世界に一人だけの魔物学者
べるりんです
プロローグ
第1話
「そこの
ヒゲの生えたコワモテの男が液体の入った瓶を指差し声をかけてくる。
「貴重なユニコーンの角を使った武器はいかが?」
向かいの屋台からはブロンド髪の男が優しい口調で声をかけてくる。
「今は間に合ってる」
俺は商品の販売催促を掻い潜り、一歩踏み出す。
目に見えてきたのは巨大な洞窟。その洞窟の入り口には真っ赤な巨大な扉があり何人かの兵士が検問を張っていた。
ここはこの国「メヴィア王国」にある巨大な迷宮「ギルドクライン」だ。
数百年あるいは数千年前から鎮座すると言われているこの巨大な迷宮は、古くから財宝の尽きぬ洞窟として挑む冒険者が後を絶たない。
そこでメヴィア王国はこの迷宮の眼前に王都を構え、人の流れを王都に呼び寄せることで繁栄、成長を遂げていた。
迷宮というのは危険なもので死者も多く出る。それでもこの熱気が止まないのは迷宮が財宝を産み落とすからだ。
迷宮で一山当ててやる。そんな人間で王都は賑わっている。
かく言う俺もそんな冒険者の1人………と言うわけでもなかった。
俺の名前はローラン。今年で29歳になる。俺は迷宮に財宝が目的で通い詰めているわけではない。いや、もちろん貰えるものは貰っておくけど。
俺が迷宮に潜る真の目的は魔物の調査をすることだ。俺は昔から生き物が大好きだった。とりわけ奇抜な見た目、生態を誇る魔物はずっと調べてみたいと思っていた。
俺は18歳になった時王都に初めて足を踏み入れ、迷宮「ギルドクライン」に初挑戦した。
迷宮初挑戦は散々な結果になったが、それはまたの機会に。
とにかく俺は迷宮で魔物の調査をし、生態を記した本を出版したいと言う夢を持っている。
今日は奇妙な噂を聞いたのでそれの真意を確かめるために迷宮に潜るのだ。
その噂とは上層に深層のモンスターが上がってきていると言う話である。
一般的に迷宮とは深く潜るほど敵が強くなる。 故にこの噂が本当なら魔物の生態系が変わってしまう可能性があるのだ。
うーん、そうなると書いていた本の半分が描き直しになるぞ……
今更生態系が変わるのだけはやめてくれよ……
俺は一抹の不安を抱えながら迷宮へ一歩踏み出した。
迷宮「ギルドクライン」の1階層は赤い岩壁の巨大な洞窟だ。
入り口からしばらく直進した後、巨大な広間に出る。
地中とは思えないほど広く明るいこの広間は「
そう呼ばれる理由は簡単、魔物が出ないからだ。
広間の中央には真っ赤な水晶があり、こいつに魔物避けの効力があるらしい。
近くへ目をやると数人の冒険者が物々交換をしていた。
「さて、どこから調べようか…」
1層はそれほど大きな階層ではない。故に出現する魔物は敵対生物が2種、中立が2種の計4種だ
敵対生物の内訳は
洞窟スライム…全身が濁った緑色の液状の生物であり、飛びついて窒息攻撃を仕掛けてくる。
レッサーバット…一つ目の体の丸い蝙蝠で、大きさは羽も含めて人間の子供ぐらい。大抵数匹の群れをなして襲ってくる。
となっている。
中立生物はハッコウナメクジとミニグモ。この2種については名前のまんまだ。
とりあえず生息地が1番近いレッサーバットから見に行こうかな。
俺は安全地帯を後にして無数にある小道の方へと向かっていた。
大きな通路には灯りはあるが小道には灯りはない。
俺は持ってきたランタンに油を入れ火打石で火をつけた。
よーく目を凝らし一歩一歩歩いていく。
5分ほど歩いた頃だろうか、鼻にツーンとした刺激臭を感じるようになった。
「これは…間違いないコウモリの糞尿の匂いだ。」
さらに数分歩くと匂いも濃くなり足元に水溜りが見られた。
「レッサーバットの棲家は変わってなさそうだな。」
