能力鬼ごっこ

宮古そら

第1話

私が高校に入学して1週間たったある日の昼休み、不思議な校内放送が流れた。


『皆さんグラウンドを見てください。』


すぐにみんなが窓からグラウンドを覗き込んだ。出遅れた私は窓に近づくことができなかった。


「あれなに?」「なんかのイベント?」


グラウンドを見た生徒は困惑し、口々に疑問を唱える。人ごみをかいくぐって、ようやく私も窓に近づくことができた。すると、放送の続きが始まった。


『御覧の通り、グラウンドに一体の鬼が現れました。皆さんには今から鬼ごっこをしていただきます。』

グラウンドの奥に人に見える何かが見えた。放送で「鬼」と呼ばれたそれを見た私はなぜか少し恐怖を感じた。遠目に見えたそれが放送の通り、人ではないことが何となくわかってしまった。


「鬼ってなんだよ」「小学生じゃあるまいし、鬼ごっこなんてしないよな。」


校内の様子などお構いなしに放送は続く。


『鬼ごっこのルールは簡単です。1時間鬼から逃げ切るか、鬼を倒すだけです。』


意味不明な放送が続く中、私はこの状況に妙な不安を感じた。


『まぁ、倒すことはお勧めしませんがね。生き残れるよう頑張ってください。鬼ごっこは1分後に開始します。』


「おいおい、生き残るってなんだよ。」


一部の生徒が抗議や疑問を口にしたが、再び校内放送が流れることはなかった。


「まったく、本当に鬼なわけがないだろう。高校生にもなってそんなこともわからないのか?」


この異常事態のすべてを信じろという方が無理だ。誰かのいたずらである可能性の方が高い。

この一言でみんなは落ち着きを取り戻した。


「皆さん教室に入ってください。」


一年生の先生たちがやって来て、教室に戻り始めた。


「ねぇりっちゃん、どういうことなのかな。」


教室に戻るとき、私に話しかけてきたのは、山本やまもと綾乃あやの。中学時代からの知り合いで、入学して間もない高校で話せる数少ない友人。


「わからないけど、ここは3階だしいったん様子を見よう。」


何となく不安がぬぐえなかったが、今は様子を見ることにした。

教室は一年生から3階、2階、1階と配置されている。鬼のいるグラウンドは教室のある校舎から2階だけ下がったところにある。階数に余裕がある分一年生の空気は緩んでいた。


『あと10秒で鬼が解放されますよ。最後まで頑張ってくださいね。』


時間を告げる放送が流れた。


『10、9、8、7、6、5、4、3、2、1』


カウントダウンとともに私の不安は大きくなる。


『スタート!』


パリンッ!

スタートの合図から数秒後、ガラスが割れる音がした。音が聞こえたグラウンド側の窓ガラスに皆の視線が集まる。窓が1枚割れており、その天井には鉈が突き刺さっていた。

「今、グラウンドにいたあいつが投げたのか、、、?」

グラウンドの様子を見ていた先生がおびえたように言葉を漏らした。

ようやく状況を理解した一年生は恐怖に包まれた。




少しさかのぼり、校内放送が流れ始めた頃の職員室。


『皆さんグラウンドを見てください。』


職員室はグラウンドとは反対側に位置しており、教師陣は反応が少し遅れた。この日、このような放送をする予定はなかったことを職員室内で確認した。すると、たまたまグラウンドを見ていた教師が教室に駆け込んできた。何かはわからないけど、グラウンドの奥に誰かいるといっていた。不審者の可能性もあるため、教師陣は警戒を強めた。

まずは、この放送をやめさせる必要があると、教師数名で、放送室に急いだ。


「誰だ。今放送しているのは。」


放送室の扉を開け、教師の一人が放送者に声をかけた。


「誰もいない・・・?」


しかし、放送室には誰一人いなかった。


『御覧の通り、グラウンドに一体の鬼が現れました。皆さんには今から鬼ごっこをしていただきます。』


教師たちが困惑していると、誰もいないはずなのに再び校内放送が流れた。放送室にはオーディオプレーヤーやスマホなどもなく、録音した音声を流しているというわけでもなかった。放送設備を調べていた教師の一人が異変に気付いた。


「放送設備が動きません。」


この不審な放送を止められない。それどころか、放送室からの放送ができなくなっていた。

放送室に行った教師は急いで職員室に戻り、情報を共有した。この明らかに異常な状況に教師陣も動揺を隠せなかったが、すぐさま警戒態勢に入った。


「担任の先生は各クラスの生徒の確認を、他の先生で手分けして扉と窓と施錠に回ってください。校内に不審人物がいるかもしれないので十分に注意を。私は警察へ通報をします。」


外にいる鬼と呼ばれる不審人物を中に入れないことを最優先にし、すぐさま避難行動に移った。

他の先生が出て行った職員室に校長教頭とだけが残った。


『ツー、ツー、ツー。』


「校長、、、電話が、、、使えません。」


警察に電話がつながることはなかった。


「他の電話も使えません。」


「どうやら外部との連絡が絶たれているようですね。」


焦って他の電話を試すも、どの電話も通じることはなかった。校長が携帯電話を確認したがそれも圏外だった。

二人の頬に汗が流れた。

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