第043話 昨日の敵は今日の友?
シャルがテーブルに突っ伏し、頭を抱えて悩んでいる。
「ラ・フォルジュ……ラ・フォルジュかー……」
「ツカサ・ラ・フォルジュとは名乗る気ないぞ」
「ださいもんね」
トウコ・ラ・フォルジュも相当だぞ。
「でも、ラ・フォルジュの人間なんでしょ?」
「多分な。ラ・フォルジュの金と伝手で入学したし」
「裏口野郎(笑)」
うっさい。
いちいちガヤってくんな。
「やっぱり……あ、ごめん」
「謝らなくてもいい」
シャルも裏口だろうなという当たりは付けていたようだ。
まあ、勉強を見てもらっているわけだから想定は付くだろう。
「うーん……」
まだ悩んでやがる。
「家でなく、個人を見るべきだぞ。マチアスは嫌いだけど、ジャ……? あいつの家は嫌いじゃないし」
苗字も覚えていないレベルだしな。
というか、西洋人の苗字って覚えにくいんだよ。
俺、ラ・フォルジュ以外だとイヴェールしか覚えてない。
すまんな、クラスメイト諸君。
「……なるほど」
シャルが顔を上げた。
「だろ?」
「そうね。私もマチアスは嫌いだけど、ジャカールは嫌いじゃない」
それ。
ジャカール。
「え? 会長、マチアスの野郎のことが嫌いなの?」
トウコが驚いたような表情になる。
「好きになる要素を教えてちょうだい」
「ない!」
トウコが断言した。
なお、俺もない。
「そうね……確かに個人を見るべきだわ。ツカサはツカサ」
シャルがうんうんと頷く。
どうやら折り合いがついたようだ。
「そうだぞ。俺もイヴェールとラ・フォルジュに因縁があるのは聞いているが、そんなもん知らん。俺が知っているのはシャルが良い奴ってことだけ。それで十分だ」
頭が良くて優しくて美人な子。
どこに否定するところがあろうか。
「あなたも十分に良い人よ……確かにそれで十分」
「ロミジュリ……」
トウコ、うるさい。
というか、ロミジュリって何?
人の名前か?
「あ、それで俺らが兄妹なことは内緒な」
「そうそう。絶対に言わないでね」
トウコもうんうんと頷く。
「そういえば、なんで隠しているの? 苗字が違うから?」
シャルが聞いてきた。
「「さっきみたいに笑ってくるから」」
「ねえ、それ、わざとやってんの?」
やってる。
今のはわざと合わせた。
「とにかく、内緒な。双子はからかわれるんだよ。あと、地味に俺がラ・フォルジュを名乗ると迷惑がかかっちゃうじゃん。俺、お前らみたいに猫被りできないし」
「猫被り……確かに被ってるわね」
シャルがトウコを見る。
「会長もめちゃくちゃしゃべるじゃん。いつもは全然、しゃべんないで睨んでくるだけなのに」
「それは……いえ、そうね…………トウコさん、あ、兄妹ならツカサもね。先日は申し訳ありませんでした」
シャルが頭を下げた。
「え? 何が? 昨日、私を地面に叩きつけたこと?」
そりゃお互い様だろ。
というか、お前、シャルの腹に掌底を当てたな?
覚えとけよ。
「いえ、その決闘になった原因のことです。マチアスが過激な発言をすることは以前から承知していましたが、さすがに親御さんを侮辱するのはやりすぎです。マチアスは私の派閥の者でクラスメイトです。代わりに謝罪します」
シャルは頭を下げたまま謝罪の言葉を述べる。
「会長に言われても……」
まあ、そう思うわな。
シャルって何もしゃべらずにただ手袋を投げただけだし。
「トウコ、マチアスは退学だとよ。親に差別発言がバレて、絞られたそうだ」
「退学? ざまあ!」
トウコが満面の笑みになった。
「そうそう。だからシャルが代わりに謝罪してるんだ。もうマチアスと会うことないだろうし」
「そっかー! いやー、すっきりするね。イルメラが喜びそう」
だろうな。
「シャル、頭を上げな」
そう言うと、シャルが頭を上げる。
「会長、私はもう気にしてないよ。マチアスの野郎が退学になったし、1万円ももらったし」
「そう……ツカサもごめんなさいね。今思えば、ツカサがマチアスを蹴った理由もわかるわ」
そりゃトウコの親は俺の親でもあるからな。
侮辱してきたら怒る。
「気にするなって。あ、町を案内してよ。今度は金もある」
以前はほぼ冗談だってけど、金がないから流れたのだ。
「あー……例の賭け。もう行ったんじゃないの?」
「武器屋で興奮して途中で帰った。演習場でフランクに武器を触らせてもらうことにしたんだよ」
そこで武器を触るどころかユイカに斬られた。
「そうなんだ……案内ね……べ、別にいいけど……そういう賭けだったし」
「じゃあ、よろしく……あ、話は終わったからお前は部屋に戻っていいぞ」
トウコをしっしっと手で払う。
「え? 2人で何すんの?」
「勉強って言ってんだろ」
「勉強……年頃の男女が男の部屋で……なんかえっちだな……」
死ね。
兄貴にえっちとか言うな。
「いいから部屋に帰れ。俺はテストでユイカに勝つんだよ」
最下位は嫌だ。
「実質、ノエル対会長の家庭教師対決か……」
「それでもいいよ。俺は真面目に勉強するの。シャルとやってると頭が痛くならないんだ」
あら不思議。
「そりゃそうでしょうねー……じゃあ、頑張ってね」
トウコはそう言うと、立ち上がり、部屋を出ていった。
「シャル、トウコと話してみて、どう思った?」
「ツカサと兄妹なんだなーって思った」
「そうか……」
嬉しくないな。
「まあいいわ。自分の中の折り合いもついたし、謝罪もしたし、勉強をしましょう」
シャルがそう言って勉強道具をテーブルに広げたため、勉強することにした。
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