第12話 ガンセクトの研究
基地に無事帰りつき、それぞれの仕事を始めた。ジョージ・エヴァンスとルイス・エヴァンスはローバーの点検、アルベルト・ホフマンとデヴィッド・アンダーソンは探査で得られたデータの送信と通信業務の引き継ぎ、立花里香はガンセクトの研究をしていた。
ガンセクトは、コガネムシに似ていて、色は黄色がかった黒。硬めの甲羅の下に羽根があり、足は6本、頭には目のようなものと、口は顎が左右から挟み込むような形になっている。
「虫は苦手だし、専門じゃないのだけれど……口の形から察するに、何か噛み切るようなものを食べているのかしら。でも、この星に来てから見た生き物といえば、アルデとガニアンとガンセクトしかいないし……一応アルデを与えてみようかしら。」
生命活動を終えて、研究には使えなくなったアルデを、ピンセットで口の近くに持っていく。
すると、ガンセクトは首を少し振り、何かを確認するかのような動作をした後、ゆっくりとアルデを食べ始めた。
「あら、当たりね。ガンセクトはアルデを食べている……と。まあ、主食じゃない可能性はあるけれど、暫定的にはアルデが主食ね。貴重な資料を死なせるわけにはいかないし、飼育箱にアルデを入れておきましょう。」
-163℃の外気温室にアルデを入れた飼育箱を置き、その中にガンセクトを入れた。
「さむっ……確実にアルデが足りなくなるわね……また取りに行かないと。誰か、アルデを一緒に取りに行ってくれる人はいない?」
一方、通信室にて。
アルベルトとデヴィッドは地球に通信していた。
宇宙服のヘルメットから、映像データと通信記録をダウンロードし、それをそのまま地球に送る。データ量が多いため、送信にしばらくかかりそうだった。
「こうやって探査に参加してみてどうだったかい?」
「とても有意義な時間でした。新しい発見も2つありましたしね。」
「そうだねぇ。ガニアンの言語パターン……というか、電波パターン?がわかれば、大きな前進だね。」
「そうですね。今回は邪魔も入っていないでしょうし、解析が進むかと思います。」
「ん?邪魔が入ってないって……何故わかるんだい?前回は確か、近くにもう1人ガニアンがいたかのように、電波が被さってて解析が進んでないって話だったよね?」
「いや、私の勝手な予想ですよ。穴から飛び出してきたということは、水中である程度加速して出てきたということ。周りに邪魔になるような者はいないだろうと……あと、電波の波形を見ても、被さってくるような波形はありませんので。」
「そうかい。まあ、君が言うならそうなんだろう。俺にはわからないようなことも多いだろうからね。」
アルベルトは、電波の波形だけを見て、被さっているのかどうか判断がつくとは思えなかったが、通信が専門の人間なら、わかることがあるのかもしれないと自分を納得させた。
そんな話をしているところに、里香の通信が入った。
『誰か、アルデを一緒に取りに行ってくれる人はいない?』
「お、またか。引き継ぎはおわったし、あとはデータ送信を待つだけだろう?俺が行ってくるよ。」
「そうですね。よろしくお願いします。」
里香とアルベルトは、エアロックで落ち合い、宇宙服を着て、初日に見つけたアルデの元に向かった。
「あら……?なんだか前より黄色くなっている気がしない?」
「本当だねぇ。確か、2回目取りに来た時は写真を撮っているんだろう?見比べてみたらどうだい?」
「とりあえず写真を撮るわ……」
里香は、ヘルメットに内蔵されたカメラで写真を撮ると、端末を操作して前回撮った写真を表示させた。
「うん、黄色くなっているね。俺が見てもそう思うよ。硫黄系の色素の色かもしれないね。」
「アルデの成分を検査した時に、硫酸マグネシウムや硫酸、二酸化硫黄、三酸化硫黄が検出されたの。もしかしたら、それらの割合が多くなっているかもしれないわ。そんなものをガンセクトは食べるのかしら……」
「おや?ガンセクトはアルデを食べるのかい?」
「そうなのよ。まだ主食と断定はできないけれど、この星で見つけた生命体って、アルデとガニアンとガンセクトだけでしょう?一応主食だと思うわ。虫は専門じゃないから、なんとも言えないけれど……」
「そうだねぇ。俺も見せてもらっていいかい?というか、それならここにあるアルデは根こそぎ持っていくかい?今後どんどん減っていくってことだろう?」
「それはそうね……ガンセクトは死んだアルデでもいいみたいだったし、根こそぎ持っていってもいいけれど……これだけ基地から近い自然のアルデの観察の機会を無くすのは惜しいわ。少し残しておきましょう。」
里香は、10cm四方程度のアルデを残し、大部分のアルデを採取袋に入れた。そして、2人は基地に戻った。
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