第002話 双子、荒ぶる

「おい!ふっざけんな、もう一回言ってみろ!」

 

 園庭では赤毛の少女が数人の子ども達を相手に怒鳴っていた。後方でブランコが大きく揺れている。先程の音はこれかと加護かごは思った。

 

「姉さん、もういいよ」

 

 少女の後ろで赤毛の少年がその身を隠しながら控えめに宥めている。

 

「いくない!マオはもっと怒れ!」

 

「ええー……」

 

 ショートボブの襟足の毛がピンピンはねて、少女の荒い気性を表しているようだ。

 

 逆に後ろで困っている少年はストレートのショートヘアでサラサラキューティクル。だが何故か一束だけ明後日の方向を向く髪の毛が揺れている。


 

「おい、タロイモ!マオのどこが女々しいって!?」

 

 少女は子ども達の首領格の少年に食ってかかっていた。

 

「ああ?女々しいだろ、いっつもお前の後ろにくっついて泣きそうな顔しやがって!」


 少女の二倍はありそうな体で迫る少年にも、少女は怯まずに立ち向かっている。

 

「この、凛々しい顔のどこが泣きそうだって言うんだよ!」

 

「ああ、そうだな!お前らは顔がそっくりだからマオだってお前みたいな乱暴な顔もできるんだろうな!」


「あたしが乱暴な顔だってぇ!?」

 

「女なのに乱暴で、男なのに弱くってヘンなの!」


 首領格の少年がそう言い放つと、少女は顔を真っ赤にして怒鳴った。

 

「タロイモ!お前、だんじょびょーどーって知らないんか!サベツだかんな!」

 

「うるせえな!タロイモって呼ぶな!お前らなんか顔がそっくりで気持ち悪りぃんだよ!」


 繰り返される侮蔑的な呼び方に少年の方も本気で怒ってしまったようだった。売り言葉に買い言葉とは言え、自分達のアイデンティティをけなされた少女は跳ねた髪の毛を更に逆立てる。


 

「こお、の……!」


 次の瞬間、少女の瞳が緑色に光った。右手にはエネルギーが込められていく。少女の右腕は弟の少年がぎゅっと握っていた。

 

「はい、ストップ」


 加護はその姿を確認した後一瞬で距離をつめて、少女の右手とその腕を握る少年の右手も離して左右に捕まえた。

 

「ぎゃん!」

 

「ひっ!」


 少女も少年も掴まれた右手から力が抜けていくような感覚に驚いて叫ぶ。


「ピースの力をそういう事に使ってはいけないんだよぉ」


 加護は冷静に微笑みながら掴んでいる手を離さずに二人に話しかけた。

 

「離せ!」

 

「ご、ごご、ごめんなさぁぁい!」


 二人の反応は両極端だった。少女は暴れだし、少年は泣きだす。

 その手をしっかり掴んだままで加護は少し脅してみた。こういう問題児には最初が肝心だ。

 

「次にやったら刑務所に入れられちゃうかもよぉ」

 

「そんな脅しに乗るか!誰だお前は!」

 

「ごめんなさい、ごめんなさい。僕だけは見逃してください!」

 

「マオー!!」


 躊躇なく姉を差し出す様に、弟の方も問題がありそうだと加護は思った。

 


「……ふう。とりあえず君達は待ちなさい。その前に君、タロイモくん?」

 

「タロウだよ!」


 憤然として言う首領格の少年も押さえたい所だったが、手が足りなかった。尤も、こちらは普通の子どもなので手を出したら加護の方が逆に逮捕される。

 だから加護はそちらの少年には努めてゆっくりと諭すように話しかけた。

 

「ごめんね、タロウくん。君は今この子達に男女差別をした挙句、暴言を吐いたよね?」

 

「うっ!」

 

「そういうのは良くないな。言葉は時にナイフよりも人を傷つけるんだよ」

 

「はぁい……」


 首領格の少年の方が幾らか大人だからだろう、少し頭を冷やせば素直な子どもに戻る。


「うん、じゃあ今度は君達だ」

 

「なんだよ、あたし達は被害者だぞ」

 

「言われただけならそうだけど、マヤちゃんは彼を思いっきり殴ろうとしたよね?言葉に対して力で対抗するのは愚か者だよ」

 

「ああ!?」


 マヤと呼ばれた少女は全く聞く耳を持たずに加護を睨みつける。それを構うと余計に図に乗るので加護は弟の方に向き直った。

 

「マオくん」

 

「はひぃ!」


 マオと呼ばれた少年はガタガタ震えて返事をしたが、それが演技だという事は加護にはわかっていた。

 

「君はこっそりお姉さんの力を増幅させたね?それは暴力に加担する行為だ、良くない」

 

「……」


 全てバレていると悟ったマオは一転して黙ってしまった。

 


「という訳で、タロウくんは彼らを馬鹿にしたこと、マヤちゃんはタロイモって言ったことを謝りなさい」


 加護は二人から手を離し、パンと叩いて三人を収めようとする。

 

「なんであたしが!タロイモはあだ名だっつーの!」

 

「本人が嫌がるのはあだ名じゃありません、いじめです!」


 マヤはそれでもギャーギャーと喚いていた。反省の色は見えない。

 

「ごご、ごめんね、タロウくん!」

 

「ああ……オレも、悪かったよ」


 だがそんなマヤを無視してマオとタロウは和解していた。

 

「お前ら、大人に屈するのか!?」


 そんな二人を責め始めるマヤに、加護もいいかげんに苛立った。

 

「はい、マヤちゃんもごめんなさい!」


 そこで加護はマヤの頭を押さえつけて無理やりお辞儀をさせる。こういう腕力で語る性格は、同じように力で屈させないと言う事を聞かない。

 

「ぐぬぬぬ……ご、ごめんなさい……」

 

「よく出来ました!じゃあ、行こうか」


 加護は爽やかな笑顔に切り替えて笑った。マヤもマオも意味がわからずにポカンとしている。


 


「あの、その……確認はできたんですか?」


 やっと現場に追いついたシスターアミアンが遠慮がちに尋ねると、加護はやはりにこやかに笑って言う。

 

「ええ。二人とも申し分ないピースです」

 

「誰なんだよ、あんた!?」


 マヤは粗暴な言葉遣いで問いかける。それにもニッカリと笑って加護は答えた。

 

「僕は、今日から君達の先生です」

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