⓹ 過去からの手紙《返信》菊池 武光➠母上

 母上へ


 どうやら、俺は『令和』という時代に、たどり着いてしまったらしい。

 俺は博多の合戦の最中さなかにいたはず。父上、兄上とともに大友に討たれるはずが、気付いたら、この世界にいたんだ。

 の言葉では、と呼ぶようだ。


 信じられないことであろう? でもそれが現実に起こってしまったようだ。


 して大いに戸惑った。

 ここには筑前国ちくぜんのくにはなく、福岡市という地名に変わっていたのだ。

 福岡市には、筑前国では見ないような、髪の毛が黄金の者、天狗の如く鼻が高い者、明らかに大和言葉とは異なる言葉を話す者が多くいるような、俺の知らない世界がそこにはあったのだ。


 一方、の世界には弓矢を携えている者も、馬に騎乗している者もいない。武術に長けていても役に立たず、神への信仰心もなじまない。むしろ、神への強すぎる忠誠心は時に人を遠ざけ、武力による解決は刑罰を科される行為となる。

 代わりに、と呼ばれる雷に似た力で、夜なのに町は煌々と光り輝き、馬車ではなくと呼ばれる移動手段で、数日で千里の距離を駆け抜ける文明を築いていたのだ。

 そして、神頼みなどせず、と呼ばれる、草鞋わらじよりも小さいが、千里の彼方まで映し出す、奇々怪々な手鏡のようなもので未来を予知し、問題を解決しているのだ。


 嘉暦かりゃく元徳げんとくの時代では考えられないほど、平和で、豊かで、便利だけど複雑怪奇で、人は優しいが、人間同士の関係は希薄で、700年も未来になると、日本やまとは別世界である。

 何から何まで、勝手が違うのだ。


 しかしながら、如何様いかように筑前国に戻るか、その前に如何様に手紙を送るのか、皆目見当がつかぬ。そもそもこの手紙はどのようにして届いたのか。令和の人間に問うても、誰も答えは持っていないのだ。


 しかし、必ずや筑前国に戻り、父上や兄上の仇を取り、母上を助ける。

 人間や手紙が、するのなら、必ず時代間を行き来する扉があるはずだ。


 俺は、令和の文明を持ち帰り、菊池を、そして九州を、必ずや繁栄させてみせます。


 それが、俺に課せられた使命だと思って。


   菊池 武光

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