなくわかるけど、フランクはいいのか? 危なくないの?」

「俺だって強化魔法は使えるし、何かあってもセドリックが回復魔法で癒してくれる」


 そうなの?


「お前、回復魔法も使えるのか?」


 セドリックに聞く。


「広く浅くって言ったでしょ? 専門じゃないけど、怪我したら言って。大怪我じゃない限り治すから。まあ、君らは大丈夫そうだけど……」


 へー……


「武器は?」

「杖だよ。会長と一緒。タイプ的には僕も接近戦はノーだからね」


 セドリックがシャルも持っていた菜箸みたいな杖を見せてくれる。


「ふーん……フランクは?」

「ここでは出さんが、剣を持ってきてる」


 セドリックが杖でフランクが剣ね……


「やはりバランス的には槍がいると思わんか?」


 杖、剣、槍。


「さすがにトライデントは持ってねーよ」

「どう考えてもいらないでしょ。諦めなっての……行くよ」


 2人が呆れて立ち上がったので出ることにした。

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