第038話 マチアスと戦う


 俺とマチアスの決闘が始まり、相対した。


 マチアスは腰の剣を抜くと、ゆっくりと下がり、距離を取る。


「どこに行くんだー?」

「ふん、魔法も使えない劣等に魔法というものを教えてやる」

「魔法くらい使えるぞ。強化魔法と空間魔法」


 それだけ。


「それらは魔法ではない」


 そういや、シャルがそういう考えを持つ奴もいるって言ってたな。

 こいつだったか。


「じゃあ、見せてくれ」

「バカが」


 マチアスは俺から10メートルくらいの距離を取ると、止まった。

 そして、剣を下段に構える。


「わかりやすいなー……」


 思わずつぶやく。

 すると、マチアスが剣を振り上げた。


「死ねっ!」


 マチアスが振った剣から風の刃が飛び出し、俺に向かってくる。

 俺はそれをひょいっと上体を逸らして躱した。

 そのまま後ろに飛んでいった風の刃を見ていると、壁に当たる。

 壁には大きな傷ができており、威力の高さがよくわかった。


「すごいなー……え?」


 壁を見て、魔法のすごさに感心していたのだが、それよりも一瞬にして壁の傷がなくなったことに驚いた。


「何あれ?」


 後ろに指を差しながら立会人のジェニー先生を見る。


「そういう魔法がかかっているのです。ですので、遠慮なく魔法を使ってください」


 へー……


「そんなことも知らんのか?」


 マチアスがバカにしてきた。


「ここを使ったのは今日で3回目なんでな」


 今日を除けば、基礎学の実技とユイカと戦った時だけだ。


「そんなシロウトと決闘をするなんて、ジャカールの名が落ちるぜ」


 こいつに名を気にする気持ちがあったのか……

 じゃあ、言動をどうにかしろと思うわ。


「どうでもいいが、魔法を見せてくれるんじゃなかったのか? 確かに見たが、あんなもんは当たらんぞ」

「減らず口を……! 最初は手加減してやっただけだ!」


 マチアスはそう言いながら剣を振った。

 またしても風の刃が飛んできたが、先程とスピードは変わらないので簡単に避ける。


「外したぞー」

「チッ!」


 舌打ちをしたマチアスが今度は2回振り、2枚の風の刃を出してきた。

 しかし、だから何だという話であり、今度も簡単に躱す。


「マチアス、そこからだと遠いぞ。絶対に当たらん」


 というか、剣を振ってるからどこに飛んでくるかが見てわかる。

 そんなもんに当たるわけがない。


「黙れっ!」


 マチアスはがむしゃらに剣を何度も振り、風の刃を出してくる。

 俺は当たりそうな風の刃だけを見て、最低限の動きだけで躱した。


「だから無理だってば」

「くっ!」


 マチアスは何を思ったか、さらに数歩下がった。


「というか、他にないの? 一個だけ?」

「劣等が! 今、見せてやる……!」


 マチアスは剣を上に向ける。

 すると、剣の先に先が尖った大きな岩が現れた。


「もしかして、飛ばすんか? 同じでは?」

「黙れ!」


 マチアスが剣を振り、俺に向けると、同時に尖った岩が俺に向かって飛んできた。

 しかし、その動きはさっきの風の刃よりも遅く、何がしたいのかわからない。


「あほらし」


 俺は飛んできた岩を蹴り上げた。

 すると、岩が粉々に砕ける。


「なっ!?」


 ダメだこりゃ……

 マチアスの奴、想像以上に弱い。

 何がダメって風の刃も岩もそんな距離から放っても意味がなさすぎるところだ。

 そして、それがわかっていないのが致命的。

 安全圏から魔法を放つことしか頭になく、剣も鎧も飾りでしかない。


「行くぞー」


 足に魔力を込めると、マチアスとの距離を縮めていく。


「クソッ!」


 マチアスが剣を振り、風の刃を出してきたが、それをジャンプして躱すと同時にマチアスの目の前に着地した。


