第036話 くだらない理由


 昨日の夜、トウコを体調不良にするために寝かさずに町の外に出る方法を話し合った。

 結局、会議は5時まで続き、そこから就寝した。

 そして、俺は7時には起きた。

 時差が3時間あるため、この時間には起きないといけないのだ。


「ねみー……」


 トウコの体調不良計画の最大のミスは自分も寝られないから体調不良になることだった。

 それを今、気付いた。


「マジかよ……まだ寝てたい……」


 布団、柔らかい……


「お兄ちゃーん、起きてー! 遅刻するよ!」


 パジャマ姿のトウコが部屋に入ってきた。


「眠くね? 不戦敗でよくね?」


 そう言いながら布団に籠る。


「私だって眠いけど、それはマズいでしょ。いいから起きて! さっさと会長とマチアスの野郎を潰して、帰って寝ようよ」

「あー、だる」

「ホントだよ。町の外に出る話し合いなんて後でいいじゃん。なんで決闘の前日に話すのよ」


 こいつ、まだ気付いてねーし。

 アホだなー……

 まあ、人のことを言えないんだけど。


「ハァ……飯食って、行くか」

「そうそう! 12時半に教室に集合だからね。イルメラ達が待ってるから」


 そういう話になっている。

 あいつらも応援にくるらしい。


「わかったー」


 ベッドから降りると、トウコと一緒にリビングに降りた。

 そして、朝食を食べ終えると、それぞれ準備をする。


「服は……制服でいいか」


 別に何でもいいだろ。


 制服に着替えると、時計を見た。

 時刻は8時になっており、向こうはまだ11時だ。


「1時間だけ寝られるな……寝たら絶対に起きないだろうけど……」


 仕方がないので漫画を読んで時間を潰していく。

 そして、約束時間の10分前になったのでゲートをくぐり、寮にやってきた。


「あ、来た」

「な? 制服で来ただろ?」


 いつもの休憩スペースにセドリックとフランクが待っていた。


「制服はダメなのか?」


 お前らも制服じゃん。


「いや、別に何でもいいぞ。セドリックとどういう格好で来るかなって話してただけだ」

「ふーん……行くかー」

「そうだな」


 俺達は1階に降りると、丘を降りていく。


「あー……ねみ」


 思わず、あくびが出た。


「どうした? 眠れなかったのか?」

「だなー。どうやって町の外に行くために親を説得するかを考えてた」

「大物だな、お前……」

「決闘の前日に考えることじゃないね」


 2人が呆れる。


「いやさー、正直、マチアスのことはどうでもよくなったんだわ」

「そうなんか?」

「あいつ、決闘って言ってたくせに演習場じゃないと嫌みたいなことを言ってただろ。それでちょっと冷めた」


 そのうえにシャルのことだ。

 もうマチアスなんてどうでもいい。


「あー、それか……わからんでもないな」


 フランクが深く頷く。


「なんで?」


 セドリックが聞いてくる。


「決闘って殺し合いだろ。いや、さすがに殺しはしないけど、それに近いものだと思うわけよ。だから手袋を投げるなんて作法があるわけじゃん。なのに演習場って……」

「戦士の考えじゃないわな。ましてや、武家のジャカールの人間がなー」


 なー?


「そういうもん?」

「そういうもん。決闘じゃなくてケンカだったら別に演習場でもいいんだけど……」

「俺はマチアスって口だけだなって思ったな」


 俺も思った。


「もっとも、どれくらい強いか知らんがな」


 まあ、負けてもいい。

 問題はシャルだ。


「頑張れよ。結果はどうあれ、魔法使いと戦うのは初めてだろうし、良い経験になると思う」

「それは確かにそうだね。ユイカはどちらかというと剣士だし、良い経験になると思うよ。気楽にいきな」


 2人がリラックスさせてくれると、丘を降り終えたのD棟に行き、教室に入る。

 すると、すでにイルメラ、ノエル、ユイカがおり、座っているトウコを囲むように立っていた。

 そして、そんなトウコは何故か胴着を着ていた。


「お、ツカサも来た」

「こんにちはー」

「ツカサは制服だ」


 俺達は女子のところに行く。


「制服じゃダメなん?」

「普通は戦闘服でしょ」


 イルメラがきっぱりと告げた。


「戦闘服? んなもんねーよ」

「なんで? え? 武器は?」

「ないな」

「いつものあんたじゃん」


 いつもの俺だよ。


「え? 皆、持ってんの?」

「いや、単純に戦いだったら武器や防具を装備しない?」

「日本では捕まるんだよ」


 銃刀法違反だ。

 さすがにそれくらいは知ってる。


「でも、制服はなくない? 武術ができるんでしょ? トウコみたいな胴着はないの?」


 あるけど、着ねーよ。

 というか、着たらマジでそっくりな双子になるだろ。


「いらん」

「問題ないならいいけどさ……まあいいか。よし、2人共、体調は万全? 準備は良い?」


 いや、微妙……


「「大丈夫」」


 俺とトウコが同時に答える。

 すると、ユイカがちょっとニヤッとした。


「よし! 演習場に行くわよ!」


 イルメラがそう言うと、トウコが立ち上がった。


「――っしゃ! ちょっと私より顔が良くて、スタイルが良いからって、お高くとまりやがって…………ぶっ潰す!」


 トウコは私怨100パーセントなことを言いながら気合を入れると、教室から出ていった。

 

「……家のことじゃなくて、気にしてたのはあれみたいですね」

「……気持ちはわかるけど」

「……追うわよ」


 女子3人がトウコのあとを追っていったので俺達も顔を見合わせると、演習場に向かった。

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