川の畔

双葉紫明

第1話

僕の店は川の畔にある。

山間過疎地とはいえ、日帰り観光で賑わい車通りの多い国道交差点に位置している。

屋号は「料理 畔」。

「畔」に決まった呼び名はなく、思ったように読んでくれという、ふざけたものだ。

よって、正式名称は「りょうり ほとり、またはくろ、もしくはあぜかはん」であるが、仕入れ先や諸々の便宜上から、僕は「くろ」としている。

地元の年配の女性が「ああ、川の畔(くろ)な」と言ったのが、その由来だからである。

基本的に予約制だが、タイミングが合えば飛び込みのお客様も迎えている。

畔とは、川を眺めるのも、入って行くのも、また、川から上がる岸辺としても、すぐそこで環境が変わる場所。

現代では道路はある種川みたいなもので、流れに乗ってしまえば景色は過ぎて行く。

その中で、人は良さげな畔を探して休む。

僕はこの地の魅力を伝える畔のひとつとして、より本来的な生活に想いが至る場所にしたいと願っている。

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