2 チ〇コどこ……? ここ……?

 目を開ける。

 毎日のように意識すらせずに行ってきた行為へ、違和感を得る事になるとは椿己は思ってもいなかった。

 唐突な魔法陣の出現から、自身の身体が灰となり散っていく。確実な死の予感の中、自分の身体が全て消失したことをこの目で見たはずだった。

 死は二度と目を覚ますことのできない人生の終着点。それなのに今、目を開ける事が叶う。 

 つまりこれは――


「異世界転生だ!!! これ、しんけん〇ミで見た!!」

「やめなさい」

 椿己の言葉を制止するように、女性の声が響く。

「こんな低俗な物語で大手様のパロディなどしたらどんな目に合わされるかわかりませんよ? とりあえず作者が土下座させられたあげく打ち首からの煉獄送りでしょうね」

 声の主へと視線を向ける。すると、そこにはこの世のものとは思えない、美しい女性の姿があった。

 白い髪というより文字通り透き通ったガラス細工のような髪や肌は、光すら放っていてあたりを明るく照らしていた。

 そこで気づく、ここは暗闇の中だと。暗闇の中に、自分とその女性だけがいる状態であると。

「やっぱりこれしんけん〇ミで――」

「殺すぞ」

「すんません」

 美しいその容姿から出せるとは思えないドスが効いた声に、椿己もさすがにふざけるのをやめることにした。

「よくわからんけど、異世界転生ってことでおけ?」

「その通りです」

 女性はただ事実を淡々と述べる。


「私は女神。世界と世界の狭間で魂の流動を管理する存在。私は、魂のイレギュラーな流れを止められませんでした。つまり、その世界に本来存在しない理によって、貴方を死なせてしまった」


 女性――女神を名乗るその存在が口にするのは現実感などどこにもないもの。それこそアニメやラノベぐらいでしか見られなかったものだ。

 しかし現実感のないこの暗闇、そして人間とは思えない女神の姿こそが、それを事実と納得させる証拠に十分なりえた。

「ほーん」

 女神の言葉を聞き終わった椿己は、鼻をほじりながら興味なさそうな声を出した。

「……あまり驚かないのですね」

「まぁ、この状況は俺達ラノベ好きオタクだったら熟知しているからな。この後はチート能力を特典としてもらって、モンスター相手に無双。そんでもってハーレムの中で俺は世界平和をもたらすんだろ」

「ふふっ。始まる前から、貴方は勇者としての知識に溢れているようですね」

 椿己の言葉に、女神はくすりと笑う。


「一つ、質問していいか?」

「もちろんです。しかし、時間が無いので一つだけでお願いします」

 椿己は頷くと、一呼吸置く。

 正直、ふざけた態度をとっている椿己。しかしその頭の中ではいくつもの疑問がぐるぐると巡っていた。。


 自分は死んだのだろうか? どんな世界へ転生するのだろうか? チート能力はどんなものなのだろうか? ……元の世界に帰れるのだろうか? 


 ――すぐ近くにいたハルは無事なのだろうか。


 問いかけが浮かんでは、また新たな疑問の解決を求めてしまう。

「……決まったよ。今知りたい、一番の疑問」

「お答えしましょう」

 しばらく悩んだ後、椿己は中でも一番知りたい疑問を口にした。


「なんでそんなにエロい格好してるんですか!?(くそでかボイス」


「……趣味です!!(くそでかお返事」


 椿己は改めて女神のその姿を目にする。

 白い髪というより文字通り透き通った髪や肌は、光すら放っていてあたりを明るく照らしている。

 そして、何故か服装はSM嬢が着ているイメージがあるブラックレザーの衣装。18禁にならない程度に局部のみを隠すその服装は、どう見ても男子の劣情を煽るものだった。SM嬢との差は、鞭を持っているか持っていないかぐらいの差でしかない。

「あ、鞭は持ってます」

「持ってんのかい」

 この人女神じゃなくてSM嬢かもしれない。


「女神がこんな服装って普通におかしいよね。俺の息子もムクムクしちゃうぜ……って、ありゃ?」

 そう口にして、椿己は気づいた。

「無い、無いぞ!?」

 いつもこんな光景に出くわした時に、ムクムクと元気な姿を見せてくれる股間の息子、その感触がない。確かめようにも暗闇のせいで、下半身がよく見えない。

「俺のチソコ、どこやった!!??」


「あ、もう時間ですねw」

 慌てている椿己をよそに、女神は笑った。

「知識人の貴方ならば問題はないと思いますが、この先あなたは今までとは違う異世界での戦いを強いられます。既知の通り、貴方へ特典である能力を与えましょう」

 女神は胸の前で手を合わせ、目を閉じて祈る。


「勇者椿己に、聖なる加護を与えます」

 光が溢れ、視界を奪っていく。

 祈る姿を見て、椿己は最後に思う。

「……SM嬢の恰好じゃなければただの美しい女神だったのに」


   〇〇〇


 ――王城、その玉座の間。王と王妃が見守る中で、数人の魔術師、聖職者たちによる儀式が行われていた。

 玉座の間、その中心へと描かれた魔法陣。王を含め、その場にいる全員が汗とのどの渇きを感じながらも、魔法陣を見つめていた。

「この儀式が失敗に終われば、この世界は魔王によって滅ぼされる」

 震える声で王は呟いた。

「どうか、女神様。我が王国へ神々からの使者を遣わしたまえ」

 その場にいる全員が祈る。


 魔王の配下による国民たちへの被害。流通の滞りや森林の破壊による飢餓。王国の滅び、それは既に始まってしまっている。

 この国にもはや対抗できる力は無く、最後の手段として禁忌の儀式を行った。


 バチッ――と、魔法陣から青白い稲妻が走る。

「おお、これは……お出でなさるのか!?」

 王の目の前、稲妻は数と勢いを上げ、眩い光を放つ。風が吹き荒れ、玉座の間の絨毯が焼けこげる。近くにいた人々が吹き飛ばされる中、それでも王は離れようとしなかった。

 やがて光が収まるころ、白煙の中に人影が見えた。

 王はその正体を目に焼き付けようと、ゆっくりと近づいた。白煙が晴れ、その姿が露わになっていく。

 王は、問いかける。

「あなた様が、この国を救ってくださる勇者様でありますか……って、え?」

 その姿を目にした王は、目を見開いて驚愕した。


 まず、目についたのはお尻。引きこもりがちでとくにしまりもないおしりが隠されることもなく露わになっている。おしりだけではない、足も、腹も背も、腕も隠されない――それは、全裸の青年だった。

 そして何よりも異様だったもの、それは――


「チソコの感覚がないと思ったら、どういうことだこれ……」

 召喚された勇者――椿己は自分の下半身に目を向けて、驚く。

「なんで俺のチ〇コが剣になってるんだよおおおおお――っっ!!!」

 この世に生まれて18年間、共にしてきた相棒の姿は無く、変わりにあったのは白銀に輝く美しい刀身。


 棒は刀身で、玉は鍔。


 女神との対話を経て消失。


 そのチソコは、

 

 ――巨大な剣で出来ていた。

  

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