五十七言目 柚木原さんとバンド
「一葉ちゃん、上手だったね」
「そりゃあ私と同じ血が流れてるし。私の方が上手いけどね」
「そこ対抗心燃やさないでよ柚木原さん。相手実の妹でしょ?「だって事実なのに……」みたいな顔されても困るよ」
フェスの帰り、私と柚木原さんは地元のファミレスでお茶をしていた。今日は一葉ちゃんのバンドがフェスに出ると柚木原さんのお母さんから聞いて、私は柚木原さんと2人で出かけていた。割と関東では規模の大きいフェスらしくて、都内に限らず色んな中学高校が出てくる中、一葉ちゃんのバンドは最後から3番目。バンドとかあんまり興味ないけど、後ろの方ってことは結構人気があるんだろうか。
「あれヨルシカだよね?「ただ君に晴れ」、私好きなんだ。それにあれもカッコよかったなぁ、「だから僕は音楽を辞めた」」
「今度一葉に言ってあげて。多分喜ぶ」
「そうだね。……っていうか、柚木原さんもこういうのやったことあるの?」
「私の方が上手いけど」と対抗していた柚木原さん。尋ねてみると「一回だけね」と頷いた。
「え?ホントに?柚木原さん、そういうの好きじゃないと思ってたんだけど……」
「うん。嫌い。でも一葉の頼みだったから断れなくて」
「意外。柚木原さん、嫌なことはやらないタイプだと思ってた」
「いやそういうタイプなんだけどさ、2年前かな?一葉の誕生日、「お姉ちゃんが文化祭でバンドやってるの見たい」って頼まれて、しかも口滑らせて「出来ることなら何でも良いよ」とか言っちゃったから……」
「なんで言っちゃったのさ……」
「だって妹にいいとこ見せたかったんだもん……」
「良いでしょお姉ちゃんなんだしそれくらい」と開き直る柚木原さん。いや別に責めてるわけじゃないんだけど、と柚木原さんをなだめようとしたところで「なんか面白そうな話してんじゃん」と誰かが私達の方に声を掛けた。
「あ、一葉ちゃん」
「どもー、氷室さん。わざわざウチらのステージ来てくれてありがとね」
「ううん、すごい楽しかったよ。ところで打ち上げとか大丈夫?」
「全然大丈夫だよ。明日焼肉いちばんで集合だし。でさ、お姉ちゃんと氷室さん、何の話してたの?」
「ほら、あれ。私が一回だけやったバンドの話」
「お、良いじゃん良いじゃん。話してあげなよ」
「私的には若干黒歴史なんだけど……」
長くて鮮やかな金髪、プラチナブロンド?を揺らす一葉ちゃんの右の目元には真っ赤なラインが稲妻みたいに下に向けて引かれている。尋ねてみると、今回のバンドのお揃いメイクらしい。そして店員さんにパフェを頼み、席に着いた一葉ちゃん。「まあ、すぐ終わるしね」と柚木原さんはドリンクバーをお代わりしてくると「何から聞きたい?」と私に尋ねてきた。
「あ、じゃあ何歌ったかとか」
「ああ。ほら、一葉のリクエストでやることになったって言ったでしょ?その時の一葉、DECO*27さんにどっぷり浸かっててね。確か5曲やって全部DECO*27さんだったかな」
「え、あれでしょ?ゴーストルール、ヴァンパイア、アンドロイドガール、ヒバナ、ヴァンパイア」
「なんで覚えてるの?」
「だってウチがバンド始めたのあれがきっかけだし。氷室さん知ってると思うけど、お姉ちゃん、めちゃくちゃボカロ曲上手いんだよ。何が良いって人力なのにボカロ特有の抑揚とかそういうのきっちり出せるからボカロ曲の味を活かしきってるっていうか、歌ってみたとかやれば天下なんじゃないかな」
「え、やだよ。歌ってみたとか原曲の検索妨害になるじゃん」
「それワンチャンヘイトスピーチだよ柚木原さん」
そして私はいちごミルクをズズズッと啜ると「でも一葉ちゃん、ボカロとかより普通のバンド曲というかそういうのメインだよね?」と尋ねる。彼女は「そっちだとお姉ちゃんに勝てないんで」と笑った。
「っていうかさ、お姉ちゃんとバンド組んでた人達って今何してるの?お姉ちゃんがギターだったから、キーボードとベースとドラム?」
「事情話して適当に音楽好きそうな娘に手伝ってもらっただけだからなー。えっと、キーボードの娘はウィーン行ったって噂聞いて、ベースの娘はニコニコでボカロPやっててミリオン行ってた。ドラムの娘は今うちの軽音部で相変わらずドラムやってるかな」
「結構なメンバーだね?柚木原さん」
「まあそこの運も含めて完璧美少女ってことで」
そう言って笑う柚木原さん。そしてその隣でパフェを頬張って「うんまぁ〜」と満面の笑顔になる一葉ちゃん。こうして見ると良く似てるな、と私はいちごミルクの入ったグラスを空にしながら考えた。
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