「ここからどうするんだ?」

「黙れ!」


 マチアスが剣を無駄に大きく振りかぶったのでがら空きの腹部に蹴りをぶち込んだ。


「ぐっ……!」


 結構、力を込めたのだが、マチアスは数歩下がっただけで倒れることはない。

 それどころか俺の足が少し痺れている。


「良い鎧だな」


 絶対に高いわ。


「クソッ!」


 悪態をついたマチアスが一瞬で消えた。


「ん?」


 後ろに気配がしたので振り向くと、マチアスが10メートル後方に立っていた。


「速い?」


 いや、そんなそぶりはなかった……

 ワープだな、きっと。


「これが転移魔法だ、劣等」


 マチアスがニヤリと笑った。


「教えてくれてありがとう」


 バカか、こいつ?

 自分で手の内を晒しやがった。


「死ねっ!」


 マチアスが剣を振ると、まっすぐ風の刃が飛んでくる。

 そして、マチアスがニヤリと笑った。


「わかりやすっ」


 正面から飛んでくる風の刃を頭だけを動かし、ひょいっと躱すと、そのまましゃがむ。

 すると、後ろから風の刃が飛んできて、俺の頭があった位置を通って消えた。


「なっ!? 何故っ!?」


 ホント、素人で笑うわ。

 目線でバレバレだし、自分で転移魔法を使えるって言ってただろ。

 あと、勝ったっていう顔で笑うな。


「マチアス、実は俺も転移魔法が使えるんだ」

「笑わせるな、劣等! 転移魔法は上級魔法だぞ!」


 知らんがな……

 俺にしたらトウコのライターも上級魔法だわ。


「行くぞ」


 右足に魔力を集中させ、力を込めた。


「え?」


 一瞬で距離を潰し、マチアスの目の前に来る。


「ほらー」

「きょ、強化魔法!? クソッ!」


 マチアスが剣を振って斬りかかってくる。

 だが、その振りは鈍く、前に見たフランクの振りとは大違いだった。


 俺はマチアスが振りきる前に一歩前に出て、マチアスの剣を掴む。


「なっ!? ぐっ! 動かないっ!」


 マチアスは必死に剣を押しているようだが、力がない。


「動くわけないだろ」


 魔法の腕はマチアスが上だろう。

 それは俺も認める。

 だが、魔力は俺の方が高いし、その魔力をすべて強化魔法に回している俺に力で勝てるわけがない。

 ましてや、こいつはロクに剣を振ったことがない男だ。


「劣等がっ!」

「もういいわ。よくわかった」


 力を込め、マチアスの剣を強く握る。

 普通なら指が切れるが、強化魔法で強化された俺の手が傷付くことはない。

 それどころか剣の方にひびが入り、そのまま握りつぶすと、剣が砕けた。


「は? な、何が……?」


 マチアスは目の前に敵がいるというのに呆然と剣を見る。


「いいのか?」


 そう聞くと、マチアスがハッとし、俺の顔に手を掲げた。

 すると、マチアスの手から火の玉が飛び出してきたが、頭を下げて躱し、それと同時に身をくるりと回転させる。

 そして、その回転の勢いのまま、マチアスの顔面に後ろ回し蹴りを放った。


 まともに蹴りを食らったマチアスは地面に倒れ、ピクリとも動かなくなる。


「あ、首の骨が折れたな」


 そうつぶやくと、マチアスの姿が消えた。

 ちらりと観客席の方を見ると、前の方にマチアスの呆然とした姿が見える。


「そこまでです! 長瀬ツカサさんの勝利です!」


 先生がそう宣告すると、観客席がわっと沸いた。

 観客席を見ると、騒いでいるのは見たことある連中だったので同じクラスの人間なことがわかる。


 俺は踵を返し、戻っていく。


 いやー……よえー、よえー……

 まったく参考にならんかったな。

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