第2話
「桜、きれいだね」
“僕”が言う。
近所の大きな公園の、「さくら広場」と呼ばれる原っぱにて。そこは名前の通り、まばらに桜の木が植えられており、お花見シーズンになるととても混み合う桜の名所だ。
皆、芝生の上にレジャーシートを敷いたり、折りたたみチェアを置いたりして、ジュースやお酒や団子を片手に桜を見ている。
きれいな青空、時折吹く暖かな春風。
お花見をするには文句なしのシチュエーションなのに、今、僕の目の前には――。
「
いや、どうしたもなにも。
「なんで目の前に、僕が居るんだよ!」
「桜の季節だからじゃないかな」
「答えになってないよ! どういうこと?」
「さあね」
含みある笑みを浮かべる、“僕”。
そう、僕の目の前に居るのは“僕”だ。折りたたみのアウトドア用チェアに深く腰掛け、足を組んでいる。ちなみに僕は、その前に立って“僕”を見下ろしていた。
全く同じ姿かたち、全く同じ声音、全く同じ服装。僕の複製とでも言いたいくらい、僕と同じ存在がそこに居る。
「ねぇ、キミってドッペルゲンガーってやつじゃないの?」
「どっぺる? なにそれ、聞いたこと無いね」
「とぼけてるだろ、絶対」
こんなに似ていて、……似ているというより同じで、ドッペルゲンガーじゃないってこと、ある!?
心の中でツッコみながら、改めて僕は“僕”を見た。
珍しく今日は部活がオフで、暇を持て余していたから、母に頼まれてフラッと公園に来た。……それだけなのに。
「木の陰から、急にキミが曲がってくるんだもん! びっくりしちゃった!」
「それはこちらのセリフだよ!」
肩を竦める“僕”に対して全力で返す。
「ドッペルゲンガーって、死の前兆とか言われるやつだろ!? ねぇ、僕、死ぬわけ?」
「さあね」
「ねぇぇぇ! こっちとしては深刻な問題なんだけど!」
「そうだね、確かに……天国に行けるか、地獄に堕ちるかは深刻な問題だね」
「そっちじゃねぇぇ!」
僕のツッコミが響き渡る。こいつは一体、なんなんだ? 深刻な問題なのは、生きるか死ぬかの話だろ。
どうやら、ドッペルゲンガーと言っても、“僕”と僕の性格は違うらしい。“僕”は天然ボケって感じで、僕はどちらかというとツッコミ担当だからだ。
「え、じゃあなに。死にたくないってこと?」
「当たり前だよ! 僕そんなに、死にたいほど思い詰めている感じする?」
「いや、全く。でも近ごろの若者はすぐ『死にたい』とか言うからさ」
「偏見甚だしすぎだろっ!」
僕は思わず、ツッコミと同時に目の前の“僕”の頭を叩いた。――いや、叩こうとした。その瞬間。
スカッ。
僕の手は、何も掴まなかった。なにかに触れた感触すら無かった。
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