第013話 覚えろ
実技が終わると、ジェニー先生がトボトボと俯きながら演習場を出ていった。
「授業はこれで終わりか?」
まだ11時なんだが……
「ちょっと早いけどそうだね。まあ、今日は10人くらいしかいないから早くなるよ。一応、昼まではここを好きに使ってもいいけど、どうする?」
「うーん、さっきのロボットは?」
「言えば貸してくれると思うよ」
はたして壊した俺が頼んで貸してくれるんだろうか?
「あれ、弁償とかない? 先生、ショックを受けてたみたいだけど……」
「備品だからそういうのはないよ。単純に自分の魔法を破られたのがショックなだけだと思う」
いや、高いを連呼してなかった?
「お前ら、壊さなかっただろ?」
「あれ、かなりの強化魔法だったよ? あれを破られるのは限られた人だけ」
「トウ……ラ・フォルジュさん?」
「まあ、そうだね。後はこのクラスで言えば、ユイカかな?」
ふーん……
「トウコさん、珍しく上級魔法を使ってましたね……」
「対抗したんでしょ。トウコ、プライドの塊だもん。名門アピールよ」
いや、双子のマウント合戦だな。
俺らはどんなくだらないことでも争うのだ。
それが双子の性……
「へー……まあいいや。今日は初日だから帰ろうぜ」
「じゃあ、帰るか」
俺達は演習場から出ると、寮がある丘を登っていった。
そして、途中で女子2人と別れ、男子寮に戻ると、2階の休憩スペースで空間魔法とやらを教えてもらう。
「ここに術式が書いてあるだろ? これの通りにすればいい。そんなに難しくないだろ?」
フランクが魔法の教本を見せてくるが、何かの数式が書いてあり、意味がまったくわからなかった。
「わかんない……」
「なあ……お前、もしかして、術式の見方も知らんのか?」
「術式……?」
数学じゃないの?
「こいつ、マジだ……」
「なんで受かったんだよ……」
2人が呆れる。
「裏口……」
「あー、そっち方面か」
「君の親御さん、いくら積んだんだろうね」
ラ・フォルジュの家の伝手……
多分、お金も出してくれたんだろうけど。
「マズい?」
「いや、そういうのもあるのは皆、知っている」
「表だって言わないけどね。暗黙の了解ってやつさ。実際、ウチも出していたじゃないかな? 普通に受かったと思うけど、次期当主の僕が落ちるわけにはいかないからね」
なるほど。
「ふーん、じゃあいいか。そういうわけで術式とやらを教えてくれ。今日の座学はさっぱりだった」
「じゃあ、そこから教えるか」
「骨が折れそうだねー」
俺はその後、2人に術式について教えてもらった。
2人は丁寧な教え方だと思うし、我慢強かったと思う。
「なんとなく術式がどんなものかはわかったけど、使える気がせんな」
「なんでだ? 強化魔法は使えるんだろ?」
「強化魔法は体内で魔力をコントロールするだけだからなー。そういうのは得意なんだけど、これを外に出すのが苦手なんだよ。だからこれまで魔法使いになる気がなかったんだ」
トウコのライター火魔法すら使えない。
「あー、そういうタイプか……たまにいるな」
「いるねー。魔力は高いのに全然魔法を使わない人」
「珍しくない? 俺、落ちこぼれじゃない?」
大丈夫?
「それだけ魔力があって落ちこぼれって何だよ……」
「まあ、学力は落ちこぼれなんだろうけどね……ツカサさー、魔法使いっていうのは色々いるんだよ。僕らからしたら君の魔力が羨ましくて仕方がないよ」
俺はお前らが羨ましくて仕方がない。
「ないものねだりか」
「だと思うよ。魔法が使えないって言ってたけど、あれだけの強化魔法が使えるなら十分」
十分、か……
「ツカサ。お前はどういう魔法使いになりたいんだ?」
フランクが聞いてくる。
「どういうって?」
「将来的になりたい魔法使いの形だ。例えば、ウチは武家だから戦闘技術になる」
「僕は当主だからそういうのはあまりないけどね。広く浅くさ」
うーん……
「解呪かな?」
「解呪?」
「なんでまた?」
理由は言えないなー……
「ウチの親がそういう魔法が得意なんだ」
嘘はついてない。
母さんは得意だと思う。
「へー……解呪って難しいぞ」
「ものすごい意外な答えが返ってきたね。君は戦闘方面の方が良いと思うけど……」
自分でもそう思う。
「無理か?」
「無理って程ではないな。確かに難しいが……」
「少なくとも学力はいるね。解呪の術式は複雑だから」
学力……
「勉強かー」
「どっかのお偉いさんが魔法は学問って言ってたぜ? とにかく、解呪を学びたいんだったら術式を覚えな」
「どれくらい?」
「まずはこの教本に書いてある基礎の術式は全部」
俺は教本をパラパラとめくっていく。
とんでもない数の術式が載っている気がするが、基礎らしい。
「全部……ちなみに、お前らは覚えてんの?」
「そりゃそうだろ」
「当然だね」
すげー……
「俺、バカだから無理なような……」
「いや、俺もどちらかというと、お前寄りだぜ? 物心が付いた時からやってるから覚えているだけだ」
「そうそう。僕らだってこれを一瞬で覚えるなんて無理だよ。子供の頃は嫌で仕方なかったね」
キャリアの差か。
同い年だが、俺は子供の頃に投げ出し、こいつらはやったんだ。
「なるほど……」
「とにかく、覚えろ。こんなもんは暗記だ」
「というか、覚えないとマズいね。テストあるよ?」
テスト……
嫌いな言葉だぜ。
「テストって筆記? 実技とかないの?」
「実技は基本的にないな」
ないのか……
「先生をぶっ飛ばしたら合格的なものも?」
「先生をぶっ飛ばすな……いや、人生でこんなツッコミをするとは思わんかったわ」
「脳筋だなー……考え方が中世だよ」
うーん、勉強しろってことか……
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