52.剛の今後
「御子柴、剛をここへ案内してほしい。くれぐれも詩織を連れてこないようにな」
「わかりました」
「北川をどうするのですか?」
「こちら側に引き込む予定の剛ではあっても、業務連絡までは聞かせられない。必要以上に怯えられても困るだろう?」
スチュワートは、一緒に連れて来れば二度手間も避けられたと言いたいらしい。だが、そうはいかない。
あいつは情報屋としても、なんちゃってのほぼ偽物。表と裏の境界線を漂い、双方に情報を流通させる者こそが真の情報屋と呼べる。
そういう意味で、既に鬼籍に入っている剛の父親:勉さんは情報屋を体現していたと思う。何度か一緒に仕事をしたことがある仲ではあるものの、剛本人にはそのことは伝えていない。
勉さんは顔を合わせる機会があれば、その度に俺の境遇を憐れんでくれた人だ。『君と同年代の息子が二人いるからね』と。
まさかその時は、大学の同期生である剛の父親だとは思ってもみなかったが。
「銃の点検するなら各自の部屋でやれ。ここの灯りは、あの水銀灯しかない。手元が暗いだろう」
命を預けることになる武器の点検は欠かせない。それが例え、ラルフの手でしっかりと整備されていたとしても。自身で確認しておかなければ、安心など出来はしない。
「ナイフ類もある。ケブラーベストは幾つかあるにはあるが、サイズが合わないようなら取り寄せる。早めに申告しろ」
「法規制を受けますがその対処は?」
「堀内さんの名前を使わせてもらおう。それで効果がないようなら大人しくしとけ。仮に捕まってもすぐに解放されるさ」
ウチの連中を逮捕してしまった警官は運がないと諦めてもらうしかない。
正規の法手続きである以上、こちらには非しかないのだが、上層部はそう受け取らない。きっと、青い顔をして謝罪にすっ飛んで来るに違いない。
「そう簡単に捕まる馬鹿はいないとは思うが……」
「ククッ、そうですな」
変に逃げ回るよりかは、さっさと捕まった方が安全ではある。その辺りは彼女らに任せたい。〝彼〟を除外した理由は、マルコは捕まるようなミスをしないからだ。
「そういや、頼んでおいたモノは用意できたか?」
「無論」
「何を?」
ラルフが取り出したのは銃弾。カートリッジとも言う。
対モンスター用にホローポイントを頼んでおいた。
「ジャケテッドホローポイントじゃねえか。普通のホローポイントで良かったんだが……まあいいか」
「突破力がある方が良かろう」
「ほう、あなたが銃を持ち出すとは珍しいこともあるものですね」
「娘がいるからな。苦手とか言っている場合じゃない。フル装備で往く。――とは言っても持ち出すのはジェリコだぞ」
俺の愛銃はジェリコ941、通称ベビーイーグル。愛銃と言う程には使い廻してもいないが、ラルフに無理矢理持たされて登録したP8に比べれば使用数は多い。
P8は本体こそ軽量なのだが装弾数が多いために、若干重い。大した差ではないのだが、近接格闘でのサイレントキルを旨とする俺にとって軽いに越したことはない。
「あとはトレンチナイフとT字ナックル、プッシュダガーだな」
専用ベストの後ろ腰にはトレンチナイフの鞘が左右互い違いに縫い付けてある。T字ナックルは腰ベルトのカラビナに通して、プッシュダガーはベストのポケットに入れている。左腕の内側にあるレールにはスローイングナイフ。右脇のホルスターにジェリコとマガジン三本を備える。
ナイフ術はスチュワートとラルフに様式が異なるものをそれぞれ仕込まれたものの、独自のものに落とし込んだがためにもはや原型を留めていない。双方の良いとこ取りをした結果、とも言う。
「そういえば……少々お待ちください」
ふと、何かを思いついた様子のスチュワートが本館へと戻っていく。
剛を待っている為、ここで待つしかないのだ。
他の連中も銃やナイフを吟味している。ケーバーナイフの刃を見つめるノーラの態度が少し気になる。うっとりしているようにも見える。
マルコに視線を向け、少しだけ顎をしゃくってみせる。気付いたマルコが答える。
「彼女、ナイフマニアなのです」
「そうか」
俺もナイフマニアではある。が、実用一辺倒で鑑賞の趣味はない。
刃を眺めて恍惚とする若い美人の姿は何と表現すべきか。単純に怖い。恋人がいるのならば、不幸そのものだろう。
「――お待たせしました。北川は遅いですね」
「遅いのは遅いけど……。お前は何を持ってきたんだ?」
「これです!」
「デザートイーグルじゃねえか! そんなもん使うくらいなら俺はライフル担ぐわ! 関節鏡手術は御免だからな」
この場合のライフルとはアサルトライフル。日本では小銃のこと。
銃床、ストックは偉大だ。反動を肩で受けられるために、肘や肩関節を痛めることもない。照準も体ごと素早く安定して狙うことができる。
だが悲しいかな。俺が登録している銃はジェリコとP8だけ。さすがに登録していない銃を、日本国内では使いたくない。
「そうだ! 剛に持たせよう」
「ん? 何だ? 何かくれるのか?」
「やっと来たか。遅かったな」
「怪しげな地下室に連れ込まれたら、そりゃ戸惑うだろ」
別に怪しくはないだろ。襲われるとでも思ったか?
御子柴の性癖はノーマルだぞ。俺たちと関わって以来、好みが外国人贔屓に変化しているようではあるが。
「まずはお祝いだ。受け取れ」
上着の内ポケットから茶封筒を取り出し、剛に手渡す。
ぴらぴらの茶封筒ではなく、しっかりとした茶封筒。横にマチがついており、カパッと開くやつ。
「こ、こんなに……いくら入ってんだ?」
親指と人差し指と中指を立てる。ちょっと日本人らしくなかった。
やり直す。人差し指と中指と薬指に変更。
「初の女児誕生を祝って……と、この間、お前の顎を外した治療費も含む。それと今後の準備金だな。剛には俺の傘下に入ってもらう」
「それ、今と変わらないんじゃ?」
「いいや、全く儲かってない情報屋は廃業してもらう。あの店は賃貸にでもしろ。そして人間を用意するから、そいつらを統括してもらう。ちなみにこれは決定事項だ。拒否権はないものと思え」
「私からはコレを」
俺の言葉を理解しようと口をパクパクとするだけの剛。
更ににダメ押し。俺が要らないと言ったデザートイーグルをそっと剛に手渡す、スチュワート。そして意味も解らず、素直に受け取ってしまう。
デザートイーグルも、ラルフとそう変わらない筋肉達磨の剛ならば扱えるだろう。
許可証は詩織のものと併せて、堀内さんに何とかしてもらおう。御子柴のストーカーだった例の彼女を引き合いに出せば、警察上層部もきっと首を縦に振ってくれるはずさ。
「あの店は!」
「知ってる。勉さんの店だろ」
「何で……」
「葬式に顔を出せなくて申し訳なかった」
通夜にも告別式にも出ていないが、勝手ながら墓参りはさせてもらった。
関係者であることを露呈するわけにはいかなかった。遺族が危険に晒されるのを防ぐためにも、俺たちが関係者であることは伏せねばならなかった。
少し多めの香典は、堀内さんの名義で収められたはずだ。
「俺は高校三年の頃から親父さんとは仕事仲間だった」
これだけ言えば、わかるだろう。
「だからこそ、お前ら馬鹿兄弟を許せない部分がある」
剛の父親:勉さんは自分と同じ道を歩ませたくないという思いから、病に侵されながらも文字通り血を吐きながら金を稼ぎ続けた。子供に上等な教育を受けさせようと。
今の俺に比べれば、遥かに立派な仕事ではある。それでも表と裏、二つの社会を行き来する器用でいて不器用な生き様だった。
ただし、親の心子知らず。
剛とその兄は父親の跡目を継ごうとした。
しかし、勉さんは何も教えていない、結果、兄はタコ部屋送り。剛はスチュワート教育を受けはしたものの、固定客など堀内さんくらいなもの。それも堀内さんと勉さんの繋がりが齎した温情に由るものでしかない。
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