第12話 「助けて~みらえも~ん」

第12話 「助けて~みらえも~ん」




 風呂にて俺は週末の予定を考えていた。

そろそろ、シエルの服を買いに行かないといけない。毎回俺の服を着させているが、どうしたって男物だ。もうそろそろきちんとした女の子らしい服を着せてあげたい。そう思い、お風呂に入りながらスマホをいじり、ポチポチと近くのショッピングモールを検索していた。地図を開いた後、周辺検索をかけてお店を一通りチェックする。そのブランドをさらに検索し、ネットショップで系統を少々リサーチしてみた。


いや、系統わかるわけないんだけど。

今この服が流行りなのか、何なのかわからない。

そう思い、参考になるかと、滅多に使わないインスタグラムを開いてみた。投稿もアイコンも初期設定のままのアカウントを使い、いくつかのブランドアカウントを見てみる。見たこともないインフルエンサーがメンションしてその服を着ている写真が載っていた。清楚系、量産系、ストリート系とざっくりとしたハッシュタグで調べてみたが、どの服が好みなのかがわからない。


これは、シエルに聞きながら選ぶしかないな。



でも待てよ。いくらシエルとはいえ、女の子の服を選ぶのに俺一人で大丈夫なのか…?

自分の服ですらまともにコーディネートしたことないのに。

女の子の服を選ぶなんて、正直力不足だし不安すぎる。

しかもシエルは何もわからない赤ちゃんだから俺と店に入って、「どれがいい。着たい服あるか」って言っても、「なんでもいい。渉が選んで」とか言いそう。そんなのわかるわけがない。どうしよう。




あっ。そうだ。

未来に頼もう。

未来なら多少は流行にも敏感だし、俺よりは詳しいに違いない。

「助けて~みらえも~ん!」ってね。


きも、俺。



***



 翌日。俺は少し早起きして朝ごはん兼昼ごはんの作り置きをし、シエルを起こして学校に行った。そして昼休みになった途端、真っ先に未来の教室に向かった。


「未来、ちょっといいか」

「あっ、おはー」

「おは!」

案の定、机の周りには数人のイケイケ女子が未来を囲んでいて、声をかけた瞬間に全員がこちらを見た。それが苦手だから早めに行って一人でいるタイミングで声かけようとしたのに。

「え~わたるんじゃん!!」

「ほんとだ!どうしたのぉ? みっちゃんに用かなぁ?」

その中の二人が未来より前のめりになって話しかけてきた。

「ちょ、ちょっと二人とも! 渉がびっくりしてるでしょ~」

そうです。おびえてます。察してくれるなんてさすが幼なじみ。


「あははっ。ごめんごめん!」


そう言って俺の背中をバシッと叩いたこのギャルの名前は園田かなこ。未来とは一年の頃から同じクラスでそのころから仲良くなったらしい。金髪ブロンドで少しウェーブのかかった髪からは女性らしい甘い香水のにおいがふわっと漂ってくる。俺とは数えるくらいしか話した事はないが、もうすっかり顔見知りでわたるんなんてニックネームまでつけてくれた。いわゆるオタクにも優しいギャルだ。


「んふっ。だいじょうぶ~? かなちゃん力加減しないから~びっくりしたよねぇ~」


もう一人、俺の痛がる様子を見て微笑んでいる女の子は、佐野実里である。

未来のもう一人の友達のゆるふわ系女子だ。動物で例えると満場一致でうさぎになるに違いないメルヘンさを醸し出していて何を考えているかわからないつかみどころのない性格をしている。しかし、その小動物ぶりが一部の男子には好評でかなり人気が高いらしい。園田とは違って俺に直接かかわることはないが、三人で話しているとなんてことなく俺に対しても話しかけてくれる。


「ちょ、渉ごめん!」

いいからいいから、と園田と佐野にしっしっとしながら未来が気まずそうにこっちを向いている。

「あぁ、大丈夫」

「渉から声かけるなんて珍しいじゃん。どうかした」

「あぁ、ちょっとな。今日の放課後空いてるか」

「うん。空いてるけど」


「なになにどうした!もしかしてデートのお誘い??」

園田が興味津々で会話に飛び込んできた。それに対して、未来はすごくびっくりしてしまったようだ。


「ええ!そうなの??」

佐野も続けて会話に飛び込んできた。確かに俺から声をかけて、ましてや放課後空いてるかなんて言ったことなど一回もない。珍しいことづくしできっとびっくりしているに違いない。


「いや、そうじゃなくて。ちょっと相談がありまして…」

「な、なに?そんなに深刻な話?ここで話しても大丈夫だけど」

「いや、そこまで深刻でもないんだけど。未来にしか話せないことで、ここでは言えないというか・・・」


俺は真剣なまなざしで目を見つめた。

「ええ~。なになに。そんな顔してお願いするなんて~私もすごく気になるよぉ~?」

「うちらにも教えてくれよ」

「い、いや。それは・・・」

2人も俺の話に興味津々だ。

確かに相談ごとであれば人数が多い方がいいかもしれない。だが今回は俺自身のことではなくシエルの話だからな、あまり多くの人に話すのも少し抵抗ある。

「こら、二人とも!またまた渉が困っちゃってるでしょ!」

そう言って、二人を俺から遠ざけると小声で話し始めた。



「き、きっとここじゃ言えないことなんだよ。ここは幼なじみの私が代表して聞かなきゃなんだよ」

「そっかぁ。でも何の話だと思う~?」

「なんだろな、未来にしか言えないような恥ずかし~い事だったりして!」

「ちょ、かなこ!何言ってんの!恥ずかしいことってなに・・・」

「もしかしたら、下ネタ系だったり~?」

「あ!それあるかも!」

「そ、そんなわけないでしょ!!下ネタ系ってなに!」

「俺の童貞、もらってくれ!みたいな???」

「ば、ばかじゃないの!なわけないでしょ。かなこ、ほんとやめてよ・・・」

「だってさ、うちらに言えない秘密のことなんでしょ?」

「で、でも。なんで私に」

「そりぁあいちばん仲いい女の子だからでしょ~。みっちゃん顔赤くなってるよぉ~?」

「ち、ちがうし!赤くなってないって!」

「な~に考えてんだか」

「なにも考えてない!」



あの、全部聞こえてるんですが。こそこそ話じゃなくなってますよ~。

てか、何を勘違いしてるんだあいつらは。

もしかして本当に俺がデートの話でもすると思ってんのか、まあ一緒に服見に行くなんてデートの誘い以外の何物でもないんだが。そう思ってると、未来がずかずかとこちらに近づいてきた。上目遣いでこちらを軽くにらみつけてきた。


「ここで言えない大事なことなんでしょ!が、学校終ったら昇降口で待ってるから」

「お、おう。ありがと、な?」


未来はそのまま顔を赤らめて2人のもとに帰っていった。

それだけの連絡をして俺はそそくさと教室を出た。

またあの三人組にからかわれてしまったようだ。

一緒に帰るときはいつも未来から誘われてるわけだし、俺から声をかけることもめずらしいし、「放課後空いてるか」なんて言ったことあったっけ?ってレベルだもんな。そりゃ、あんな顔になるわ。

これで週末出かけようなんて言ったらなんて反応されるのだろうか。

それにあの園田佐野ペアにからかわれて、他の女子からも不思議そうな目で見られていた気がするし、



やっぱり女の子の世界、苦手だわ…


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