安全地帯から西へずっと歩くと水源のあるそこそこ広い道へ出る。ここはレッサーバットの巣となっていて糞尿まみれの床、天井には無数の目玉というそこそこの地獄が形成されている。
レッサーバットは一体一体は非常に弱いためこいつで死ぬ冒険者は少ない。が、これだけ群れていると話は別だ。
1階層で見られる主な冒険者の死因は巣に迷い込んで嬲り殺されることであるため「中級者であってもレッサーバットの巣には近づくな。」と言われることもある。
こんなとこにノコノコ近づくのは俺ぐらいだろうと自負するぐらいだ。
さて、そんな棲家に今から向かうわけだが、ノコノコ行って嬲り殺されないように少し準備をしていく。
俺はおもむろに床に落ちてる糞尿を掬い取り、顔、足、腕など肌の露出している部分に塗りたくり始めた。
途端に俺の体を刺激臭が包み込む。
「くっせ~、でもこれが大事なんだよなぁ」
俺が調べた通りだとレッサーバットはコウモリのくせに超音波を使わず、クソでかい一つ目を持ってるくせに目が悪い。故に匂いで敵味方を判別している節がある。
よって彼らのドギツイ糞尿を身に纏えば、よっぽど敵だとは認識されないと言う理論だ。
我ながら完璧だと思う。
ここからは光もあまり出したくないのでランタンに黒い布を被せ最小限の灯りで行動する。
こんな時、暗視の魔法があればなぁ…。
だがあいにく俺に魔術の才能は無い。俺が使える魔法は微風をおこす、飲み水を出すっと言った「ちょっと生活お役立ち魔法」ぐらいだけだ。
水脈に沿って歩くほど5分、2匹のレッサーバットに出会った。
「そろそろ巣だな」
レッサーバットと目が合うが華麗に見逃される。
やはり糞尿を身に纏うのは効果大だ。
それにしても、この黒と紫が混じった色。真っ黄色の大きな単眼。コウモリのくせにずんぐりむっくりなところなどコイツはなかなかチャーミングなポイントを持っている。
少し立ち止まって2匹のレッサーバットを観察する。物音も立てずにじっくりと。
すると2匹のレッサーバットは互いに顔を見合わせて…目をピンク色へと変化させた。
「おっ、コイツおっ始める気だ」
レッサーバットの発情期は不定期で予測は困難である。しかし発情期になってレッサーバットは目がピンク色に変化するので一目瞭然だ。
本当は交尾シーンをまじまじと観察して文献に残したいが、発情期中のレッサーバットは気性が荒く何故か視力も良くなるため離れることにした。
道中、何匹も見かけたがスルーをすることにした。
「うーん、なんで発情期になると視力が良くなるんだ?目の構造自体が変わるのか?」
とコウモリの目ん玉について考察しながら歩いていると洞窟湖に行き当たった。
俺が知る限りここがレッサーバットの最大の棲家となっている。
湖の上の天井には黄色の目玉が何百個も張り付いて…………
張り付いて……いなかった。
「待て待て待て」
「どう言うことだ、先月見にきた時は何百匹も居たのに!」
数百匹どころか1匹も見当たらない。やはり深層から新たな魔物が出現して生態系を乱してるって噂はほんとか!?
いや、ちょっと待て、冷静になれ。
俺は湖に目を向ける。湧水と糞尿が混じって独特な色を出している湖は先月と一緒の色をしていた。
また湖を環状に囲う道にも彼らの糞の痕がある。
道に落ちた糞を見る。湿り気があって乾いていない。
つまり彼らは先刻までここにいたと言うことだ。
あと考えられるのは…狩り、侵入者の排除。
それくらいか?
歩きながら思案をしていると突然、大量の羽音と甲高い女の悲鳴が聞こえてきた。
「だれか、だれかぁー!助けて!!!!!!」
どうやら悪い予想は的中したようだ。
俺は急いで声の元へ向かう。この女との出会いが数奇な運命の始まりになるとも知らずに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます