第11話 暗闇の中の味覚

涼子は「虚無堂」での新たな試みとして、暗闇の中での味覚体験を企画した。今回のテーマは「ソフトクリーム」だった。この不思議な体験は、参加者に通常とは異なる味覚の探求を促すものであり、日常で当たり前に感じている味を再評価する機会を提供することを目指していた。


その日、虚無堂には新しい顔ぶれも含め、いつもの常連客たちが集まった。涼子は参加者に、このイベントの意図と彼らが体験するであろう感覚について説明した。そして、彼らが暗闇の中でどのようにソフトクリームを感じるかを見極めるため、味覚に特化した環境を整えた。


参加者たちは一つずつ席に着き、スタッフが静かにソフトクリームを手渡した。涼子は参加者に、ゆっくりと味を楽しむように促した。暗闇の中、視覚が遮られることで他の感覚が研ぎ澄まされ、ソフトクリームの冷たさ、甘さ、その口どけが通常とは異なる印象を与えた。


「今、何を感じますか?」涼子が静かに尋ねると、参加者から様々な感想が返ってきた。ある人は「通常よりも甘さが際立って感じられる」と話し、別の人は「冷たさがいつも以上に心地よい」と感じた。また、ある参加者は「暗闇だと食べる速度が遅くなり、一口一口の味がはっきりとわかる」と述べた。


この体験を通じて、参加者たちは日常で味わっている食事の感覚を改めて認識し、味覚に対する新しい理解を深めた。涼子は、この体験がただの食事ではなく、自己の感覚とじっくり向き合う時間であることを強調した。


イベントの終わりに、参加者たちは暗闇から解放された時の感覚を共有し合い、お互いの体験から学んだことを語り合った。涼子は参加者たちが暗闇の中で味わったソフトクリームの体験が、日常生活においても新しい感覚の発見へと繋がることを期待していた。


その夜、涼子は再び虚無堂の意義を確認し、この場所が提供する独特な体験が人々の日常にどれだけ豊かな彩りを加えることができるかを改めて感じた。そして、これからも更に多くの人々に虚無堂の魅力を伝え続けることを誓った。

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