日記8 二人の勇者とご対面

「ここが、勇者様たちがいらっしゃる、ルラルド騎士団の本部です」

『おお。やってるな』


 俺は今日、王都の訓練場へとやってきていた。

 数多くの騎士たちが、それぞれ剣を交えている。

 まあ、つまるところ、ようやく勇者二人との顔合わせが行われるということだ。

 ここ数日、なんだかんだと忙しく、まだ二人には会っていなかった。


 さすがは前衛を任されるだけのことはある。

 俺たち遊撃部隊とは違い、体格はもちろん、全てが近接に特化した訓練のようだ。


 さて、勇者二人はどこにいるのだろうか。


「おお。副団長様がいらっしゃっているぞ」

「うひょー。今日も可愛いな」

「馬鹿野郎、じろじろ見んじゃねぇ」


 相変わらずセレーヌは人目を引くな。

 まあ、容姿だけ見ると女神か、というくらい美しいからな。

 中身は変態だが。


「私ったら、罪作りな女」

『自分で言うかよ、それ』


 と言った具合に訓練場を歩き回っていると、一際異彩を放つ二人が目に入った。

 とまぁ、この中で黒髪なのは彼らくらいだから、すぐ目に留まったんだが。


『セレーヌ。もしかしてあれが?』

「? ええ。そうです。あそこにいる二人が、勇者カイ、そして勇者ノゾミです』


 見た感じ、高校生くらいだろうか。

 しかし、なかなか様になっているな。

 見た目は若いが、顔つき見て取れるが、覚悟は立派なものになっている。

 この数日間、かなり修行を行ったようだ。


「少し、様子を見てみましょうか」

『そうだな』

「シン様はどちらが勝つと思われます?」


 セレーヌが訊ねる。

 勇者カイと聖騎士団の騎士が模擬戦を始めようとしていた。

 そうだな。経験では圧倒的に騎士。潜在能力ではカイだろう。


「やっぱり、経験豊富な騎士が勝つんじゃないのか?」

『ふふ。私は、カイ様がお勝ちになると思います』

「理由は?」

『経験は時に、油断の元になるからです』


 俺たちは勇者の実力を見てみることにした。


 勇者カイの目の前に対峙しているのは、そこそこ腕が立つ騎士のようだ。

 年齢からして、かなり上の地位にいる。


 騎士は上段の構え。

 カイは中段で木剣を構えている。

 先に動いたのはカイ。

 踏み込みは速い。魔力の扱いをこの数日間でものの見事に習得している。

 だが、動きがあまりにも直線的だ。

 これでは、剣をいなされ、カウンターをもらいかねない。


 案の定、騎士は半身を逸らし、カイの斬撃を剣の腹で滑らせる。

 騎士はそのままの流れでカウンターの姿勢になった。やっぱりな。

 おそらく何千とこのやりとりをしてきたのだろう。

 慣れた動きだな。


 しかし、カイは剣をいなされていながら、身体は崩さなかった。

 まさか。

 カイはそのままくるりと騎士に振り返り、騎士のカウンターを剣で穿つ。

 騎士は気を緩めていた。

 そのままの勢いで剣を吹き飛ばされ、カイのカウンターが騎士の側頭部に吸い込まれる。


 カイの勝利だ。

 セレーヌの予想が的中する。

 

「ふふん」


 ドヤ顔でこちらを見るなセレーヌ。鼻の下が伸びてるぞ。

 しかし、彼女が日本にいたら、格闘技の勝敗予想とは百発百中だろうな。

 カイの隣では、ノゾミもまた一騎打ちに勝利していた。


『挨拶に行くか』


 俺は少し緊張しながら、二人の元へ駆け寄った。


 ◇◆◇


「ありがとうございました! ……ん? その姿は……」

「あれ、もしかして」


 カイとノゾミはすぐに俺とセレーヌに気がついた。

 犬の姿じゃなんだな。

 俺は人の姿になった。

 それを見た二人は、驚きで目を丸くする。


「こちら、英雄召喚されたシン様です。私はルラルド王国聖騎士団副団長、セレーヌ・ディアベルリアです」

「俺の名前はシン。セレーヌの言う通り、英雄召喚者だ」


 ちょっと緊張して、硬い口調になってしまった。


「本当だ、噂の通り……。おっとすまない。俺はカイ。そしてこっちが……」

「ノゾミです。よろしくね」


 カイとノゾミはぺこりと一礼して、俺の姿をまじまじと見た。


「ダックスフンド懐かしいなぁ~! 色々話を聞かせて! シン君」

「ああ。もちろんだ」

「シン様、私は少し席を外しますね」

「分かった」


 セレーヌが席を外したあと、俺とカイとノゾミの三人で、あれこれと近況やら日本でのこととかを語り合った。


「それじゃあ、シンはサラリーマンだったのか。これはすみません。俺、ついタメ口で」

「あ、本当。私ったらごめんなさい」


 俺が元はしがない中年だったことを知ると、二人はびっくりした様子だった。

 しかし、そうかしこまられると居心地が悪い。

 年上だと聞いてすぐに敬語を使うあたり、いい子達だな。


「いや、構わない。今は二人と同い年なんだから、これからもタメ口で頼むよ」

「分かった。改めてよろしくな、シン」

「よろしくね、シン君!」


 二人のことをざっくりまとめるならこうだな。

 カイは義理堅く、まさに勇者と言った性格。

一人でに突っ走ってしまう、やや脳筋な一面ある感じか。


 ノゾミは優等生だな。勉強熱心。

 しかし、なんだろう。俺とよく似た性質を持ち合わせているような。

 時々彼女の目が、厨二病特有の何かを秘めている、そんな感じだ。


「それで……あの、シン君にお願いがあるんだけど」

「どうした? ノゾミ」

「あとで、是非ともモフモフさせて欲しいなぁ。ずっと犬を飼いたかったんだけど、反対されてて」

「ああ、なんだそんなことか。構わないよ」

「やったぁ!! ありがとう」


 それを聞いてノゾミは大喜びだ。

 俺? 俺ももちろん大喜びだ。

 ほら、ラッキースケベがあるかもしれないし?

 細い腕で体を撫で回されるのは最高に気持ちが良いだろ?

 あれ、もしかして俺気持ち悪い?


「たっく、ノゾミは相変わらずだなぁ」


 やれやれといった様子のカイだが、そわそわが隠し切れていない。

 ツンデレだなぁ。俺は男には興味はないが、友として、触らせてやってもいいんだぜ?


 とまあ、なんだかんだ二人の勇者はいかにも勇者って感じで、優しくて、礼儀正しい。

 良い人そうで良かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る